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18話 偶然のエンカウント


 仕事が終わり、着替えをする。

 作業着を脱ぎ捨て、私服のサロペットに足を入れた。

 白のTシャツに、かぼちゃパンツのように膨らんでいるサロペット。

 その上からグレーのおしりが隠れる長さのカーディガンを着て外に出ると、さっそくヒロインとのエンカウントを果たした。


「あ! レティさん!! お疲れ様です! 」


「………………………………」


 望んでいない出会いにレティリアは仕事終わりの疲れ以上の疲労を感じた。

 ぐったりとしていると、腕を取られて顔を覗き込まれる。

 小さいレティリアだが、マリーウェザーはさらに身長が小さい。


「これからカイト達とご飯なんです! 一緒に行きましょう! 」


 キラッキラの目で言われゲッソリとする。

 残念ながら、今ここには2人以外誰もいないのだ。


「…………いや。私は帰るよ」


「えっ! どうしてですか? ワイワイ楽しいですよ? 」


 心底驚いた様子のマリーウェザーに、断ったくらいでその反応……? とたじろぐ。

 解体班にも良く食事に誘われ、気分で行く行かないを決めるが、断ったところであっさりとしているから思わぬ反応に目を丸くする。


 [なんだよー、行かないのかよー!じゃあまたなー]


 [レティの分も食うわー]


 [いや、ぜってぇ食えねぇって]


 ぎゃはは! と笑いながら手を振る仲間たちを思い出す。いつもはこんな感じで、たまにその日の夜お土産だと家に突撃されて食べ物を貰う時もある気さくなおじさんたちだ。

 レティリアがいなくて食べきれない量が残り持ち帰りした時もあるのだが。


 だから、断ってもこんなに粘る子は中々いない。

 今も腕を掴み誘い続けている。激しく面倒。


「前はカイト達ともお話出来なかったじゃない? だから、今日はゆっくりお話出来ますよ! 沢山いる訳じゃないから!」


 5人だけです!

 胸を張って言うマリーウェザーに首を横に振る。

 知らない人5人にマリーウェザー。死ぬ。


「いきましょー! この前会ったリオネルもいますよ!! 」


 リオネル。

 それは主人公の弟の名前だ。

 性格が真逆の弟は、レティリアのリボンを大人しく受け取り、あれからリボンを愛用しているらしい。ユリウスからの情報だ。いらない。

 行きたくない行きたくない……と首を振るが、ごねるマリーヴェザーにどんどんしんどくなってきた。諦めないコイツ……とカクリと頭を垂らした。


「………………わかった、行く」


「わぁ、やったー! 」


「…………お金下ろしていい? 」


「え?奢ってくれるよ? 」


「…………え、奢り前提……」


 フワフワの頭は相変わらずフワフワだった。

 引き攣る顔を必死に耐えて、マリーヴェザーにお金を降ろすと言い張った。

 ちなみに、ヴェルクレアの時はちゃんと払おうとしたが、おじさんに見栄を張らせてよと笑って言われて引き下がったのだった。


 親友の常識にはちゃんと銀行が存在した。

 だから、この世界にも銀行と同じ組織があって、安全にお金や貴金属を預けられる。

 銀行には地下に巨大通路があり、個人資産がしまわれている。

 小さな部屋だったり、大きな部屋だったり様々なのだが、そこにレティリアも勿論預けている。

 銀行窓口で受け取る事も出来るし、直接部屋にも行けるのだ。

 管理目的で行くのは本人か子供の場合は親のみである。


 レティリアは窓口でお金を貰いそれを財布に入れると、その金額にマリーウェザーは目をむいた。

 新人ギルド員の3ヶ月分程の給料だ。

 これでもレティリアは勤続年数が長く、特S級も捌ける解体班の中でもかなりの高給取りである。

 インセンティブだけでギルド職員平均二ヶ月分をひと月で稼ぐ。

 その他に給料、特A級S級解体のボーナスと年2回の通常ボーナスが付くので大食いレティリアでも使い切れない程の貯蓄が出来ていた。

 さらに定期的に義兄ユリウスからの入金もある。

 あちらも言わずもがな高給取りである。

 ご飯をたらふく食べるレティリアが空腹にならないようにとの事だが、銀行の部屋はもういっぱいだ。


「…………え、凄いお金」


「ご飯食べるから」


「えっ……私も持って行った方がいいかな……」


 恐る恐る銀行からお金を下ろすマリーウェザー。

 勿論常識的な金額である。

 しかし、先程のレティリアを見ているから不安そうだ。

 

 マリーウェザーと数回昼食を食べていて、山のようなサンドイッチを食べているのにマリーウェザーは見ていないのか大食いに気付いていない。

 ちなみに、サンドイッチは昼食時間に間に合う為の食べやすさからで、仕事終わりには空腹で死にそうになっている。

 だから、今も空腹なのだ。お腹がキュルキュルと鳴いた。


「お腹すいたよね、早く行こう」


 お財布を鞄にしまって中央広場へと向かったふたりは、端の方で立っている5人の男性を見つけた。

 そのうちの2人は良く似た顔をしている。

 片方は短髪で、片方はセミロング。

 どちらもフワフワしているが、カイトは髪を撫でつけて騎士らしくセットしている。

 リオネルティールはあの日あげた茶色のリボンで緩く結んでいるようだ。

 他にも騎士がいて、5人で賑やかに話をしていた。


「あの5人、特に仲良しなの」


「………………そうなんだね」


 よく男5人の中に女1人で飛び込めるものだと関心する。

 近付きいつもならカイトの名前を大声で呼ぶのだろうマリーウェザーが手を上げようとした時、レティリアが気付いて腕を掴んだ。


「外だから大声はやめて」


「え? そっか、ごめんね」


 顔を赤らめて慌てるマリーウェザーは、教えてくれてありがとう……と呟いた。


「カイト、皆お待たせ」


「マリー!!…… と、君はこの間の」


 カイトの顔が見てわかるくらいに明るくなったが、レティリアを見てから眉を寄せる。

 女友達にはマリーウェザーがべったり引っ付くからカイト的には注意している事だった。


「仕事終わりに会ったから誘ったの! 皆で食べに行こう! 」


「………………そうだね」 


 チラッとレティリアを見てからマリーウェザーを見るカイトは目尻を下げて笑った。


「この間来てた子だよね、よろしく!おれツィード 」


「回復術師のマティスです」


「なぁなぁ、なんで肩車してんの? 」


 いきなり話しかけられて困惑したレティリアは、小さく頭を下げてから1歩後ろに下がった。

 あれ? と首を傾げる男性陣、マリーヴェザーはレティリアに近づき聞いた。

 随分と顔を歪ませてびっくりしている。


「どうしたの?!」


「人いっぱい、死ぬ」


「あっ……ごめんね! いきなりほぼ初対面5人は多かった?!」


「ガツガツ来るとぶっ飛ばしたくなる」


「……回復術師いるから安心かな? 」

 

「………………安心するところそこ? 」


 首を傾げあい、まったり話すふたりを周りは見ていた。

 真逆なタイプのレティリアとマリーヴェザー。

 ちゃんと話を聞くなら会話は問題ないのだ。

 ただ、めんどくさいだけで。





 挨拶をしてからさっそくご飯となったレティリアたち。

 お店に入るのではなく屋台にある料理や飲み物を自由に買って食べると決まり、まずは場所取りをしようとパラソルのある席を指さすカイト。

 レティリアがチラリと見たのはその場所ではなく店にほど近い場所取りだった。


「……向こうがいいの? 」


「お店もゴミ箱も近いから」


「……なるほどね?」


 たまたまその視線に気付いたリオネルが聞いてきた。

 ゴミ箱? と首を傾げながらも頷いたが、すでに指さしていたパラソルの場所に座っているマリーウェザーを見てレティリアは歩き出した。

 食べれるかなぁ……と思いながら。

 

 ちなみに、解体班でレティリア参加の時は最初から店に近い場所でゴミ箱を店側から借りてくる。

 店側もレティリアを見てにこやかに直ぐに貸してくれる。顔パスである。


「何食べますか? 」


「好きなの端から順番に」


「えー? 食べきれませんよー」


 ニコニコと聞いてきたから素直に答えると、笑って流されてしまった。ちゃんと答えたのにな……。


「レティリアさんお酒は飲めます?」


「ごめんなさい、飲めません」


「じゃあ、ジュースかな」


「……………………お水で」


「え? 水?」


 フレンドリーに話しかけてくる騎士たちに小さな声で返事をする。

 水と言ったレティリアに、え? いいの? といった反応で、居心地が悪いと落ち着かない。

 そんなレティリアの前にコトリと水が並々入ったコップが現れた。

 ふわりと風が吹き茶色のリボンが揺れている。


「あ、良く水って分かったなリオネル」


「たしかユリウス副隊長が前言ってたから」


「……………………リオネルが女に優しい」


 目を見開きリオネルを見る仲間たち。レティリアは黙って見るだけにしたが、ユリウスに後で問い詰めようと決意する。妹の情報をなぜ垂れ流すのだ。


「………………凄い目で見られてる」



 結局女性ふたりはパラソルに残り、リオネル達が料理を取りに行く事になった。

 レティリアは空腹の為、何を食べたいとか食事を思い浮かべていると、マリーウェザーが見てくる。


「…………なに」


「ユリウス副隊長が職場で話題に出すくらい仲がいいのね」


「……まぁね、仲はいいかな」


「いいなぁぁ、羨ましい! 」


 テーブルに頭を乗せ足をバタバタとさせるマリーヴェザーを見つめた。



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