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第63話 責任と覚悟

 そういうところが嫌いなのよ!洸平向かって言った思ってもいない言葉が何度も反芻する。洸平が追いかけていないことを確認した後、ひどい自己嫌悪に陥った。

あんな別れ方をするつもりはなかった。洸平に会わず、こっそりここを去るつもりだった。言葉を交わしてから別れるとなると、悲しみが増えるだけだから。それならいっそのこと"急にいなくなった奴"として謎の人として消えたかった。

それなのに洸平が来てしまった。きっと佐久間や千尋があのことを言ったのだろう。

しかし、今となってはかえって都合がいい。洸平にとって僕は嫌な奴として写っただろう。

洸平、夢のために頑張るんだよ。


「「「…」」」


 空気が重い、俺はさっきの出来事を剛も含めて話した。みんなは俺を責めることはしなかった。いつもなら何かしらいじってくるバトラーも静かだった。

この空気にさくらさんが声をかけた。


「みんな〜空気が重いわよ〜。はい、これルイボスティー、私は一旦退室するからそれ飲んだらゆっくり話してごら〜ん」


ちょうどいい温かさのルイボスティーをベットの台に置くと、さくらさんは病室を出ていった。

俺達は今後の話を始めた。


「クラッシュ、机に袋と一緒に携帯まで置いて行った、携帯での連絡は不可能。残る手段は、直接会うしかない」


「そういえば、剛はいつまで休養期間なの?」


「あと二日だ。本当は今すぐにでも動きたいとこなんだけどな」


「だったら三日後にダメ元で冬崎財閥の家に行ってみる?友達に会いに来たって言えば話ぐらいはさせてくれるんじゃないかしら?」


この場にいる全員が、それは難しいことを理解している。でも、わずかでも可能性があるならば、それに賭けるしかない。

この後詳しい段取りや作戦を話し、決行は三日後、それまで何もしないようにね。佐久間が全体にそう言ってこの話し合いは締められた。

剛を除く二人が病室から離れていくのを確認したあと、人知れず張り詰めた顔をした。


 この日はかなり冷え込む夜だった。作戦実行は三日後だが、何より現実味がない作戦に俺は納得しなかった。このままの日が経つのを待つだけでは、何か取り返しのつかないことがある予感がした。

これは誰も巻き込むつもりはない。俺が勝手にやることだから、わざわざバトラーを部屋から追い出した。

もしこれで退学になっても構わない。その時はその時だ、高校にでも入学すればいいだろう。


「やっぱりな、お前なら何か行動するんじゃないかとここに張り込んでいたが、まさか本当に来るとはな」


部屋の窓から飛び降り着地すると、なぜかバトラーが立っていた。こいつストーカーか?


「なぜバトラーがここに?」


「あんな顔をしておいて、まさかバレてねぇとでも思っていたのか?」


見られていたのか。ここでしらを切ってもいいが、バトラーには隠し事ができない。

忘れがちだが、一応従属関係であるため念話で会話は可能だ。なぜ使わないかと言うと、お互い頭の中に声が聞こえてくるのが気持ち悪いからである。


「それで?俺を止めるのか?」


「いいや、むしろ着いていくつもりだぞ?行くんだろ、冬崎財閥の家に」


やはりお見通しか、まあこいつなら大丈夫か。彼には失うものが何もないからな。


「…分かった。じゃあ、()()()()()()()()()?」


俺がそう言うと、バトラーは目を丸くしてこちらを見ていた。俺が「どうした?」と問いかけると、


「いや、お前がそうやって丁寧に頼むのが珍しいと思ってな。いつもなら『付いてこい!』って、ちょっと上からものをいうくせに」


バカにするような俺の(似てない)声真似に少しムカッとしたが、今は堪えよう。俺は適当に「ただの気分だよ」と答えた。

 俺達は物音を立てないように、寮から出た。冬崎財閥の家まではここから約10km、そこまで遠い距離ではない。家は遠くからでも見えるような巨大な豪邸だ。また、山の上に建てられているため、ある程度の方角さえわかっていれば見つけるのは容易だ。

俺達が出発しようとした時、突如声がかけられた。


「あなた達、って、櫛塚とバトラーじゃない。ここで何をしているの?夜は外を出歩いてはいけないって知ってるわよね?」


声の正体は、清野奈々准教授だった。よりにもよって大学関係者に見つかってしまった。俺達は逃げようとしたが、すぐに周りを風で囲まれた。


「動かない方がいいわよ。それ、人の指ぐらいは簡単に切り刻めるから。私は累ほど鬼じゃないから、話ぐらいは聞くわよ」


そう言うと奈々准教授は魔法を解除した。改めて見るとこの人、女性にしては高身長だ。おそらく俺とほぼ変わらないだろう(※175cm)。

俺はここまでの経緯を端的に話した。すると、奈々准教授は俺にこう問いかけた。


「櫛塚君、君は覚悟はあるの?」


「覚悟?」


「そう、今君がしようとしていることは私達に大打撃を与える可能性を秘めているわ。大学だけじゃない、滅魔隊にも悪い影響を与えるかもしれない。その責任を負う覚悟が、君にはあるの?」


責任、この言葉が俺に大きくのしかかった。奈々准教授の言う通り、これはただの思い違いかもしれない。ただそれでも、


「責任でも何でも負ってやりますよ。たとえ、一生誰かの下僕になったとしても。それくらい、クラッシュを取り戻したい」


その言葉を聞いて、バトラーはクスッと笑った。奈々准教授はおもむろに携帯を取り出し、誰かに電話をし始めた。


「あ、もしもしさくら?……黙れ」


黙れ!?何を言ったんださくらさん…


「あのお願いなんだけどさ、さくらは今街の方担当だったわよね?今日だけ私と担当変わってくれないかしら?」


「え〜急に〜?…何かあったの奈々ちゃん?」


「…別に、ただ無性に動き回りたいだけよ」


「奈々、もしかしてそばに洸平君がいる?」


何で分かるのよ、そういえば櫛塚の友達が病室にいるんだったかしら。それで事情を知ってる?いやだとしてもそれとこれとは話が違う。さくらは変なところで勘がいい。


「…まあいいわ、累君には上手いこと誤魔化すから。でもこれだけは約束して。二人とも無事に帰ること。洸平君にも伝えててね。じゃ、またね」


そう言われて電話は切られた。さくらはキモいしウザいけど、やっぱり敵わないわ。

心配そうにこちらを見てくる櫛塚に私は決断した。


「そういえば、私も冬崎財閥に用があったわ。()()()()君の用事も済ませようかしらね。ほら、付いてきなさい」


私がやっていることは、校則違反の助長。累君にバレたらひとたまりもないだろう。でも、そんなことはどうでもいい。

正直私も冬崎財閥のことは気になっていたし、互いの利害は一致している。


「はい!ありがとうございます!」


「シッ!…声が大きいのよバカ」


私達は冬崎財閥の豪邸へ向かい始めた。



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