第1話 可愛さ百点満点中五十点の妹
この俺、卯月慶人は高校二年生にして気づいてしまった。
「頭の打ちどころが悪ければ、人間デバフで大変なことになるというが……ならば、頭の打ちどころが良ければ、人間バフを得られるのでは……!」
この日、俺はオナ禁三ヵ月記念日のため、自分の家の部屋で一人、拾ってきた小石とともにせんべいをかじって祝っていた。
とまあ、性欲とは無縁の生活を送っていたのだ。
そんなわけで……つまりはそういうことだ。
アイスもすぐ溶けてしまうような八月の夏休みの朝。
俺は誰も教えてくれなかった事実に気づくと、先日、恰幅のいいあごひげの怪しい露店商から買った、人間の顔くらいの大きさの丸石を、押し入れから勉強机の上に移動させた。
「さて……すべての準備は整った!」
あとは頭を丸石にぶつけるだけだが……はて、なんだか人の気配がするぞ。
「何奴!」
俺は目をクワッとさせ、後ろを振り返った。
「きゃっ」
椅子に座る俺の背後にいた中学生くらいの少女は、文字通り飛び上がった。
……ポニーテール、可愛さ百点満点中五十点の容姿。
「紹介しよう、いつの間にか部屋に入ってきた俺の妹……卯月怜奈だ」
「誰に紹介してんのよ。それに……何よ、その不満げのある顔は」
「別に不満げではない。それでも神は“五十点も与えてくれた”のだ。
まっ、そう酷なことを言いなさんな」
「……何かしら、その引っ掛かったような物言い。なんか心が痛むから、せめて百点にしてくれる?」
「俺も心が痛いさ。せめて七十五点でもあれば……いや! 贅沢は言わない、六十点あれば心が救われたのだから、な。む、無念!」
「あっそ。ところで、その大きな石は何よ」
「ん、大きな石とな」
正常に戻りかけた思考の俺は丸石を見るなり、先ほどの計画のことを思い出す。
その瞬間、つらく厳しかった三ヵ月間の記憶が蘇り、それでも正常な俺は石も飛び上がるような絶叫を上げた。
それに驚いた怜奈も悲鳴を上げ、「何々、なんなのなんなの?」と俺から距離を取った。
俺は笑い声を上げ、万歳の格好を取った。
「いいか、良く聞け、怜奈。だが、聞いて驚くな」
「……はあ、なんでしょう」
今や怜奈は落ち着きを取り戻していて、俺を冷めたまなざしで見るほどの余裕さえも持ち合わせていた。
俺は宣言した。
「今から俺は、この丸石に頭をぶつける」
「ん……痛そう」
「なぜ丸石に頭をぶつけるか?」
「正直、それは興味があるわね」
「頭の打ちどころが良ければ、俺はバフを得られるからだ」
「意味が分からなさすぎて、ものすごく興味湧いてきた……!」
「どうだ、興味が湧いてきたか、我が妹よ」
「ほんとはどうでもいいんだけど、なんだか盛り上がってキター!」
「うおお、キター! ……というわけで、お兄ちゃんは逝ってくるぞ」
「どこによ」
「終わることのない人の夢に……逝ってくるぜ☆彡」
「いってらっしゃい♡」
「それっ」
「……えっ? ちょ、やめ――」
ゴツン。
……前頭部に激痛あり。
意識、朦朧。
心肺、停止……?




