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第55話 エンブレム

いつもと比べてかなり長めです。キリがいいところがなかった。

「じゃあ、俺はそこの半々髪のガキを」


「私は緑髪の坊やを可愛がってあげるわ」


「では、私はそこの筋肉質な君と手合わせしよう」


「じゃあ僕はそこの袋を被った君!前見えてる?外してもいいんだよ?」


「じゃあ俺様は女を甚振り可愛がってやるか」


退路は断たれた。『戦う』という選択肢しか無くなった。ふと横を見ると、剛の体が震えていた。

いつもは明るい剛が…きっとはじめての戦闘なのかもしれない。早くケリをつけて合流しよう。


「佐久間…お前…あんな綺麗なお姉さんと戦えるなんて、羨ましすぎるだろ!そこを代われぇ!」


前言撤回、何も心配はなかった。いつも通りアホな剛だったわ。


「フフ、今から戦うってのに、相変わらずだね」


「まああんたはこうじゃなきゃね。剛が暗くなったらこの世の終わりよ」


佐久間と千尋の顔に笑顔が浮かんだ。二人も心配はなさそうだ。


「まずい、20時前…ランクマ始まっちゃう…早く、殺して、丸めて、刻まないと…」


ものすごく物騒なことが聞こえた気がしたが、クラッシュも?心配は不要なようだ。


「「「「「エンブレム起動!」」」」」


五人の足元にエンブレムが展開された。師匠の修行の元、全員が習得した。



「エンブレムは、端的に言えばオリジナル技だ。エンブレムを展開すれば、身体能力の強化にも繋がるゆえ、ほとんど損することはない」


「荒垣さん、ほとんどってことは、エンブレムを使うデメリットもあるんですか?」


「そうだ。エンブレムの明確な短所は、他の者と技名が被ってはいけないんだ、効果は他と似ていても大丈夫らしい。そして、体への負荷が大きいゆえ、基本的に戦闘で使える技は4つまでだ。ただこれには個人差があり、1つしか使えない者、7つ使える者と、数は人によって決まっている」


師匠のエンブレムの技の数は6つあるらしいが、実際に使用する技は4つに絞っているらしい。師匠が以前階級者と出くわした際、無理をして5つ目の技を使用した。

何とかその階級者の討伐には成功したが、戦闘後、なんと一週間も動くことができなくなったらしい。

エンブレムは強力故体に大きな負担がかかる。

一歩間違えれば、自身の技で命を落とすこともある。便利だが、それ以上に恐ろしいものと、師匠は何度も俺達に言い聞かせた。

 エンブレムは必須技術ではない。魔導士は特に習得割合は低い。

剣士、拳闘士は習得している人間が多い。戦術の幅が広がり、何より自分の戦闘スタイルの確立に繋がり、自分らしさを生み出せる。

 エンブレムの習得は魔力纏いができれば苦戦はしない。なぜなら、魔法陣のイメージをしながら、足元に魔力を集中させれば良いからだ。

あとは簡単、技を編み出し、それに命名するだけ。

最後に、自分の限界値を知ること。これが一番重要で、師匠が最も時間を掛けた修行だった。

そして、俺達はエンブレムを習得した。


「なっ、エンブレムだと…こいつら、ただのガキじゃねえのか!?」


「まさか〜落ち着きなって、どうせただのハッタリに決まっ…」


魔族の一人の腹が切られた。上半身と下半身が分かれ、その場に倒れ込み動かなくなった。


音速一閃(ソニックライド)…死んだよね?洸平、ランクマ行ってもいい?」


クラッシュの戦闘スタイルは、超スピード特化。特に瞬発力だけで言えばクラッシュの右に出るものはいない。また持久力も、同じ学年内ならば洸平に次に持っている。彼が使用した"音速一閃"は常人はまだ追うこともできないほどの高速移動の技、非力なクラッシュが、そのスピードに全身の力を乗せて繰り出す一撃必殺である。


「…バトラー、クラッシュのこと見てあげてて」


俺は静かにバトラーに指示をした。彼のマイペースさは相変わらずだ。


 剛と剛腕の魔族は互いに睨み合っていた。身長差も剛の3倍近くもある。


「人間よ、お前は私と同様拳で戦うと見た。さあ、正々堂々やろうではないか」


「もちろんそのつもりだ!いくぜ!」


ものすごい気迫だ、まだ20にも満たないであろう少年がここまでのオーラを出すか。

加えて素早い。あの体格であそこまでのスピードが出せ、私の拳もしっかりと受け止めている。よく鍛え上げられた肉体だ。

だがそれは彼も同じ、彼も拳を振るうが私の体には当たっていない。膠着状態菜だ。

私がそのようなことを考えていると、その少年は私の一瞬の隙を見て、私の懐に入り込んだ。

これは避けられない…!


「食らえ!本気殴り(マジパンチ)!」


少年の拳が私の腹を貫通し、核を破壊。そのまま後ろへ吹き飛ばされた。

 百鬼(なきり)剛の戦闘スタイルは、いたってシンプル、正面突破。百鬼剛はまだ考えて戦闘することができない。

己が持つ筋力、俊敏性、柔軟性、全てをフル活用し、確実に強烈な一撃をお見舞いする。

ちなみに、技のネーミングセンスについては触れないでおくとする。


「…見事だ、少年…私の完敗だ」


剛腕の魔族は、満足そうな笑みを浮かべながら跡形もなく消えた。


「きゃはははははは!ほらほら!もっともっと踊り狂いなさい!」


佐久間は妖艶な女性のような見た目の魔族と戦闘していた。その魔族は遠距離魔法を絶え間なく使用し、近づけずにいた。


「よく踊ってるけど、これは避けられるかしら!?」


佐久間が後ろに飛びながら避けた。が、背後からも魔法が襲いかかった。

当たった!これで確実にあの坊やは死ぬ。さあ、その死に顔を見せてちょうだい!


「…風の歩行(エアフライト)


突然、あの坊やの軌道が不自然な方向へ進んだ。風魔法の応用かしら。


「よくあの魔法を避けたわね。じゃあ、これはどうかしら?」


私が持つ一番広範囲な魔法、人間が耐えられるわけがないわ。仮に耐えることができても、瀕死には追い込めるはずよ。

その魔法は佐久間を襲い、あたりにコンクリートの破片が散らばり、瓦礫の粉が舞った。少しやりすぎたかしら。

瓦礫の粉が晴れてきたその時、佐久間咳をしながらその中から勢いよく飛び出してきた。

嘘、あれを全て避けきったっていうわけ?

ふと、彼女は佐久間の指を見た。その手は人間界で言う"デコピン"をする前の状態だった。

あの手の形はよく分からないけれど、まさかそれで攻撃するつもりかしら?

馬鹿ね、そんな攻撃で私の核を破壊できるわけがないじゃない。


「…極瞬強化:(モメントエンハンス:)10000倍!」


佐久間は魔族の腹を目掛けてデコピンをした、その指が魔族に触れた瞬間、彼女の体は核諸共消し飛んだ。

 嵐村佐久間の戦闘スタイルは、拳闘士と魔法のハイブリッド。拳術科に入りながら、魔導科の講義に参加し、その上かなりの好成績を残している。

しかも、彼が扱う魔法は風属性に加え、習得が極めて難しいとされる、自己強化魔法。

また、強化倍率の上限値はない。代わりに、倍率が高くなれば高くなるほど、効果時間が短くなる。

今回使用した10000倍の効果時間は、わずか0.3秒。

指が当たるその瞬間に、エンブレムの技を発動させたのだ。


「案外デコピンでも勝てたな。パンチだと家一個簡単に吹き飛びそう。みんな大丈夫かな…」



「へへへ、お嬢ちゃん。君の得意属性はなんだい?」


「…雷魔法よ」


「ほう!奇遇だな、実は俺も得意魔法は雷属性なんだよ。火力勝負をしようじゃないか」


「言われなくてもそのつもりよ!電雷(ギガサンダー)!」


しかし、千尋が放った魔法は、遅れて放った魔族の雷魔法で相殺された。

しばらく互いに魔法を打ち合った。

しかし、あれだけ魔法を打ってるはずなのに、なぜあの女の魔力は切れない?人間の魔力量なんてたかが知れている。エンブレムの効果か?まあ魔力は無限じゃない、いつかは底をつく、耐久戦だな。

すると、女は息を整えて何かを詠唱し始めた。


「って、四属性混合魔法かよ、それは聞いてないぜ!…だが、」


隙が()()()()()、無防備だぜぇ!俺は一目散に女の方は距離を縮めた。

この女、いい身体してるなぁ。殺した後少しくらい遊んだっていいよなぁ?


「…ねぇ、何で私がまんまとあんたをここに来させたと思う?」


女は俺にそう聞いたとき、詠唱途中だったはずの混合魔法を中断した。その直後、俺の腹に激痛が走った。その衝撃で体は上空へ吹き飛んだ。


「喰らいなさい、雷の王獣(サンダーライオネル)!」


巨大な稲妻が上下から繰り出され、魔族の体は核がある腹を境に、二つに分断された。

 清野千尋の戦闘スタイルは、当然魔法。本人は否定しているが、近接戦闘もそれなりにできる(対男限定)。

エンブレムの一つ目の技、"魔導楽園"。魔力消費量を種類に限らず1/4にするものだ。

彼女の魔力量は二人の姉と比べたらかなり少ない。

しかし、魔力操作や魔法の精度は折り紙つきであり、それだけなら姉にも劣らない技術を持っている。

その証拠に、本来雷魔法は上から下にしか放つことができない。しかし、緻密な魔力操作によって下から上の雷魔法を可能にしたのだ。


「あの魔族、絶対変なこと考えてたわ。やっぱり、魔族でも男はクソなのね」


「あ、千尋!無事だった?」


「何とかね。クラッシュ…は置いとくとして、佐久間、剛と洸平は?まさか負けたなんてことはないでしょうね」


「剛はもうすぐ来る、洸平はまだ戦ってる。あいつ、多分だけど僕達が相手してた魔族よりも遥かに強い気がする」


「お前やるなぁ、まだ俺の猛攻に耐えるか!そろそろ見せてみろ!お前のエンブレムの技とやらを」


「そこまで言うなら見せてやるよ、千々乱舞!」


無数の斬撃が俺を襲いかかった。が、一つ一つの威力は大したことがない。小さな切り傷がつくだけだ。


「昇天舞踊!」


おおっと!斬撃に身を隠し俺に接近し、剣を切り上げた。剣を戦闘ナイフやクナイのように独特な持ち方をしているが、あれに当たるのはマズそうだな。


「天照!」


今度は剣を振り下ろしたか、連続技が多い。さっきから攻撃が単調で読みやすい。


「四面天波(てんぱ)!」


俺の左腕が切り刻まれた。あの衝撃波に掠ったか?それだけでこの威力、やはり俺の予想は間違いなかったようだ。


「おい!洸平エンブレムの技4つ使い切ったぞ!」


「流石に助けに行った方がいいよね?」


助太刀に行こうとした剛と佐久間をバトラーは静かに止めた。


「まあ見とけって、信じろよあいつを」


「へへ、お前エンブレムの技を出し切っただろ?知ってるぜ、そのエンブレムの技は4つしか使えないってな、それ以上使えば体が壊れるとも。つまり、お前は詰んだってことだ!」


「詰んでるのはお前だよ馬鹿」


櫛塚は魔族のすぐ目の前に距離を縮めていた。技は何一つ使用していない。


「終わりだ。極光神楽(きょっこうかぐら)!」


「グァァァァァ!馬鹿な!技は4つまでではなかったのかぁぁ!?」


魔族の核は破壊され、体は消滅した。

 櫛塚洸平の戦闘スタイルは、持久戦。持ち前の観察力で相手を分析し、同じ手を二度も食らわない。

また、信楽るかの指導の効果もあり、初見対応力が備わったため、攻撃もしっかり避けれるようになった。

それに加えて、特有の技術"魔法掴み"。

そして何より、櫛塚洸平はエンブレム技を5つ所持することができる。

エンブレムの技も、一撃必殺というよりも、牽制技の方が多い(本人談)。

このように、洸平を始めとした五人はエンブレムの習得に成功、そして個の確立にも成功。

後に、彼らは大きな役割を担うことになる。


「はぁ、疲れた」


「洸平ー!なんだよ技5つって!ズルすぎかよ!」


クラッシュもゲーム画面から顔を上げると、


「規格外すぎて、もう驚かないよ。これが櫛塚洸平なんだよ」


俺達はこの夜、勝利の余韻に浸った。

しかし、後日このことを知った不動教授に、俺達は「危険な行動を勝手にするな」とこっぴどく叱られたのてあった。












不動教授はいわゆる生徒指導部的な立ち位置の人間でもあります。


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