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10話 休日の外出


 マリーウェザーと会ってから4日が経過し、約束の日になった。

 寝起きのレティリアは髪をかきあげて息を吐く。


「………………ヒロインと遊ぶとか、なぜこうなった」


 本編に絡むつもりはないのだ。

 ヒロインなど、周りがどんどん集まってきてしまうだろう。なんで構うのか。

 そう不思議そうにしながらも、約束を反故にはしたくない為準備を始める。

 いつもの花飾りにふわりと揺れる髪を纏めて結ぶ。

 広がるスカートが可愛らしいワンピースを着て軽く化粧をした。

 さすがに通勤時より気を使った格好をする。

 軽く朝食を食べて、魔物図鑑を眺めていたらあっという間に時間になってしまった。

 眉が寄るのを止められないレティリアは踵の低い靴を履いて歩き出した。

 

 可愛らしいヒロイン。どうか自分以外と絡んでくれ……と願いながら。




「レティさーん!! 」


「あ……待たせた? 」


「全然!! 」


 元気いっぱいで跳ねるように歩くマリーウェザーに苦笑する。

 朝から憂鬱だったのだが、そんな気持ちでいたのが申し訳なく思えてしまう。


「では、行きましょう!! 」


「どこに行くの? 」


 手を繋がれて、引っ張られるままに歩き出す。

 行く先は馬車乗り場で、少し離れた場所に行くようだ。

 少し気になるのはマリーウェザーが持っている籠である。

 大きめの籠からはいい匂いがしていて、食べ物のような気がする。


「…………それ、潰れたらヤバいやつ? 」


「あ……そうです。差し入れにパイを焼いたんですけどね、潰れたらまずいですよね」


 あわあわと慌てるマリーウェザーの言葉に首を傾げる。

 今、差し入れと言わなかっただろうか。

 差し入れとは頑張っている人を労うために届けるお菓子など…………頑張っている人とは誰の事だろうか。

 嫌な予感がするレティリアが、マリーウェザーを見るが、気付かず潰れないようにパイの入っている籠を抱きしめている。

 乗り合い馬車は、安く移動出来るメリットがあるが、その分利用者も多く毎回すし詰め状態。

 こういった気をつける手荷物がある場合は注意が必要なのだ。


「…………こっち」


 くいっ……と引っ張り、人を押しのけて入り口から近い壁側へとマリーウェザーを押し込んだ。

 その前を陣取ったレティリアとの間に微かな空間が出来て籠を保護している。


「わ……ありがとうございます」


 キラキラとした眼差しを向けられて少したじろぐ。

 椅子にでも座れたら良かったのだが、生憎乗り合い馬車では座れるほどの余裕は無い。

 いつも仕事で発揮している身体強化をして、馬車に手を当ててスペースを作る美少女を守る美少女。なんの宣伝だ。


「今更なんだけど、どこに行くの?」


「あ! 言ってませんでしたね! 魔物討伐隊へ差し入れに行ってから屋台で食べ歩きをしましょう! 」


「…………………………魔物討伐隊に行く? え?いきなり? 」


 まさしく初耳である。

 レティさんも好きですよね! と確定事項として言われたのだが、レティリアが好きなのは討伐隊が持ってくる魔物である。

 どんな魔物か、何体か。解体出来るのか、何処まで解体していいのか。魔物の損傷具合は。

 興味は討伐隊を飛び越えて魔物一直線である。


「いや、別に興味は……」


「はい? 」 


 キラキラの目で見あげてくるマリーウェザーにクッ! と眉が寄る。

 そんな顔をされたら何も言えないじゃないか。

 以外とお人好しなレティリアは、まだ慣れないマリーウェザーに気を遣い既にお疲れ気味で、こっそり帰りたいと思っている。


「………………魔物討伐隊かぁ……連絡してるんですか? 」


「連絡? なんのですか? 」


 うーん……と悩みながらも、マリーウェザーに引っ張られて乗り合い馬車を降りた2人は真っ直ぐ騎士団の寄宿舎がある場所へと向かって行った。

 微妙な反応に、あれ? と首をかしげるがマリーウェザーは笑顔のままである。

 

「魔物討伐隊の場所に見学に行ったことあります? 」


「いや……そもそも簡単に入れないんじゃない? 」


「大丈夫です!! 」


 寄宿舎と隣接している訓練場は広く、王城の真横にあって、緊急時に駆けつけれるようになっている。

 とは言っても、マリーウェザーお目当ての魔物討伐隊はあまり王城に行くことは無く、行くとしたら隊長や副隊長が書類整理や会議で行くくらいだろう。

 騎士と言っても、王城を守り王族の警備に着くのは王家直轄の騎士と第1部隊だ。


 魔物討伐隊を含めた騎士達は、第1部隊、第2部隊、第3部隊、更にロイヤルガーディアンと呼ばれる王家直轄の騎士にわかれている。

 第1部隊は王城の警備の為、ほぼ王城での勤務となる。

 第2部隊は街中での警備や喧嘩の仲裁、犯罪者の取り締まり等多岐に渡る。常に忙しく走り回っている。

 そして、第3部隊は街の外へと出て魔物を狩り、街の平和を維持する、通称魔物討伐隊である。

 3隊の中で、1番死亡率が高く騎士の回転が早い。


「…………高校の時とはいえ、よく細かな設定考えたよね」


 ポツリと呟いたレティシアの言葉は喧騒に掻き消えた。






「こんにちは」


「お、マリーちゃんじゃないか! 差し入れかい? 」


「はい! 」


「へぇ、こりゃまたべっぴんさんな友達がいるなぁ。さすがマリーちゃん」


「ふふー、可愛いでしょ! 」


 砕かれた言葉遣いに、随分心を許している相手のようだ。

 ここに来るのもかなりの頻度なのだろう。

 確かに本作の主人公は魔物討伐隊の隊員で、仲の良いマリーウェザーは良く来ているのだが、まさかレティリアがいる時まで来るとは思わないだろう。


 入場証明書が何故か発行されているマリーウェザー。それを見せて中に入っていく。

 首から下げるタイプの入場証明書で、銅でできてるそれは保護魔法が掛かっていて破損不可である。

 親友、大切な入場証明書をなぜマリーウェザーが持っているのでしょうか。

 主人公との距離を縮める為? どんな理由で渡したの! 今現在私に迷惑が降り掛かってるよ!!

 どんな理由だったか、今さら覚えていないが、当時の執筆者2人は何も考えずにマリーウェザーに入館証を渡したのだろう。

 レティリアはまたため息を吐いた。

 親友だけを責められない。だって、かつての自分も執筆者の1人だからだ。


 引っ張られるままに歩いていく。

 ちなみに、レティリアも諸事情により入場証明書を持っているのだが使用回数は0である。

 ちゃんとした理由がある入館証だ。


「あれ、レティさん髪が黒く見える」


「え? ああ、光の加減で青黒く見える時があるから」


「へぇ、明るいブルーグレイなのに不思議」

 

 ふわりと揺れる淡い青が不意に黒く内側がブルーグレイに見えて、インナーカラーのように見える。

 綺麗ですね、と素直に褒められて少しだけ照れた。


「マリーさんのピンクグレージュのフワフワも可愛いよ」


 ヒロインだから、もしかしてその髪は素材になる……? と邪な考えがちらつく。

 良く主人公は物凄く強く、主人公の一部が……的な話がある。

 さすかにそんなグロい事はしないか……と頭を振った。

 主に血肉を滴らせるグロい系は前世のレティリアが担当だ。主に魔物。


「ここが1番隊の詰所で、向こうが2番隊。で、訓練場横の方が魔物討伐隊! 」


 全く同じ建物が少し離れた場所に3棟ある。

 寄宿舎と併設されている詰所で生活する事が多い騎士たちは、建物内を綺麗に保つ様に清潔にしているのだとか。

 それを得意げに説明するマリーウェザーに、うんうん、と素直に頷く。


 訓練場に近付くにつれて、訓練中の声が響いて来た。

 ガキン!と金属同士がぶつかり合う硬質な音も響き、普段肉を裂く音に聞きなれたレティリアは目を丸くする。


「私達は日常では聞かない音ですよね。でも大丈夫、怖くないですよ! 」


 レティリアに慣れてきたのだろう、マリーウェザーの言葉遣いが敬語とタメ口が混ざってきていて、それに気付いていないマリーウェザーは随分とご機嫌だ。

 どちらでも構わないから指摘せすに、怖くはないよと伝えると、良かった! と花が咲いたように笑うヒロインを黙って見つめた。


 

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