第6話 コミュ障は辛いよ
この寮では2人で一部屋を使用することとなっている。
解散後、寮の前に立っていた人から鍵を受け取り部屋へ入った。
そこには既にルームメイトがベッドに寝転がっていた。
「あ、どうも」
「ぺこり」
「「・・・」」
会話は2秒で終了。
決して言い訳ではないが、俺は中学校まで友達という友達はいなかった。友達を作りたくなかったわけでもないのに、今までの人生18年の中で作ることができなかった。
話しかけられれば話はするが、それ以上に踏み込んだ話をしない。俺にとって他人は活動時のビジネスパートナーといった感覚だ。
つまり、俺はコミュ障だ。特に用もないのに何を話せばいいのか分からない。こういう面ではすぐに人の懐に入りこめる陽キャを羨ましく思う。
しかし今回はルームメイトと来た。
少なくとも1年間は共に寝床が同じになるわけだ。
流石の俺でも「一人でいいや」とは思わない。
まずは、自己紹介とかしたほうがいいのだろうか
「えっと、俺は櫛塚洸平。君は何て名前なんだい?」
「…僕はクラッシュ」
・・・ん?あれ、聞き間違いかな。
「…なんだって?」
「僕の名前はクラッシュ」
聞き間違いじゃなかったわ。間違いなくこの人クラッシュって言ったよ。俗にいう痛い奴ってやつ?
「ええっと…本名は言いたくないって感じかな?」
「まあ…そんな感じ」
なんで?と聞きたかったが、そこはグッと堪えた。
そういったことは彼が言いたくなったタイミングで聞けばいい。
コミュニケーションを取る上で、よく相手の表情を観察するといいと聞いたことがある。
それを活用しようと思ったが、ここで大きな問題があった。
この男、クラッシュは、茶色の袋で顔を覆っているため、表情が全く分からないのだ。
なぜ神様は俺をコミュニケーションレベルMAXの部屋にぶち込んだのだろう。
きっと新たな嫌がらせに違いない。
「クラッシュ君さ、その袋ずっと被ってるけど暑くないの?ていうか前見えてるの?」
「暑いには暑いよ。あと、前ならちゃんと見えてるよ。遠くからでは分かりにくいと思うけど、小さな穴が空いてるから、そこから覗いて見ています」
「へ、へー、それって大変じゃない?」
「最初の頃は大変だったけど、もう慣れた」
「それはそうと、クラッシュ君はどうしてここに入ろうって思ったの?」
そう聞くと、クラッシュは黙り込んだ。
そして、少し考えた後、こう答えた。
「強いて言うなら、自分のため…なのかな」
「自分のため…俺とは違うな」
「そう言う君はなんのためにここに?」
「俺は…」
中学3年の10月初め、体育祭が終わって間もない頃だった。
いつものように下校し、家に入ると、両親が殺されていた。
遺体は原型を留めていなかった。
母の目玉も臓器が飛び出ており、父の顔は右半分が抉り取られた上で、生首状態。
血も壁と床のあちこちに飛び散っていた。
後に所持品を見なければ両親だと分からなかったぐらいであり、残虐という言葉を身に沁みて理解することとなった。
警察は魔族による殺害と判断し、捜査は終了した。しばらくしておれは児童養護施設で暮らすこととなったが、生きる気力を失った俺は、ただ虚無の世界を生きることとなった。
そんな中、師匠と出会った。
街中で座り込んでいた俺を、遠い親戚と嘘をついてまで引き取ってくれた。
その日以降、俺は師匠のために生きることを決めた。
何度も殺されそうに、というか何回か死んだ気もするが、生きる希望をくれた師匠に恩返しがしたかった。
「俺は、俺の両親を殺した魔族への復讐、そして、師匠の夢でもある魔族の消滅、真の強者になるという夢を叶えるためにここに来た」
多くの小説や漫画の登場人物が似たようなことを言っているだろうが、俺は本気だ。俺の人生を無茶苦茶にしてくれたやつを、俺は絶対に許さない。絶対に。
「そっか、君…洸平君は強い意志を持ってここに来たんだね、僕とは大違いだよ。まぁ、お互い頑張ろう」
「あぁ、こちらこそ」
「「・・・」」
どうにか粘ったけども、やはり会話は長く続かなかった。
やっぱり、コミュ障は辛い。
―とある場所にて―
「確か、この場所では入学式があったか?だとすればここが使われる可能性があるかもしれない。ふふふ、落ちぶれた俺でも人間界にはバレなければ暮らしていける。もうすこしの辛抱だ、ここを出てしまえば俺の勝ちだ」
??が外に出るまであと2日。




