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第53話 櫛塚洸平の教授

みんなと遅れること30分、敷地の入り口付近でみんなが待っていた。師匠の姿は見えない。なぜかバトラーの姿も見えない、てっきり俺を煽るために待ち構えているかと思っていたが、その予想は外れたようだ。


「洸平、荒垣さんが『早く来い』だってさ。何やらかしたの?」


「勝手に俺をやらかしたことにするな佐久間。俺は何もしてない…多分」


師匠のご指導基準はよく分からない。もしものご指導に備えて、対ご指導モードに脳を切り替えた。


「ん?やっと来たなバカ弟子…お前のご指導は無いから安心しろ。だが、ついさっき相棒をご指導したところだ」


部屋の隅に目をやると、バトラーが萎縮し、小さくなっていた。ついでにメイド服も着せられていた。ざまぁみろ。


「そう、洸平、お前を呼んだ理由は他でもない…」


「え?」


場所は代わり、敷地内の訓練場にみんなとバトラーが集まった。


「おい洸平、今から何するんだ?まさか、俺達決闘するのか!?」


「決闘は違うけど、今後やるかもね。それで、今からみんなには『魔力纏い』を習得してもらいます」


「魔力纏いって、あんた達剣士、拳闘士達が使うっていう技術よね。なんで私まで?魔導士は関係ないでしょ」


「師匠が千尋にもお願いって言われたから、何かしらの意図があるんじゃないのかな?分からないけど」


「……」


そんなまだ俺を見るな。俺だって師匠が何を企んでいるのか分からないんだから。

遡ること10分前、


「洸平、みんなに魔力纏いを習得させてやれ。もちろんあの女の子もだ。以前来てもらった時に感じたんだが、あの子達はけっこう強いだろう?今後のためになるはずだ。私が教えてやりたいところだが、今後のためにも、洸平のやり方で教えるといい」


「俺が?、いやそれはいいんですけど、どうして千尋まで?彼女は魔導士志望で、魔法の練度も日に日に上がっています。あの技術が彼女には必要ないと思うのですが」


「…とにかく、弟子は黙って師匠の言うことを聞いておけ。分かったな?」


師匠の目が泳いでいた。まさか千尋が魔導士志望ということを知らなかったのだろうか?師匠は奈々准教授、特にさくら准教授とは顔見知りなので知っていると思っていたが、これはきっとあれだ。師匠は話を聞けない人間なのかもしれない、多分。


「お前今すごく失礼なこと考えてないか?」


「そんなまさか、とにかくみんなに魔力纏いを身につけさせればいいんですね」


「そして今に至るってわけ?結局私がやる必要あるかしら?っていうか…こんな感じかしら?」


千尋の体が魔力で覆われた。流石は准教授二人を姉に持つ妹といったところか、魔力の扱いには長けているようだ。

一応体の一部に纏う指示をしたところ、それもあっさりとやってのけた。

千尋も、周りと比べてもずば抜けたセンスと才能を持っていることを実感させられたと同時に、魔力纏いの習得にかなり時間がかかった自分が不甲斐なく感じられた。


「すごいな、千尋さんは。洸平、僕達にもやり方を教えて」


その声に便乗するように、剛がご飯を待つ子犬のような目でこちらを見てきた。


「分かった分かった。えっとね、まずは魔力を感じ取る必要があるんだよね。で、その魔力はこうガァーー!って感じで、魔力纏いはそれを一点にシュッて注ぎ込む感じだよ」


「「「「…は?」」」」


説明しよう、櫛塚洸平は人に何かを教える能力が壊滅している。そして、それを当の本人は一切自覚していない。

なぜ自覚していないのか?理由は単純だ、受け身であり、荒垣優菜に会うまでは一人ぼっちであり、人に教えるという機会が0に等しかったのだ。

そして、剛、佐久間、クラッシュ、千尋、バトラーはその壊滅的な説明を聞き、剛、佐久間、クラッシュは頭上に(ハテナ)マーク。

千尋、バトラーは溜息をつき、呆れていた。


「おい洸平、ふざけて言ってるわけではないよな?」


「?全然?」


マジかよコイツ。俺はやり方を知ってるから洸平の言いたいことがギリッギリ分からなくも…いや分からねえわ、何言ってんだコイツ。


「みんな、あいつの言うことは聞かないでいいわ。私が教えてあげるわ」


「俺も参戦するぜ。なにせ、後輩に魔力纏いを教えたのはこの俺だからな」


「二人とも!?勝手に俺抜きで話を進めないで!?」


「「いいから黙ってろ!」」


千尋とバトラー、初めて心が通じ合った瞬間である。


「おう…千尋、バトラー、よろしくな…」


「あの剛が諦めた…!?普段訳わからないこと言ってるあの剛が!?」


「佐久間君、それはそれで失礼じゃない?」


こうして、魔力纏いの修行(強制的に櫛塚不在)が始まった。



 板川創一郎は彼の部屋の机に置いてある、枠に入れられた一枚の写真を手に取った。

自分達とは別の家族写真である。妻と2〜3歳ぐらいの子供を抱いた夫が写っていた。

彼は、その写真を眺め微笑むと、それを机に置き、険しい顔になった。机には特別講義の受講者リストが書かれた紙が置かれていた。



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