第6話 地獄の番犬ケルベロス
一同、部屋の床に座ってから、新たな角度で話を再開させた。
「そもそも、だ。どうして丸石に頭をぶつけようなんてこと、思いついたんだ」
「どうしてって……」
「さては新手のマゾか」
「どんなマゾだよ」
俺は不知火にツッコミを入れてから、初めて経緯を語った。
「――というわけだ」
「どういうわけだ……? 全然訳が分からん!」
納得のいかない顔で、不知火は座布団を叩いた。
そろそろと手を挙げるのは、怜奈。
「たぶんだけど……お兄ちゃん、禁欲していたから、それで頭おかしくなっちゃったんだと思うわ」
「禁欲? あぁ、オナ禁のことか」
「……アタシ、これでもオブラートに言ったのよ、お兄ちゃん……?」
「すまそ」
俺は素直に謝った。
彗星は「ん~」と声を上げる。
「思うんだけど、卯月っちの頭がおかしくなったのは、単に睡眠不足だからじゃなくて?」
「いや、睡眠不足は解消した。昨日のことだが、昼前に病院から家に帰宅するなり、俺は今日の朝までぐっすり寝ていたのだからな」
「快眠だねん」
「ああ。そんなわけで、睡眠不足説は否定されるわけだ」
「ちなみにだけど、朝立ちはしたのかな?」
「うむ、問題なく」
「朝立ちでムラった?」
「その質問は毒だ、やめたまえ」
「あのさ、ちゃんと限界まで“あれ”を溜めないと、ダメだよ……?(ボソッ)」
「ん……おい、彗星?」
藤宮の爆弾発言が聞こえたのだろう、不知火は頬を引きつらせた。
キャラ崩壊してるぞ、藤宮。
お前、野郎を誘惑するような奴じゃなかっただろ。
「申し訳ないが、今の俺にはお前の言葉では勃たないし、性的な魅力のないお前ごときで、一ミリも勃つことはない」
「フフッ」
「得心がいかないって顔をしてるな。それなら……ほれ、彼女こそ俺が望んでいたエロスだ」
「ヘェー! ソイツ、ドコドコ?」
藤宮はキョロキョロと辺りを見回した。
俺は黙って怜奈を指差す。
どこから持ってきたのか、怜奈は卓上ミラーを俺たちに向け、自分が指を差された事実をなくそうとしていた。
「どうだ、この世が生んだキセキの美少女は」
「ウン! トッテモ……とっても“キセキの美少女(棒読み)”だねん♪」
「そうだろう、そうだろう」
満足した俺はうなずくと、劣勢にある藤宮を純粋に“応援”した。
「キセキの美少女とはいかなくとも、いつかはお前も性的な魅力のある女になれよ、藤宮」
「そうだね(嘲笑)」
気のせいか、さっきから余計な言葉があるような。
まあいい。
「ともかく、俺の頭がおかしくなったのではないことは証明されたな?」
ブルンブルンと頭を横に振る三人。
特にだが、怜奈の激しい首振りには驚かされた。
「大丈夫か、怜奈。首振りは、首振り人形に任せるんだ」
「ううんううんううんううん」
怜奈も変わってるな。
「ちょっといい?」
「なんだね、藤宮」
「やっぱ女の子は腰振らなきゃね」
「……怜奈の、腰振り」
俺の股間は膨張、それは今にもパンツとズボンを突き破らんとする。
怜奈が化け物を見たとばかり、絶叫を上げた。
「やめてええええええ!」
「だそうだ、藤宮」
「ウチじゃなくて、卯月っちね」
「むっ、そうか。それはしまった」
「いや、彗星さんもだからっ!」
「えへへ」
「……褒めてないわよ?」
怜奈はぎこちない笑みで、藤宮のこめかみを両拳で揉んだ。
藤宮は目に涙も浮かぶほど、破顔する。
「わあっ、地獄の番犬ケルベロスだぁ」
「うふっ、訳が分からないわね」
二人の“たわむれ”が恐ろしすぎて、逆に微笑ましく感じた俺は、ハハッと笑った。
「なんて“仲のいい奴ら”なんだ」
気づけば、俺の股間は豆粒のように萎えていた。
「わああ」
「うふふ」
藤宮と怜奈の上げた楽しそうなまでに妖しい声は、俺の身体をどうしようもなく震わせた。
危うく、俺は「……どれっ、週刊少年アナーキーでも“コンビニで買う”とするかな」という言葉とともに立ち上がりそうになったが、寸前で思いとどまった。
そんな言葉を言って立ち上がれば最後、処刑のために放たれた地獄の番犬ケルベロスの餌になると分かっていたからだ。
今すぐに死刑されるのを選ぶか、時期が来るのを待って処刑されるか。
俺は後者を選んだ。
唐突に怜奈はそれまでの動作をすべてやめ、俺へと振り返った。




