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4話 幼なじみアイリスと、本編のヒロイン


 沢山読んで満足したレティリアは、ふっ……と息を吐き出してから王立図書館を出た。

 いつもならもう少しゆっくりするのだが記憶が戻った今、何かと心臓に悪い。

 ちょっとの好奇心から本編に顔を出したくなるのは仕方ないとしても、それで巻き込まれてギルドに迷惑をかけることは避けたい。

 なにより、そのせいで解体屋を辞めさせられたら発狂ものだ。

 だったら、今までと同じように静かにバレずに、魔物にハァハァしながら全力で解体していたいのだ。

 過去の私と今の私。その気持ちは一緒らしく、不思議と引き摺られていた気持ちが落ち着いてきる。

 あの荒ぶっていた気持ちもだいぶ落ち着き息をつく。


「次はちょっと苦手な子の勉強でもしようかな」


 そう言って、次に読む本を思い浮かべながら自宅へと向かっていった。

 ちなみに主事情によって貸出不可となっている為持ち帰りは出来ないのだ。




「レティ、おかえり! ねぇ、今日は一緒にご飯食べましょうよ! 」


 帰りに声を掛けられて顔を向けると、手を振る幼馴染が満面の笑みを浮かべていた。

 緩く手を振り返した瞬間、雷が撃たれたような衝撃を受ける。


「………………アイリス」


「え? なに? 」


 豊かな金の髪を揺らして首を傾げるアイリスは美少女だった。

 そう、美少女なのだ。


「……絶対キャラ。罠か」


「え? 何言ってるの? 」


 不思議そうに見てくる幼馴染のアイリスにレティリアはため息を吐く。

 アイリスの交友関係は広く男女とも知り合いが多い。

 それも原作に絡んでいる理由の一つなのだろう。

 

 逆にレティリアは魔物への興味関心が強すぎて女性といても気味悪がられる事がある。

 また会話も弾まないためアイリス以外の仲の良い女性と言ったら解体場の女性くらいだ。


 だから、アイリスの交友関係は知らない。

 そう、少し離れた場所にいる数人の男女など知らないのだ。


「ねえ、たまには一緒に遊びましょうよ。レティがお仕事好きなのは知っているけど息抜きも大切よ? 」


「息抜きならしてるよ、アイリス」


「本当に? 」


 疑り深いアイリスの青い目が少し細くなる。

 悪い子ではない。レティリアを気にして声を掛けてくる幼馴染はいい子というよりちょっとお節介。

 平均よりも長身で大人っぽいからか、小柄なレティリアを常に心配する優しい子だ。


「知らない人苦手だから、アイリスと2人の時にご飯するよ」


「え、皆と一緒は嫌? 」


「私は苦手だから」


「……そうね、レティにしたら仲良くないから居心地悪いかぁ」


「うん」


「じゃあ、また今後一緒にしましょうね 」


 困ったように笑ったアイリスに手を振って離れる。

 外見だけなら人気なレティリア。

 可愛い系な顔のレティリアは、いつもシンプルでいてスポーティな服装を好む。

 それによって甘すぎずお洒落を取り入れた取っ付きやすい外見をしていた。

 その為、たまにアイリス経由でレティリアに声が掛かる事がある。

 勿論、全てごめんなさいとアイリスに断って貰っているのだが。


 アイリスはレティリアの唯一の幼馴染だ。

 何時から一緒にいたのかは、すでにわからない。

 親同士が親友で、同い年という事もあり自然と仲良くなった。

 幼い頃には手を握り、同じ服を着て遊ぶ事もあったくらいに仲が良かった。

 今では、交友関係の違いから、道ですれ違う時に会話をしたり、たまに食事を一緒にするくらいの軽い付き合いになっている。


 人懐っこい性格で、男女共に囲まれている事が多いアイリスは、当然のように騎士達とも仲が良い。

 そう、この物語の主人公は騎士で、その人目線で話が進む。大体の舞台は騎士を中心とした恋愛と魔物討伐隊の中の話だ。

 思い出すかぎりアイリスの存在はうろ覚えだからキーキャラではないのかもしれないが、確実にモブ顔ではない。


「どんな立ち位置なんだろうな……」


 そう呟いて歩いていったレティリアは、ふと前から来る女性に目が釘付けになった。

 ピンクグレージュの落ち着いた色合いの髪は緩くふわりとウェーブが掛かっていて風に揺れている。

 可愛らしいフリルの着いたワンピースを着て周りを見ながら歩く女性はレティリアと同じくらいの歳だろう。


「……………………ヒロインだ」


 まん丸バッチリ二重の目はキラキラと輝く茶色で、好奇心旺盛な眼差しで店を眺めている。

 まさに、オープニングの様子そのままだった。

 仕事の関係で実家が少し遠いことから一人暮らしを開始。

 そのヒロインが迷子になり借りた家が分からないというポンコツ具合を見せ、幼なじみでこの話のヒーローとなる騎士の青年が現れるのだ。

 

 そんなありふれた物語の開始で、おっちょこちょいなヒロインを演出させる冒頭は親友のこだわりだった。


 ふわりと髪を揺らしながらレティリアの隣を通り過ぎる。甘やかな香りをしていた。


 離れていくヒロインをチラリと見てから、レティリアも歩き出した。

 辺に関わって本編に絡んでも面倒だと思ったからだが、ここである事を思い出した。


「……………………ん? ギルドに就職しなかった? 」


 小さな不安が胸に浮かんで消えた。

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