3話 リレー小説の世界だった
ここはガウガディスタという国の王都グランティア。
そのグランティアギルドの解体部門で解体屋として働いているレティリアは、勤務して10年が経つ。
早くから見習いバイトとして解体屋に出入りしていたレティリアは、22歳で既に古株だ。
魔物は種によって位付けされていて、下から銅1、2、3、D、C、B、A、特A、特Sと振り分けられ、銅は見習いの練習となる。
昇進試験があり、受かると1つ位が上がり難しい解体が出来るようになっていて、良い魔物解体の為にみんなが腕を磨いている。
そんな場所がレティリアは大好きだった。
女性に嫌われやすい解体作業は、大好きな魔物を目の前で見るチャンスでもある。
そう、レティリアは大の魔物好きなのだ。
美しい姿、強い肢体、高い攻撃力。全てに惹かれる。その素材にすらも。
そんなレティリアは抱えた頭をテーブルに付けて細く長い息を吐き出した。
「……うん、輝きは光の中への世界かぁ」
輝きは光の中へ。
それは高校の時に親友と書いていたリレー小説である。
魔物もいるし、戦争もある。そんな殺伐とした世界なのに第3師団で騎士をしているヒーローがまったりのんびり、でも何故か武功を立てて幼なじみと愛育む話。
しっかりと戦いも書いて、恋愛も充実した話だったが、そこにレティリアというキャラはいない。
いや、腕のいい解体屋がいてそこに頼みたいといったセリフは何度か出ているのだが、その人自身が話に絡む事はなかった。
「…………そうかぁ、その世界かぁ……なら納得しちゃうよね」
学生だった前世の《私》は昔から魔物を倒すようなゲームが好きで、魔物を細かく作り込むのも好きだった。
それが影響して、リレー小説でも細かな設定やチラチラ出てくる素材に親友は作り込みすぎ! と笑っていた。
その作り込んだ魔物を、今まさに解体しているのだ。
「そりゃあ、解体屋やるよねぇ」
不思議なくらいそれしか仕事を選ばなかった。
可愛い女の子が選ぶ花屋やケーキ屋、カフェなんか目もくれず、ただ解体屋一直線に幼い頃ギルドの扉を叩いたのだ。
そんなレティリアは、今日、解体を始める短い時間で前世を思い出した。
しかも、昔のリレー小説をだ。
「ストーリーを細かく覚えてない……」
ざっくりとした内容をなんとなく覚えているが、ノート15冊以上だ。
ただ覚えているのは、レティリアは一切本編に絡んでいないということ。
「…………なら、いいかぁ」
そう呟いたのだが、それが見事にフラグになることは後からわかることだった。
それからC1体、B2体を解体して本日の勤務は終了。
作業着を脱いだレティリアは山盛りになっている大きな籠の一番上に重ねて隣のロッカーに向かった。
作業着は全てギルド支給品で、部屋の壁1面にずらりと並んでいる。
そこから取り仕事をする為、クリーニングすら要らないのは解体屋としては助かるのだ。
毎回綺麗な作業着を着用して、洗濯もギルド任せ。幸せだ。
勿論男女別、安心安全である。
「今日はブリザードドラゴン解体出来て良かったな、特A級なんて最近久しぶりだ」
ロッカーから出した私服は薄い青のロンパースで、上から大きめの白いパーカーを羽織った。
ロンパースのズボンは短く真っ白い足が出ている。
新しい靴下を履き替えてショートブーツを履くと、オフなレティリアに切り替わった。
髪を解いてサイドの髪を編み込み、花飾り付ける。
細く小さな体でブリザードドラゴンを解体しているなんて、見ても幻覚か? と目を擦る人がいる、信じられないだろう。
可愛らしい女性に戻ったレティリアは、まだ明るいグランティアに向かって歩き出した。
「…………さて、どうしようかな」
大きなトートバッグを持ったレティリアは暖かな日差しを浴びながらゆっくりと歩く。
遠くには王城が見えて、その隣には巨大な魔物討伐隊の宿舎が見える。
逆隣には、王立図書館があって様々な情報や魔導書、スクロールが並んでいるのだ。
レティリアも、魔物の勉強で良く訪れる場所であり、騎士の出入りも激しいので漏れ聞く討伐の話に耳を傾けていた。
「……うん、図書館行こうか」
頷いて中央にある移動馬車に乗る為に進路変更をした。
個別に乗る馬車も勿論あるが、レティリアが使うのは乗り合い馬車である。
しかも、一番安くて一番すし詰め状態になる馬車だ。
大きな馬車は立ち乗りも出来る前世での小さな電車みたいな形をしていて、扉がない。
ゆっくり走行する馬車に捕まり乗る人も多いのだ。
「あ、ちょうど来た」
緑の車体に今回は少ない客がゆとりをもって乗っている。
止まった馬車に乗り込み、腕に着けている魔道具を入口の横にある料金箱に翳すと、チャリーンと音がする。
身分証兼財布にもなる優れものの魔道具で、殆どの住民が持っているものだ。
ただ現金のみ利用できますと言った場所もあり、まったく現金を持ち歩かない訳でも無い。
しかし、違う世界でもお金の音はチャリーンなんだ。いや、お金大好きな親友が作ったから当たり前か……と小さく笑ったレティリアは王立図書館まで揺られてながら外を眺めていた。
街並みを眺めながら、15分程で王立図書館の前に停車した。
降りてから巨大な建物を眺める。
位置としては王城の隣だが、場所は離れていて騎士や護衛兵に守られている。
王立図書館に良く来るが、まるで観光地のように眺めるだけで王城には近付かない。近付けない。
元々門番がいて、王城自体はそのずっと奥にあるのだから見れるのは豪華な門だけなのだが。
王城の逆隣には騎士の宿舎があり、その奥に訓練場や仕事をする為の建物がある。
勿論、こっちも見に行かない為レティリアにはわからないのだが。
王立図書館の入口は階段を上がり、少し広い踊り場のような場所を挟んでまた階段があり入口に到着する。
階段の横には美しい飾り柵があり、足の悪い人には少し不親切な造りとなっている。
扉を開けて場所の案内板が壁にかかっていて、ロビーには職員が3人楕円形のカウンターに常駐している。
そこをスルーして、目的の魔物図鑑がある本棚に真っ直ぐ向かっていった。
場所は広く種類別にされていて、飲食が出来るスペースもある。
勉強をしている学生や、王城勤務の人が資料片手に食事をしているのもよく見る光景である。
その飲食が出来るスペースの比較的近くにある魔物図鑑の棚で指先をすす……と滑らせながら本を探していると、カツカツと靴音が響いてきた。
不躾に見るのもおかしいと、顔を向けずに探していると、声を掛けられた。
「悪いね、その本を取ってもいいかな? 」
「え? ……あ、はい」
指差した先にはレティリアの目の前で、少し横に移動すると目的の本を引き抜いていった。
しっかりと本を確認してから顔を上げたその人は、目に付いたレティリアが持つ本を見る。
そして、まじまじとレティリアを見た。
「……君がそれを読むのかい? えーと、魔物に興味があるのかな? 」
「え? あー……魔物図鑑好きで」
「そうなんだね。まぁ、迫力も凄いし見てるだけで面白いのかなぁ」
困ったように笑むその人は、少し暗い青い瞳を細めた。
黒髪の年配の美丈夫は、小さなレティリアから見たらとても大きい。
しかし、不思議な事に威圧感はない。真っ白の服を着ていて、服装的に回復術師だろう。
魔物は確かに怖くて見れない。ただしそれは、生きている魔物についてだ。
死んでいる魔物は容赦なく嬉しそうに、時には恍惚とした表情で捌いていく。
そんな事、外では口が裂けても言えないのだが。
あくまで嘘は言っていない。受け取り方でどうとでもなる言い方だが。
じゃあね……と手を振って離れていった回復術師を見送ってから息を吐いた。
「………………あっぶな、絶対キャラクターだ」
穏やかな笑みに、年嵩が行っているからこそ醸し出される色気が凄いイケオジ。
親友が好きそうな素敵な外見。
高身長に綺麗な筋肉、あの時ハマっていたイケオジを具現化したような外見に覚えは無いがキャラクターだと確信する。
親友が作ったキャラクターは設定がブレる事はあっても見た目に特徴があるキャラクターが多い。
大半はイケメンや美女だ。そして、沢山出てくるキャラクターにもう誰が誰だかわからなくなっていたあの頃。
親友が作ったキャラクターが、今実際に動いている。
チラリと見たスクロールのカウンター。
あそこにも、大事な女性キャラクターが仕事中だ。
「うわぁ、やっばぁ」
ひぃひぃ……と小さく息を吐き出しながら本を大事に持った。
わかりやすい、キャラクターとモブのぼやけた顔をチラチラと眺めながら貸し出しカウンターに向かって行った。