14話 特A級解体ショー 2
「さて、じゃあガイザーディスを捌く……んん、解体するレティリアです。質問は随時受け付けるから、答えは先輩から聞いてください」
「自分でこたえろー」
「さぼんじゃねーよー」
「真面目にやれー」
「集中したいの! 」
巨体な魔物が横たわる作業台をバン! と叩くと結んでいる髪がふわりと揺れた。
そして、軽くジャンプするとレティリアの腹部くらいの高さの作業台に飛び乗る。
「ガイザーディス、特A級の魔物で形は龍によく似た形。黒い大きな羽は4枚、首が長く2つの頭に長く細くなる尾が特徴的。このガイザーディスを捌くのに注意するのは頬袋の毒と、胃に貯められている溶解液。どちらも触ると爛れたり毒をくらうから、状態異常無効アイテムを必ず持って捌く事。アイテムを持って!」
「これ見よがしに見せつけんなー! 」
「新しく買った強力な腕輪! 今見せないでいつ見せるの!! 」
キラリと光る金色の細い腕輪をチャリリ……と鳴らし、わざわざ見せつけている。
ニヤニヤと締まらない顔をしているレティリアに周りはブーイングである。
それにギルバートは苦笑い。楽しいのが好きなギルバートは、無闇矢鱈に怒ったりはしない。
むしろ悪ふざけに自ら入っていくタイプだ。
「…………じゃあ、やりまーす」
「やる気出せー!! 」
レティリアは、また軽くジャンブして首に上がる。
「はい、まずは口からダラダラと垂れる毒が危ないから、先に頭の処理をします。口や頭付近に毒を持つ魔物は一定数いるから、必ず確認するよーに。知らなくて毒を頭から被ったとか、シャレにならないよー」
そう言って、出刃包丁に似た形の巨大な包丁を身体強化した状態で上からズドン! と首に真っ直ぐ下ろして分離させる。
「ココ、首の皮は貴重だから加工で足りなくならないように首と顔ギリギリを真っ直ぐ分断させるの大事。真っ直ぐ切れたら首の切り口が滑らかになるから、ギザギザしてたりガサガサだったりしたら技術不足だから練習してね。首ギリギリがいいけど、失敗して顔切ったら色々素材が勿体ない事になって、さらに毒くらうから気を付けてー。失敗しても首は2個あるから、リベンジリベンジー」
そう言って、またズドン! と包丁を真っ直ぐ下ろした。
切り口をみんなに見せると、綺麗な肉の断片と骨が見える。
「相変わらずあいつの包丁の使い方は上手いなぁ」
「……………………え、あんな簡単に首切れるもの? 」
「いや……あの半分のサイズでも俺無理……」
「何時になったらできるんだ」
「え、あんな切り口ツルツルなる? 」
しみじみと見ながら言う先輩達を知り目にザワザワと話す低級魔物の解体をする解体員達。
ゆるーく、簡単に言いながらバスンバスンと包丁を振り降ろし切る。
「次ー、頬袋を出します。毒だから、毒耐性の手袋を重ね付けして……口に手を突っ込む」
ぐちゃ……と音がして口の中をまさぐる。
ここで袋を破ると口の中が凄まじくなる。
「頬袋は間違っても破らないようにー。破ったら手袋から出てる腕は毒で爛れて骨が見えまーす……クッソ痛いから、二度としたくない。袋は楕円形で、口腔内にくっついてるんだけど、細い管みたいので繋がってるから、その管を一瞬で切って口の中の方はこれ、テープをとめまーす」
口に入れてない方の手で、小さな四角いテープを見せてから、指先で挟んで口をがばりと開ける。
ゴキン! と音がなり、新人がビクリと肩を揺らす。
「い……今の音は……なんですか? 」
「顎の骨が外れた音。上手に外して、失敗したら骨が砕けるから素材が減るよ。顎の骨も結構使える」
ガバン! と口を開けて中を見せる。両方に袋が見えて根元を握ると、そのまま引きちぎった。
バッ! と逆の手で手早くシールを止める。
「これ、血止のテープ。特c……くらい? からよく使うから今から使い方練習するといいよ……特Cであってる? 」
「あってるあってる」
取り出した頬袋の根元を握ったまま出す。
防水の分厚い頬袋で、間違って噛んでも破れないようにしっかりとした皮で出来ている。
だが、慣れないと包丁などで破ってしまうから注意なのだ。
「私は引きちぎったけど、硬いから皮切りナイフで切り取ってね。手とか、頬袋を傷付けないように注意だよ」
次ー、とサクサク逆側の頬袋を取ったあと、ズラリと並んでいる歯を見せる。
「ガイザーディスは歯が沢山あるから、それ程貴重な素材じゃないけど、汎用性があるから綺麗に取るのがオススメ。歯切り用のミスリルの糸で切り取ってね」
硬いミスリルの糸を歯の周りにぐるりと回してキュッ……とキツく持つと、全員を見る。
「この牙はなかなか硬いから、しっかり肉体強化をして、ミスリルの糸で手を切らないように注意をして……切る」
ミスリルの糸を交差して、思いっきり引いた。
まるで羊羹を糸で切るようにスルリと歯の下を通って糸が外れた時には、キィン……と音を鳴らして床に落ちた。
「………………うん。見て、これくらいツルツルなら合格」
「出来るかー!!」
「ミスリルをそんな普通の糸みたいにぐにゃぐにゃ使えるかー!!」
「そんなスパンと切れたら苦労しないわ!」
「えー、軟弱ぅ」
「お前がおかしいんだよ!!」
特A級を綺麗にテンポ良く捌きたいティティーリアは、いちいちツッコミが入り手が止まるから唇を突き出してしまう。
「…………はぁい、次からは一気にいきまーす」
先に残りの歯と、切り落として放置されていた頭の方の頬袋と歯を一気に取り出してしまう。
次に手袋のまま目をくり出し、ザクッ! と音を鳴らして耳裏から皮を引き剥がした。
そのままガバッ! と顔の皮をめくると、肉や筋が表面に出てきたが、剥ぎ方が綺麗だから標本のようになっている。
「…………ガイザーディスはたまに頭2つのうちひとつは、解体せずにそのままで戻す指示があるから気を付けてね。しっかり確認してから作業することー」
そう言ってから、ミスリルの糸を輪にしてミスリル用の袋にいれる。
そして腰に付けたベルトのポーチにしまった後、指先で確認して皮切り包丁を取り出した。
作業中は全員ゴツいベルトをしていて、よく使う解体道具を常に身に付けている。
レティリアが使う皮切り包丁も、よく手に馴染む物で切れ味がとても良い。
「じゃあ、次は皮を剥ぎまーす。首の切り口から包丁を入れて、皮と肉のギリギリ繋がっているところから剥がすよー」
グイッ……と最初包丁を入れてズバババババババ! と音を鳴らしながら、皮を一気に剥いだ。
「…………普通、慎重に皮を取る場所だよな」
「レティといい、上級魔物解体できる奴らの手捌きは凄いわ」
「あれでまだ22だもんな、末恐ろしい」
こうして実技を含めた解体ショーは1時間程行われた。
最初は特A級を捌けると喜んだが、解体ショーは実技の見学をゆっくり見られる貴重な場である。
質問が飛び交い、レティリアは疲れていた。
どんどんスピードを上げて、無表情で捌くレティリアに、周りは慌ててもっとゆっくり! だったり、そこわかんねぇ!! と困惑や焦り、怒りにも似た声も響く。
「……………………チッ」
「舌打ちすんな!」
不満に不満をぶつけるレティリアに野次が飛ぶが、本人は至って真面目に捌いていく。
それを新人たちは目を見開いて見ているしか出来ない。
勉強もだが、やはり小柄なレティリアが何倍も大きな魔物をザクザクと切り刻む衝撃的な姿に理解が追いつかないからだ。
まだ勤務して2週間経っていない人もいる。
驚愕である。
「……みんなできるようになるからがんばれ」
なんとも棒読みなレティリアに、新人たちは無言で首を横に振ったのだった。