第52話 特別講義に向けて
「小僧、後ろは任せる。足を引っ張るなよ、俺のためにも、ご主人様のためにもな」
「じゃあ俺は他の奴らのところに戻るぜ。洸平、この程度に梃子摺るなんてことはねえよな?」
後方に魔族と対峙するにゃん丸、他のみんなの元へ向かったバトラー、前方に俺と対峙している数体の別の魔族。
卒業していない学生は本来このようなことになることはない。なぜこのようになってしまったのか、それは3ヶ月前に遡る。
俺達は、魔族討伐演習に参加する条件を満たし、一週間後に控える特別講義に向けた事前説明を受けていた。
「今回の魔族討伐演習を執り仕切ることになった板川創一郎だ。はじめましての学生もいるかもしれないから一応自己紹介をしておくと、俺の役職は魔導士、絶対者の一人で、息子が一人いる。よろしく」
無精髭はないが、面接の時にいた教授だ。大学ではそれ以降会ったことがなかったため、半年ぶりといったところだろうか。
説明の概要はこうだ。特別講義は3ヶ月後に実施され、合計5回の講義になる。そのうち4回は見学、最後に実際に滅魔隊に混ざり、任務に参加するといったものだ。板川教授が何度も口にしたことが、
「最初の4回は見学だが、お前達学生を守りきれる保証はない。自分の身は自分で守れ、できないなら逃げる、まあここにいる者はそれなりの腕を持っているだろうし、そこまで心配はしていない、実力はな」
滅魔隊の任務に同行するということは、魔族にでくわす可能性が高い。魔族は弱い人間を狙う、滅魔隊員よりも一般人や俺たち学生を一目散に狙うに違いない。
自分の身は自分で守る、当たり前のことだが、果たしてそれが本当にできる人がこの場に何人いるのだろうか。
「まあ、大まかな説明はこんなもんだな。分かっているだろうがトレーニングはしておけよ?」
板川教授は一度言葉を区切り、ハッキリとした声で
「うちに、お荷物は必要ない。そんなものを求めるとこなんてあるわけがないからな」
講義室に緊張が走った。おそらくこれは恐怖による緊張ではない。"講義"と呼んでいるが、これはただの講義ではない、特別な講義だ。実際の現場に立つということは、少なくともその瞬間は誰であろうと滅魔隊の一員になるということだ。
生半可な気持ちで臨んでいいわけがない。
翌日、俺は師匠に特別講義に参加すると電話をした。それを聞いた師匠は電話越しから驚いた声で
「バカ弟子、もう単位を取りきったのか?他のみんなもか?」
最近は名前呼びだったのに、久々のバカ弟子呼びか…
「はい、剣術科に加えて格闘科の単位も取りきりました。魔導科はほとんど取れませんでしたが」
「私も人のことは言えないが、1ヶ月で全て取りきったのか、ましてやそれでは飽き足らず他の科のものまで…お前の成長には毎回の驚かされるな」
「師匠、珍しくベタ褒めモードですか?」
「殺す」
うーん相変わらず素直じゃないな、師匠は。
そんなことを考えていると、バトラーがいきなり電話を奪い取った。
「荒垣様、私から一言宜しいでしょうか?はい、〜〜、〜?〜〜」
なんて言っている?よく聞こえない。少なくとも変なことは言ってないし、言えないだろうし、そこまで深刻なことでもなさそうだ。
「分かりました。では失礼します」
バトラーは電話を切ると、俺の方を向き、
「洸平、特別講義の日が来るまで荒垣様の元へ行くぞ。可能なら、今回はあいつらも連れてな」
「あいつらって、佐久間達のこと?」
「そうだ、後で聞いてこい。理由は向こうについてからだ」
まあある程度単位は取りきっているし、戻っても問題はないか。
目的は十中八九修行なのだろうが、みんなを連れて行く理由が分からなかった。
各々の身支度を済ませて、俺、剛、佐久間、クラッシュ、そして千尋が師匠の家に向かって歩きはじめ…ようとした時、
寮を出たすぐ目の前に大きな車が止まっていた。
「おいバカ弟子とそのお友達、乗れ」
窓から顔を出しながら師匠がこちらに話しかけた。
千尋達が師匠に「お久しぶりです」と挨拶を交わしていた。
というか師匠、車持ってたんだ、これみんながいるからだよな?俺だけなら絶対にこんなことしないだろうし。
「よし、みんな乗ったな。じゃあバカ弟子、お前は走ってこい。私をおちょくった罰だ」
それだけ言って車は走り去った。
「はあ、バトラー行くぞ…バトラー?」
左ポケットに入れた携帯が鳴った、着信はクラッシュからだ。もしもし?と応答すると、
「洸平、ざまぁぁぁぁぁ!!!!ブツッ!」
「…」
最近ようやく丸くなったと思ったらこれだよ。合流したら一旦シメておこう。
俺は携帯をしまうと、すぐに車を追いかけた。
一方車内にて、
「荒垣さん、向こうでの洸平ってどんな感じなんですか?やっぱりぶっ飛んでいますか?」
「私からしたら普通だが、まあ世間一般的にはぶっ飛んでいるだろうな。特にあいつは一般人が持つ感覚のほとんどにズレがあるからな。くれぐれも洸平の言うことはあてにしない方がいい」
「大丈夫っすよ荒垣さん!それ、みんな分かってることですから!」
「なんなら入学して間もない頃から薄々感じた」
「洸平はさ、自分が平凡って思い込んでるのよね、それがムカつくのよ、『俺は普通でーす』って言わんばかりの澄まし顔、思い出すだけでイライラするわ」
「でも千尋、そんなこと言いつつ一緒にいるよね」
「そ、それは、都合のいい練習相手だからよ。なぜか誰も私と模擬戦しようとしないのよ、なんでかしら」
その気が強い性格が問題だろ。
荒垣優菜以外の全員がそう思ったが、言ったらキレられることを分かっている三人は口をつぐみ、「なんでだろうね」と返すのであった。




