死んだ母からの手紙
ごきげんよう。
二日宵と申します
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ここは、ルチアナ王国の王城。
朝日の差し込む白亜の部屋で、少女は母親譲りの長い銀髪を揺らしながら机の上の一通の封書を見つめていた。
「……どういうことなのよ、これ……?」
白磁のように美しい指先が、一通の封書を震えるように掴む。
フィオナ・ルチアナ。年若くして聡明と名高い、王国唯一の姫。
しかし、その表情には困惑と戸惑いが深く刻まれていた。
その封蝋には、もう存在しないはずの紋章――母、ティアナ・ルチアナが王女時代に使っていた家紋が刻まれていた。
今朝、誰にも気づかれぬよう部屋の窓辺に置かれていたその手紙。
宛名はフィオナ・ルチアナ王女。
そして差出人の欄には、ありえない名前が記されていた。
――ティアナ・ルチアナ。
「母は……十五年前に亡くなったはずなのに。」
封を切る手が震える。
そこに書かれていたのは、ただ一行。
『あなたを愛したことだけが、私の救いであり呪い。』
それだけだった。意味のわからない言葉。けれど、どこかに真実の匂いがした。
母の死には、不可解な点がいくつもある。
フィオナの五歳の誕生日と同じ日に亡くなったこと。
たった五年しか共に過ごしていないはずなのに、母との記憶がまるで霧のように曖昧なこと。
そして今、死者から届いた手紙。
「……もう、意味が分からない……」
その時、扉が静かに開いた。
父――ルチアナ国王アクアスティードが入ってきた。
「フィオナ。手紙を受け取ったと聞いた。」
フィオナは驚き、父に手紙を差し出した。
「お父さま、この手紙……本当に……お母さまなんでしょうか?」
アクアスティードは手紙に触れた瞬間、微かに息を呑んだ。
だが、表情は崩さなかった。
「……ああ。間違いなく、あの人の筆だ。」
た。
「……お父様。私は母上の死の真相を知りたいのです。ヴィルド王国へ行かせてください。」
「……行く必要はない。」
父の言葉は穏やかだった。だが、その中に確かな拒絶があった。
「母上の死は病によるものだと、そう伺っていました。ですが――」
私は静かに父を見つめる。
「それで全てを納得するほど、私は子どもではありません。」
「……フィオナ。」
「真実を知らないままでは、前に進めません。
たとえそれが私にとって望まないものであっても。」
父はしばらく黙ったまま、両手を組んでいた。
やがてゆっくりと立ち上がり、窓の外を見つめる。
「……お前は、あの人によく似ている。強く、そして愚かしいほど真っ直ぐだ。」
その声は、わずかに震えていた。
そして、父は私の方へ向き直る。
「行くがいい。ただし、約束してくれ。」
「約束……?」
「どんな真実を見ても、自分を見失うな。」
私は小さくうなずいた。
「はい、お父様。」
父は机の引き出しから、小さなペンダントを取り出した。
銀の鎖の先に、淡い蒼石が光っている。
「それはティアナの形見だ。きっとお前を守ってくれる。」
その手が、ほんの少し震えていたことに、私は気づかないふりをした。
「ありがとうございます。……必ず戻ります。」
「ああ。気をつけて行くのだ、フィオナ。」
その言葉を聞いた瞬間、フィオナは悟った。
父は真実をずっと知っていた。
けれど、それでも言えなかったのだ。
アクアスティードは、そっと娘を抱き寄せた。
守ることと、奪うことは、時に同じ形をしてしまう。
だからこそ――
父は娘に真実を直接伝えることはできなかった。
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