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第67話 箱入り娘

 扉のノックを聞き、みるが扉を開けようとしたのをバトラーがすぐに止めた。


「待て、俺が出る。洸平、しっかりお嬢様を守れよ」


「やめて、その呼び方」


バトラーが適当に返事をして、扉を開けた。その後、バトラーの短い声がしたと思うと、何かが飛び、それが足元に転がってきた。


「なっ…腕!?しかも…!?」


バトラーの左腕だった。腕の断面から出たバトラーの血が靴に染み付いた。バトラーはすぐに扉を閉め、外から入ってこれないように抑え込んだ。


「おい、何か金属を持ってこい!何でもいい、早く!」


その指示を聞いて、みるはある物を差し出した。

それは、現代の生活の生命線ともいえる携帯電話、お金、さらにゲーム機まで。


「…いいのか、みる?それ、大事な物でしょ。嫌なら別のものでもいいんだよ?」


「いい。こうでもしないと、私に未来はない。ほら、早くして」


すごい覚悟だ。やっぱりみるは強い。色々な面で。

バトラーはすぐに武器生成(ウェポネーション)を発動、全員の武器は揃った。


「ところで、扉の前にいた奴って誰だった?やっぱり魔族?」


「…いや、奴らは…」


扉が無理矢理突破され、バトラーの身体が吹き飛んだ。扉をこじ開けて入ってきたのは、黒服の男達、人間だった。ただ、様子がおかしい。

なんというか、知能を持たない野良魔族のような不自然な動きだ。


「バトラー!こいつら人間じゃねえか?殺すなよ!」


「あぁ!?これが人間だ?こいつらはもう完全に堕ちてる。原因は分からねぇが、まあ大体の予想はつく」


実際、堕ちていることには俺も同意だ。それにこの人間離れした力、スピード。決して受けきれない、追いつけないわけではないが、油断しているとすぐにやられてしまいそうだ。

この前のようにただ操られているだけではなさそうだ。考えたくないがもしかすると"(かしら)"は、


「階級者だったりするのかな、頭って」


みるも同じことを考えていたらしい。しかし、バトラーがすぐに否定した。


「違うだろうな。なにせ階級者は個人の実力で決まる、人間を殺した数じゃねぇ。仮に攻撃性能が皆無な奴でも、人間を殺すこと()()に特化した奴はかなりいる」


そう言い切った時、下の階から赤い閃光と共にものすごい轟音が聞こえた。

何事かと横目で見てみると、奈々准教授が杖を持って佇んでいた。これは魔法を放った音なのだとすぐに分かった。


「もう()()()って分かってても、あまりいい気分じゃないわね…あっ」


俺と目が合った。そして、奈々准教授は気絶させた黒服を見て、杖を構えた。まさか!

声を発する前に、魔法が放たれてしまった。

放たれた炎の一つ一つが、黒服達を跡形もなく消し炭にした。


「櫛塚、あれは人の形をした魔族よ、いや魔族の姿をした元人間と言った方が正確かしら。躊躇う必要はないわ」


そんな気はしていた。だが、心のどこかでそれを認めたくない自分がいた。黒服に剣を振おうとしても、手が震え、振り切ることが出来なかった。

 櫛塚洸平は感情があまり表情に出ない人間である。それゆえに周囲の人からは血も涙もない男、感情を失った男、冷酷な男と影で呼ばれていた。

人間関係が乏しい理由はそれである。しかし、表情に出ないだけで、人一倍他人のことを気にかけている。

そうでもなければ、ルームメイト、同期が連れ去られたわけでもなく、ただしっかり話をしたいという理由だけでこんな行動は起こさないはずだ。


「まあ、あんたにはまだ辛いわよね、こんなこと。じゃあ汚いことは私がしてあげる。その代わり、こんなことをやったクソ野郎の討伐をお願いしてもいいかしら?あんた千尋達の中なら一番強いんでしょ?」


固まってしまった俺を奈々准教授は優しくフォローしてくれた。こんな自分が情けなかった、情けないことは分かっていたが、俺は「はい、分かりました」と言うことしかできなかった。

 黒服達の猛攻がひと段落ついた時に、俺達はそれぞれで起こったことを共有した。

大まかなみるの過去や、頭の存在、そして冬崎勲が俺達を処理しようとしていることを。


「あのクソゴミ…なんであんな奴が父親だったんだろう。あんなゴミは豚箱に入ればいい」


…ん?ごみ、GOMI?ぶた…ばこ?今、お嬢様とは思えない言葉が聞こえた気がするんだが、そうか、今言ったのは奈々准教授だ。そうそう、聞き間違いだ聞き間違い。


「やっぱりあのゴミにはピーー(放送禁止用語)、そしてピーーしてピーー」


聞き間違いじゃねぇ!!なんつー言葉使ってんだよこのお嬢様は!二人ともちょっと顔引き攣ってんぞ!

恐る恐るみるにどうしてそんな言葉を知っているのか聞いてみると、不動教授の部屋に居候してる時に、ベッドの下に隠されていた漫画から知った言葉らしい。

不動教授が漫画を持っていたことは意外だったが、一体どんな漫画を読んだらこんなことになるのだろうか。あとは、みるの純粋さというか、得た知識が正しいと思い込んでしまう箱入り娘というか。


「おや、そこに隠れていたのですか?全く、突然部屋を出ていったと思えば私のボディーガード達を…」


見つかった!すぐに逃げようと体勢を整え駆け出したが、突然どこからか声が鳴り響いた。


「私の巣に忍び込んだ人間よ、今すぐに大広間に来るがいい。もしそれを拒むと言うのなら、この事を世間に公開する。あの男はメディアとも繋がりがある。あとは言わずとも分かるな?」


この声は、頭なのだろうか?それよりも、メディアにこの事を流されたらどうなるのか。当然俺は退学、バトラーは殺され、奈々准教授もただでは済まないだろう。それだけではない、滅魔隊の信頼を損ない、他のみんなにも迷惑をかけることになるだろう。

俺達は仕方なく指示に従った。

大広間に入ると、先ほどまでの空気とはまるで違った。本能的にここにいてはいけないと、そう感じた。


領域(テリトリー)が張り巡らされているわ。きっとここにいる」


奈々准教授が俺達にしか聞こえない声でそう言った。

その予想は当たることになる。

何やらカサカサと奇妙な音がして、頭が姿を現した。黒服を操り、みるの人生を狂わせた張本人である頭が。


「よく来たねぇ。そこの女から聞いているだろうが、私が"頭"だ。お前達を直々に処理してあげる高貴な頭である」






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