第61話 トラブルメーカー
あー、やられたか。しかも、一人の人間も殺せずに。でもなぜだろうな、なぜこんなにもワクワクしているんだ?今から俺様の体は消えるというのに、胸の高鳴りが止まらない。
そうか…俺様は楽しかったんだ。俺は正直人間のことなんかどうでもいい、ただいろんな奴、できれば強い奴と戦いたかっただけなんだ。
「…何泣いてやがる、ステラ?俺様がやられたことがそんなに悔しいのか?」
「いや、君にはすごい迷惑をかけたなと思って。僕が戦闘能力を持たないがために、君にばかり面倒事を押し付けて…でも、もうそれも終わりだよ」
俺が体を動いてる間何も言ってこないコイツの本音に困惑した。いつもと雰囲気が違うステラに俺様は違和感しか感じなかった。
「確かに、お前が無能なおかげで俺は毎回疲れるわ、魔力も枯渇しそうになるわ、お前のその膨大な魔力を寄越せと何度思ったことか…だが、なぜそんなことを今になって言った?」
「簡単なことだよ、お前を、サンダースを傷つけたくなかいから。君にただ伸び伸びと動いてほしかったんだよ。こういう風に他者を気にかけて行動することを、人間の世界では"オモイヤリ"って言うみたい」
オモイヤリ、魔族達では考えられないものだ。魔族は自分自身のことしか考えない。
他者のことは二の次、平気で同族を売る。
もし叶うなら、人間に生まれ変わって、そのオモイヤリとやらを実践してみたいものだ。
「でも…これだけ暴れておいて、そんなの虫が良すぎるよな。俺には…地獄がお似合いだろう」
この声は誰の耳に届くことなく、自身の身体と共に夜空に吸い込まれていった。
見事準階級者を討伐したわけだが、あの後はものすごく忙しかった。まず俺と剛はバトラーや他の教授達と合流。すぐにさくらさんによる治療が行われ、剛に至っては数日間の安静が命じられた。
なんでも、全身火傷だったらしく、あと少し遅ければ細胞が壊死していたかもしれない危険な状態だったらしい。
そうそう、剛がなぜあの魔法を耐えたのかというと、察しの通りエンブレムの技の一つ、超根性。
名前の通り、どんな攻撃を受けても、確実に死なないギリギリで耐えるというものらしい。つまり、あの時俺がサンダースからの反撃を防いでいなければ、剛は死んでいたかもしれなかった。
サンダースが滅術を発動して煙が舞っていた時、不動教授は俺達に「どんな手段でもいいから奴の動きを止めてくれ」と指示を出していたのだが、まさかあんな行動をとるとは思ってもいなかったようで、かなり困惑したらしい。
「櫛塚、身体は大丈夫なのか?」
俺は気になっていたことがあり、不動教授の部屋へ訪れた。
「はい、もう完全に治りました。不動教授、この前の戦闘の時、わざと俺達が動きやすいようにしていましたか?」
不動教授は絶対者だ、俺と剛が避けることができた攻撃に苦戦するとは思えない。
また、最後トドメを刺した時のあの速さ。あの速さを出せるのならばいつでも討伐できたに違いない。
不動教授は表情を変えないまま答えた。
「なぜそんなことをする必要がある?相手は魔族だ。しかも準階級者ともなれば一切油断はできない。あの時指示を出したのは、より効率よく討伐するためだ。…決してお前達が動きやすくするためというわけではない」
口ではそう言っているが、会話の途中少し間があった。やはり多少の配慮をしていたのかもしれない。
裏を返せば、俺達が自由に動けるほどの余裕があったのだろう。
不動教授はエンブレムも使用していなかった。普段教授としての姿しか見ていなかったためか、あの日初めて絶対者であることを実感した。
俺は部屋を後にすると、向こうから板川教授が歩いてきた。
板川教授は険しい顔をし、俺の横を通り過ぎながら、
「櫛塚、今回は不動がいたから生還したが、次からはすぐに逃げろ、それができないなら今すぐここを辞めろ」
板川教授はいつも俺に対して当たりが強い。てっきり全員に対してもそうだと思っていたが、他の教授達や学生達の様子を見るに、全然そんなことはなく、むしろ皆から慕われている。
「お言葉ですが、どうしてそんなことを言うのですか。俺、何かしましたか?」
板川教授は俺の横を通り過ぎた後、ドアの前で背を向けながら、
「…面接の時に恥をかかされた…それだけだ」
え、それだけ?そんなことで俺に強い当たりをしているのか?
小さい大人だと思った。
「はぁ〜、洸平はトラブルメーカーか何かか?なぜお前が行く場所全てにこうも魔族が現れるんだ、しかもそこそこ強いやつらがな」
バトラーが呆れ顔で俺に言った。確かにここ最近魔族に出くわしすぎている。一応言うけど、まだ学生ですよ?卒業試験すら受けたことないひよっこですよ?
「まぁ、俺は昔から面倒ごとに巻き込まれがちな人間だったからな、良くも悪くも不幸体質なんだろう」
「いや良くはねぇだろ…ところで剛はどんな感じだ?大火傷だったんだろう?」
「本人は元気だ!って騒いでるけど、さくらさんに止められてる。当の本人はさくらさんにデレデレしてるから問題を起こすことはないと思う」
さっき様子を見に行った時、ちょうど治療中だったのでこっそり覗いてみると、剛は何処とは言わないが立派な果実をチラ見していた。顔もにやけており、控えめに言って気持ち悪かった。さくらさんは気づいているのか気づいていないのか、表情は全く変わらなかった。
少し早めの夕食を摂るためにバトラーと食堂に向かっている道中、佐久間と千尋が慌てた様子でこちらは走ってきた。
「洸平、大変!クラッシュが…クラッシュが…!」
「千尋!?クラッシュがどうしたんだ?」
佐久間が息を整えてただ一言、
「もう、クラッシュと会えなくなるかもしれない」




