12話 マリーウェザーが魔物討伐隊に行く理由
マリーウェザーが持っていたパイを、パラソルの下にあるテーブルに広げた。
ここは中央広場から少し離れた場所で、屋台や露天商がずらりと並ぶ市のような場所。インミンという。
海外の屋台が並び道路に沢山の椅子やテーブルが並ぶ買い物の場所に憧れた親友が、色々とごちゃ混ぜにした場所である。
飲食物から装飾品、衣類品まで幅広く並んでいた。
早朝から深夜までやっていて、客足が止まらない賑やかな場所である。
そんな場所で、マリーウェザーはズン……と沈み、取り皿にパイを乗せていた。
綺麗なピンクグレージュの髪の輝きが不思議と影っているように思う。
「あの……大丈夫? 」
「はい……せっかくのお出かけなのにすみませんでした。レティリアさんに確認もしないで魔物討伐隊へ連れて行って……それに、先触れ……? とか知らなかった……」
「あー……」
先触れとは簡単に言ったら、いついつ何時に伺いたいんだけどいいですか? と手紙で確認する事。
必ず返事があるから、それを確認してから伺うのだが、貴族であるカイトによって用意された入場証明書を渡されたマリーウェザーは何も聞いていなかったようだ。
入場確認をする騎士は入場証明書を確認したら入れてくれる。
だからこそ、止められないマリーウェザーは先触れをしないで向かうことが悪い事だと思わなかったようだ。
騎士の訓練場とはいえ王城に位置する場所で、それに頭がいかないこちらも花畑なヒロイン、マリーウェザーの落ち込みは凄まじいものだった。
考え無しな行動に、今まで注意がされなかったのは本編前である事とマリーウェザーが来る時は短時間であり隊長、副隊長が不在の時が多いから。
会ってもすぐに挨拶をして帰っていたから、不思議そうに見られてはいたが強く言われなかったようだ。
なにより、リレー小説を書いていた時の前半は前世のレティリアも親友も、先触れなど頭になかった。
突撃訪問をして穏やかに笑って、訓練を見る。
カイトや他の騎士、たまに遭遇する無表情な隊長と穏やかな副隊長の美しい容姿に見惚れながら恋愛ハプニングを繰り返し、たまに魔物が来て戦って。
そんな話だからこそ、貴族がどうのこうのというのは後半になってからだった。
だからこそ、前半の頭が緩いマリーウェザーはここに来て強烈な一撃をユリウスに入れられた。
今回はレティリアがいたからだ。
兄ユリウスの唯一の家族であり溺愛している妹はギルドからの連絡が来た後、同じように大事に大事に隠し守ってきた。
そんなレティリアを連れ出し魔物討伐隊の前に引っ張り出したのだ。
優しく諭すようなことなどユリウスには出来なかった。
「副隊長……怒ってましたよね……ね、怒ってましたよね!! 」
ああぁぁぁ……と頭を抱えるマリーウェザー。
貰ったまん丸の1口パイをサクッと軽い音を立てながら食べる。
唸るマリーウェザーを見ていると、思い出した事があった。
「………………アップルパイ」
ピクリと反応するマリーウェザー。
レティリアはじっとそのパイを見る。
レティリアが家でよく作る義兄、ユリウスの好物の1つ。
そういえば、初期の頃のマリーウェザーが魔物討伐隊にあしげく通っているのは、副隊長のユリウスをひと目見るためだった。
しかし、カイトとくっつけたい親友は、尽く会わせずカイトの犬属性を磨き上げていた。
「……………………アップルパイ……は、お腹に……たまる……ので」
苦し紛れな言葉と、そらされる目線にレティリアは無言になる。
出会ったばかりの女性が、不慮の事故とはいえ自分の義兄が好きだと知ったのだ。
これは……と口をモゴモゴさせているマリーウェザーを見ながらアップルパイを食べるしか出来ない。
「………………言わないで下さい」
「兄さんに? 」
「ひぃ!! お願いしますぅー!! 」
真っ赤な顔で慌てるマリーウェザー。
それを見て、主人公のカイトを哀れんでしまうのだった。
「……まあ、いいけど」
「ありがとう!! 」
真っ赤な顔でレティリアを見るマリーウェザーから顔を逸らした。
それは、昔からレティリアを溺愛する義兄がレティリアしか見ていないのを知っているから。
勿論恋愛ではない。溺愛である。
これは報われないんだよなぁ、彼の恋愛の相手は男性だから……と遠い目をした。
うん。当時のBLにハマった私達は本当に罪深い……。