13話 特A級解体ショー
この日も魔物討伐隊からの持ち込みで特A級の魔物が2体持ち込まれた。
これに目の色を変える上級解体者達。
レティリアも、勿論含まれていてギラギラした眼差しで先輩を押しのけている。
まだ今日が始まったばかりなのだ、特A級は争奪戦である。
「えっと、ガイザーディスとマンマータンの2体、特A級です。どちらに……」
「「「「「こっちにお願いします!! 」」」」」
ピンッ! と伸ばされる手が数人分。
特A級は、特S級とは違う為それなりに捌ける人数がいる。
夜勤明けですら、手を伸ばして張り合っていた。
「あっ!! お前夜勤明けだろ! 帰れよ!! 寝ろ!! 」
「誰が帰るか! 特A級も最近少ないっつーのに!! 」
「私最近取られてるからガイザーディス頂戴!! 」
「レティ! Bが山ほど来てるぞ!! 」
「ガイザーディスするのぉぉぉぉ!! 」
「ここは最年長が優先だろ! 」
「ジジィは引っ込んでろ! 」
「ああん?! やんのかこらぁ!! 」
「あ……あの……えーっと……」
伝令班と運搬係が喧嘩を始めた解体作業員達に困惑してオロオロする。
何故か2人とも内股になり右往左往しているのが喧騒の中シュールだ。
「なぁーにしてる、騒がしい!! 」
「ぎゃ!! いっっっっっ!! 」
落ち着かない解体場に響く頭を殴られた音と、渋い声。
全員が顔を向けると、 何故か殴られている在籍3年目の運搬員と、腰に手を当てて呆れている解体班の長であるギルバート・センセイリブ。
既に65近い年齢で、若い頃は黒々と艶があった美丈夫も、今では髪の大半が白に変わっている。
だが肉体は鍛え抜かれていて、そこらにいる騎士など一瞬で地面に叩き落としてしまうくらいの覇気がある。
それもそうだろう、35年近く魔物討伐隊で働き怪我の為にドロップアウトした御仁なのだ。
彼が解体場に来て解体スキルが飛躍的に上がり、職員育成が捗ったのは誰の目にも明らかなのだ。
レティリアの事を理解して他言無用を貫くが、基本的には大雑把な性格で広場で肩車した最初の人物である。
魔物討伐隊の人達は、それはそれは驚いたものだった。
当時、辞めたばかりの元魔物討伐隊副隊長が少女を肩車して魔物を指さし笑っているのだから。
本人も注目されやすい人物であるのにレティリアを担いだ当時の兄の荒れようは凄まじいの一言だった。
だが、彼が居ることで解体の技術は一気に上昇した。
以前は新人が直ぐに解体に手を出すことを禁じられていたのにあっさりとやらせてみたり、今では浸透した銅1、2、3の練習もギルバートによって始められたものである。
そして、これから行われることもギルバート発案である。
「そんなに騒ぐなら解体ショーでもするか? 」
「解体ショー!! 」
「私! 私やる!! 」
「レティはB!! 」
「やだっ!! ガイザーディスすーるーのー!! 」
最早駄々っ子である。
両手を胸の前で上下に振っているレティリアを全員がギリギリと見ている。
いつもはふざける解体班の仲間たちだが、特上の魔物を前に全員がピリピリとしていた。
だれが譲るもんか!! その気迫にため息を履いたギルバートが提案した。
「………………わかったわかった。じゃあよ、次の休みにでも特A以上の魔物を狩ってくるから。これでいいだろ? 」
「何体ですか! 」
「最低5体はいるんでしょうね!! 」
「どんだけ貪欲なんだよ!! 」
激しくつっこんでくるギルバートは、真っ白な歯を見せて屈託なく笑った。
「むしろ、生きてる魔物見たいからついて行きたいくらいだよな」
「あー、このしなやかな筋肉がどう動くのか見たい」
「この翼が羽ばたく姿が見たい……」
「相変わらず怖いもの知らずだな……お前ら」
ドン引きだよ……と魔物愛を語る解体員たちを引き攣りながら見るギルバート。
勿論、特上解体が出来る人達だけで、その他の人達はギルバートと同じく引いている。