19話 食事会
テーブルの上に買ってきてくれた料理を前に、全員で乾杯をした。
巨大な紙皿に並ぶ料理達は様々な店舗で買ってきた為、統一感はまったくない。 だが、全て美味しそうだ。
楽しそうな声が響き客引き達が声高く呼び込みしているのを聴きながら、皆は通常サイズのお皿に各自取って食べている。
それにならってレティリアも取り分けちまちまと食べだした。
皆ワイワイと話しながら食べていて、食事はゆっくり進んでいる。
レティリアはいつも無言で大量に食べる為、この合わせなければいけない雰囲気は苦手だ。
解体屋の職員は、それを知っているから騒がしい中でも、もくもくと食べるレティリアに文句は言わないし、むしろ追加で皿に入れてくれる。
たまに絡まれ、面倒くさそうに腕で避けたりしながらも楽しそうな雰囲気の中食事を進められるのだ。
ユリウスや、この間のヴェルクレアにいたっては、食べ続けるレティリアが微笑ましいと見ていて問題は一切ない。
「ねぇ、レティさんはどう思う?」
急に話を振られて、ビクリと肩を揺らした。
全然話を聞いていなかったのだ。
「……あ、ごめん……なにかな?」
「あら、ご飯に夢中でした? ごめんなさいお腹すかせてたものね」
マリーヴェザーが申し訳なさそうに言うが、レティリアにはこれくらいの量はご飯に含まれないと空腹に腹を撫でる。
そして、レティリアは顔を上げた。
「自分で取りに行っていい?」
「あ、好きなやつなかった? ごめんね! 買ってくる?」
「……大丈夫、ひとりで」
そう言って立ち上がり歩き出したレティリアを全員が見送った。
「…………んー、誘ったの迷惑だったかなぁ」
今更ながらにマリーヴェザーは首を傾げた。
レティリアはいつも通りにお店をハシゴする。
レティリアを見た瞬間、店員は笑って巨大なスプーンを用意して、巨大な皿に盛り付けていく。
その皿に店の料理を順番に乗せていっていた。
「今日は兄ちゃん達はいないの? 持てる?」
「今日は違う人だから」
「あらららら」
店の人が言う兄ちゃんとは解体屋の先輩達だ。
だから、今日は荷物持ちはいない。
大皿に高く積み上げられた料理に店の人たちが全員心配そうに見ていると、たまたま食事に来たばかりのヴェルクレアが見つけた。
ヒョイと皿を受け取った私服のヴェルクレアがレティリアを見る。
「どうしたのこんな所で、ひとり?」
「いや……他にもいるけど……」
急に現れたヴェルクレアにびっくりしたレティリアは素直に首を横に振った。
そうなの? と爽やかに笑ったヴェルクレアから素敵な申し出がある。
「とりあえず、皿は俺が持つよ」
「………………荷物持ちげっとー」
「あっははははは! いいよ、好きに買いな」
大皿を片手で持つ姿を見て、先輩のように買えると目をギラリとさせたレティリアがヴェルクレアのあいている手を握りしめて歩き出した。
「これ食べる」
「はいはい」
「これ30こ」
「お、レティちゃん! 新しい荷物持ち兄さんかい?」
「財布兼任なんだ」
「兄さん自ら言っちゃうんだ! いいねぇ! 沢山買ってもらいな!」
「…………自分で買うもん」
様々な店でレティリアに声を掛ける店番たちにヴェルクレアは笑っていた。
「人気ものだねぇ」
「いっぱい買うから顔覚えられて」
「そうかぁ」
そう言いながら席に向かって歩いていった。
「………………え! ヴェルクレア隊長?! え……お皿……」
「ああ、なんだお前たちか」
見覚えしかない隊員たちに驚くヴェルクレアはレティリアを見た。
「知り合いだったんだな」
「知り合いはあっち」
指さす先はマリーヴェザーで、いつも勝手に来るマリーヴェザーを勿論知っているヴェルクレアはびっくりした。
「え? ……あー」
顔を歪めるレティリアを見て、無理やりかぁ……と納得したヴェルクレアは苦笑して頭を撫でる。
マリーヴェザーとは合わないよねと瞬時に思ったからこそ納得したようだ。
ポカンと口を開けている騎士達だったが、現れた上官を放置も出来ずに同席を進めた。
普段は穏やかで朗らかなヴェルクレアはよく食事に誘われたり同席を求められる為、笑いながら椅子に座ったのだった。
「……………………インパクトがすげぇ」
ツィードが酒を飲みながら言った。
全員がモグモグ中のレティリアを見ている。
モグモグモグモグ……モグ…………
「………………食べづらいのですが」
「あっ! ごめん!! 」
「いや、大皿からは直接は衝撃的だったから……」
これだから食べづらいのだ。
少し俯き食べていると、大皿に唐揚げが追加された。
「………………ん? 」
顔を上げると、追加で買ってきたのだろうヴェルクレアが更に唐揚げを山積みにしている。
「えぇ! 隊長乗せすぎ乗せすぎ!! 」
「え? でも、足りないよね? 」
「…………足りない」
前回の食事量は更に多かったのだ。
別に追加で買ってきたヴェルクレアはレティリアの大皿にさらに盛り付ける。
「唐揚げおいしい」
「そうかい、良かったねぇ」
もごもごと食べるレティリアのお腹を見るとあまり膨らんでいない。
本日も楽しく財布になるようで、何が食べたい? とレティリアに聞いていた。
「…………入ってるん、だよな? 」
「質量は増えてます」
「質量……」
「レティさんすげぇ」
全員驚き、マリーウェザーははわはわと震えている。
食べ過ぎだろうか……とお皿を見ていると、今度は生春巻きに似た食べ物、トゥーンカウが山積みになってきた。
野菜や肉が入って、生春巻きよりもしっかりとしたモチモチ生地の食べ物である。
様々なソースがあって、ヴェルクレアが持ってきたのは甘辛ソースとチリの2種類。
レティリアの好物の1つであり、目を輝かせた。
「乗せていいかい? 」
「だめ! ソース混ざる! 」
大皿に乗せるのを断固拒否した為、ヴェルクレアは皿を持ったまま、また周りを見ている。
トゥーンカウを見た瞬間、食事をセーブすると思っていたのが完全に抜け落ちて、ギラリとした眼差しで屋台を見た。
まるで特A級が数体来た時の獲物を狙う目である。
「……よし。もういいや」
頷いて呟くとレティリアが振り返りヴェルクレアを見る。
「ん? 」
「あんまり食べないように我慢しようと思ったけど、いいや」
我慢。そうは言っても既に大皿をペロリした後である。
だが、レティリアにしてみればかなり抑えているようだ。
意を決したようにマリーウェザーを見たレティリアは話し出した。
「私、いっぱい食べるの」
「う……うん」
「引くほど食べるけど、嫌なら他で食べるから言って」
「い、嫌じゃないよ!! 」
それを聞いて、騎士の皆様を見ると無言で頷かれた。
既に残りカスのようになっている大皿の中を食べきったレティリアは、紙で出来た大皿を持って屋台横にあるゴミ箱に捨てに行った。
あまり食べたものを置いておくのは好きじゃないレティリアは、直ぐにゴミを捨てに行く。
いつもはゴミ箱を借りてしまうのだが、今日は沢山往復しそうだ。
空いたテーブルにヴェルクレアがトゥーンカウの皿を置くと、ワクワクしながら戻ってきたレティリアが目を輝かせて甘辛ソースの方を持った。
1個1個ラップに包まれていて、ひとつずつ販売されている。その2種類をそれぞれ10個ずつお皿に乗っていた。