第56話 魔族討伐演習
「お前達、魔族と出くわした時にまず行うことは、周囲の状況把握だ。周りには逃げ遅れた者もいるかもしれない。まずは人々の安全が最優先、分かったか?」
板川教授より、初回の特別講義、魔族討伐演習が始まった。実際に現絶対者の任務に同行しながらの講義である。
板川教授は説明している時も常に周囲を見渡していた。彼の言葉通り、常に逃げ遅れた人がいないかのアンテナを張っているに違いない。
この日の任務では、魔族と出会うことがなかった。あったとしても、それは討伐後ののとであり、実際の戦闘に関する教授は行われなかった。
「まあ、お前らはまだやってはいけない戦闘を独断でしていたがな」
「バトラー、黙ってろ。そう思っていたなら最初から言え、そして代わりにお前が戦えば良かった話だろ」
なぜ学生が夜に寮から出てはいけないのか。それは、社会的にはまだ一般人のくくりに入っているからだ。
当たり前と言えば当たり前のことなのだが、それについて不動教授に叱られたのだ。
「あなた達、私は魔導士だけど、魔族討伐の方法は同じ。核をすぐ狙えるならそれが一番だけれど、それが大変って言うなら…」
「目よ〜、目潰しよ〜。視界を奪ってしまえば、大抵の魔族は行動できなくなるから、狙って損はないわ〜、後は…」
「姉さん…その言い方どうにかならないわけ?」
「はい注目ーってこーら暴れない!いいかい?目が無理そうならこんな風に…足をもぎ取ってもいいんだよ。その次は…よっと、こんな風に腕を千切ればいい。最初のうちはこの方が安定するかもね…じゃあ君は用済みだから、バイバイ♪」
「やめっ、ギャァァァァ!」
これ、どっちが魔族か分からないな。
るかさんは俺達に教えるため、1体の魔族を無理やり連れてきて、その場で魔族解体ショーを開催した。
それはあまりにむごいものであり、一部生徒は気分が悪くなっていた。
目の破壊、両腕、両足の切断、最終的に体は真っ二つ、核もしっかり破壊され、その現場は一種の地獄と化していた。なんでこの人にこれを依頼したのだろうか。
早いこと四回目の講義になった、担当は不動教授。
流石にるかさんよりはマシだろう。
すると、不動教授は足を止め、こちらの方へ振り返った。
「お前達、今日の講義は中止だ。今すぐ寮に戻れ。にゃん丸、みんなを寮の方へ頼む」
突然そのようなことを言い出した。何人かの学生が理由を聞くも、教えてくれなかった。何か異常事態でも起きたのだろう。
「なんだよぉ、せっかく不動教授の戦いが見れると思ったのにな」
「理由は分からないけど、きっと大変なことが起きたんだよ。それに、僕達は目をつけられているんだから、残るなんてことはしないし、させないよ」
そして、にゃん丸の案内で俺達は寮に帰された。俺も寮に入ろうとした時、
「小僧、お前は残れ。そこの相棒の魔族お前もだ」
なぜか俺とバトラーがにゃん丸に止められた。
すると、前後からそれぞれ数体の魔族が姿を現した。
にゃん丸はすぐに俺の肩に登り、俺に耳打ちをした。
「見ての通り、俺達は挟み撃ちされた。そこでだ、小僧、後ろは任せる。足を引っ張るなよ、俺のためにも、ご主人様のためにもな」
「じゃあ俺は他の奴らのところへ戻るぜ。洸平、この程度に梃子摺るなんてことはねえよな?」
「梃子摺るかは分からないけど、なんでみんなの方に?寮にいるでしょ?」
「小僧、お前は馬鹿か。寮には今の状況を知らない奴らが大勢いる。防御魔法も何もかけられてない寮は無防備状態なのだぞ?」
そうだったのか、もしかして今まで何事もなく過ごせたのも、不動教授を始めとした絶対者、滅魔隊員のおかげなのかもしれない。
…ん?少し待てよ。これ、俺とバトラー逆の方が良かったのでは?もしこのことが不動教授にバレれば…流石にまずいだろう。今すぐバトラーと変わ…
「ってもういねぇし。はぁ、もうどうにでもなれ。にゃん丸…さん?後でご主人に言っておいてね」
「はて、それはどうだろうな。そんなことよりよそ見をしている場合か?来ているぞ」
俺が少し後ろを見た瞬間に、目の前にいた魔族は距離を縮めていた。
「にゃん丸さんこそよそ見している場合ですか?こっちは…片付けましたよ」
この前は好奇心でエンブレムの技を連発したが、あの時はそんなことをしなくてもいいぐらいだった。
野生の魔族(知能をほとんど持たず、会話ができない個体を指す)は敵ではない。
しつこいようだが、隊員でもない一般人が本当はやったらダメらしいけどね、師匠、何でそんなことを入学前にさせたんだろうね?
「ほう、たかが三回見学しただけなんだが、何とも手慣れているな。これならかえって好都合だ」
そう言いながらにゃん丸は魔法を使い、魔族をあっさり討伐した。
「小僧、今大学付近では準階級者もしくは階級者が出現しているとの情報があるらしいぞ?そこで…」
「いや行きませんよ?これ以上は流石にまずいですから。それに、にゃん丸さんのその魔法なら大丈夫ですよね?」
五回目の講義ならまだしも、まだ四回目、見学の時間だ。卒業のためにもこんなところでこれ以上問題を起こしたくない。
「ふん、つまらん男だな。そんなにルール、決まり、掟が大事か?」
「当たり前ですよ。世の中の秩序を守るために作られた枠組みなんですから」
「なるほどなぁ、まあいい。今回はそういうことにしておこう。だが、これだけは言っておく。小僧、お前もいつかはその枠組みを壊さなければいけない時が来るからな」
何か意味ありげなことを言っていたが、その時の俺はその意味が分からなかった。
「何が言いたいのかは分からないが、とにかく俺は寮に…」
「寮に戻る前に、まず私の部屋に来ようか。櫛塚洸平」
背後に聞き馴染みのある声がしたため、俺は死を覚悟した。ゆっくり振り返ると、るかさんがいた。
「どう、似てた?累君の声真似?でも、早く戻った方がいいよ。累君はこういうのにうるさいからね」
安心感から、俺は腰が抜けた。にゃん丸の顔はニヤニヤしていた。この猫、まさか分かってて俺をここに留まらせたな?
このクソ猫め。
俺は急いで寮に戻った。何とか不動教授にはバレずに済んだ。
その日の夜は、とても寝つきがよかった。




