第64話 女の闇
冬崎財閥の屋敷までここから徒歩で2時間、全速力でいけば1時間もかからないだろう。いつもだったら全力で走っているが、今回は違う。
「ちょ、あんたたち!私はか弱い女なのよ!もうちょっと加減ってものを知らないの!?そんなんじゃモテないわよ!」
そう、清野奈々准教授がいる。この人は魔導士、いくら一般人と比べて体力があるとはいえ、前衛職(予定)のスピードについてくるのは酷だったのだろう。
俺は早く到着したいという気持ちをグッと抑え、奈々准教授のスピードに合わせることにした。
「もしかしてあんた達はいつもこんな感じなの?最近千尋が妙に活き活きしてると思ったら…いつも振り回してたのね?」
「振り回す?そんなことしてたか俺達?」
「いいや?まあ最初の方は文句ばかりだった気がしなくもないが、今は別に何も言ってこないよな?」
…振り回してるわねこいつら。で、それに千尋は適応してしまったと、まあ今後のことを考えれば…いや、千尋には普通でいてもらわないと。
「ところで奈々准教授、こういうこと聞くのもアレなんですけど、さくらさ…准教授とは仲がいいんですか?血の繋がった姉妹ですよね?」
すると突然、奈々准教授の周囲がマグマのように熱くなった。地雷を踏んでしまったかもしれない。
奈々准教授は笑顔で俺達方はの方を見た。その目の奥は一切笑っていない。
「あなた達は私とさくらが仲良く見えるのかしら?脳内お花畑のさくらと私はいつも合わないのよ。おかげで私をいつもイライラさせてくれるわ。…二度とその話題出さないでね。分かった二人とも?」
「「うっす」」
似ている。剛にマジギレした時も、こんな風に笑顔で優しく言葉を連ねていた。俺達は怒られていないはずなのに、見ているこっちも恐怖を覚えた。
口調といい怒り方といい、やっぱり姉妹なんだなと実感した。
「あれが冬崎財閥の屋敷ライトアップもされてめちゃくちゃ目立ってますね」
どれくらい目立っているかというと、イルミネーションのように煌びやかに装飾されており、そういう施設ではないかと思うぐらいだ。
俺達は門の入口へ向かったが、当然護衛の人が立っていた。
「まあ当然いるわよね。私は何度か訪問してるから問題ないと思うけど、あなた達はそうもいかないわよね。本当はこういうことはしたくないけど…」
「…ん?」
誰かが近づいてきている。こんな時間に訪問者か?
しかしよく顔を見てみると、清野奈々だった。
「清野様、こんな時間にどうされましたか?」
「どうやらここで魔族の目撃情報が出たのよ。急なことだったから、事前のアポも無しに来てしまったから念の為に勲さんに挨拶を」
「なるほど、ところで後ろの二人は?」
そういうことは以前もあった。しかし、その時にあの二人はいなかった。まさかとは思うが賊ではないか?
「あぁ、この二人は滅魔隊の前衛よ」
「前衛?失礼ながら、あなた様の実力なら前衛など必要ないと思いますが…」
すると清野奈々はおもむろに私の方は体を寄せ、私の耳元で、
「ここだけの話、その目撃されたっていう魔族、方針者らしいの。だから…ね?」
耳元がゾワっとするようなウィスパーボイスにドキッとしてしまった。彼女も姉のさくら様のような美しさとはは違い、妖艶な雰囲気を醸し出している。
「しょ、承知しました!どうぞお通りください!」
「ふふ、ありがとうね。お仕事頑張ってね♡」
「は、はいぃ!」
奈々さん…いつか告白しよう。もっと自分を磨いていい男になるんだ!
一人の護衛の人間は静かにそう決意した。
あっさりと侵入できた…護衛の人に何て言っているのか聞こえなかったが、頬を紅潮させていた。一体何を言ったんだ?
すると奈々さんは静かに笑い始めた。
「ふふふ、これだから男は単純なのよ。私がちょっと可愛く振る舞うだけですぐデレデレして…私の魅力は恐ろしいわねぇ〜」
今、女の闇を見てしまった気がする。奈々准教授は肩を震わせて笑っている。なんだか紫のオーラも見える、
「なあ洸平、女ってのはみんなあんな感じなのか?」
「…違うと思う、多分」
女性のハニートラップには気をつけよう、そう決意した洸平とバトラーであった。
奈々准教授は冬崎勲と挨拶をするために別行動となった。当然だが屋敷内にも見回りがいる。一応滅魔隊員としてお邪魔しているわけだが、まずはクラッシュの居場所を探そう。
まずはこの大きな階段を登ってから、
「おい、ここじゃねぇか?」
階段を登ってすぐに扉が佇んでいた。扉には「みる」と書かれた掛け軸がかけられている。
俺は扉を2回ノックした。しばらく無音だったが、やがてゴソゴソと音がしてから扉が開いた。
「何でしょうか、お父さ…」
寝起きのクラッシュ、いや冬崎みるは驚きからかその目を大きく見開きこちらを見た。
「どう…して?」
「クラッシュ、」
帰るぞ、そう言いかけたが今言うべきはそれではないと思った。今俺がかけるべき言葉は、
「俺は君のことをよく知らない。だから、もっと君のことを知りたい」




