第48話 受け身の意味
翌日、天気はあいにくの大雨だった。この影響で殆どの講義は休講になった。ただし、るかさんの全身技能だけは屋内でもゲームだけは可能なため、それだけは行われた。
ちなみに、雨の日は魔族が人間界には来ない。
外に出歩く人間が少なく、雨も魔力の練り上げを妨げるらしい。よって、雨の日は滅魔隊員や絶対者の数少ない休養日でもある。
みんなが講義の中、俺だけが別メニューの関係上、この日は全休になってしまった。
いつもなら不満でしかないのだが、今は逆に好都合である。俺の足りないものについて一日中考えることができるからだ。
バトラーはゲームがしたいからという理由で、るかさんに直談判しに行っている。帰ってこないということは、お許しが出たのだろう。
「…一旦トレーニングするか。体を動かさないのはマズいし」
飲み物を持って、トレーニング室へ向かった。
約2時間ほどのトレーニングを終え、部屋に戻る道中、おそらく講義終わりの不動教授に会った。
そうだ、不動教授なら何か分かるかもしれない。
「おはようございます、不動教授。今お時間大丈夫でしょうか?」
「おはよう。次は講義が入っていないから問題ない。どうした?」
「フシャァァァァ!!!」
聞き馴染みのある鳴き声が聞こえたと思ったら、不動教授の肩から顔を出したのは、全身技能でお世話になっている猫であった。
相変わらず敵意MAXの態度に流石に傷つく。
「その猫、不動教授の猫だったんですか?」
不動教授は肩に乗っている猫の顎の下を撫でた。その猫の態度は一変、ゴロゴロと喉を鳴らし、甘々モードに入った。
「そうだ、私の愛猫の『にゃん丸』だ。そうか、るかの講義で何度か会っているのか」
…!?にゃ、にゃん丸!?バトラーの時と言い、やっぱりこの人、命名のセンス皆無だな!?
不動教授に名付けの依頼は絶対にしないでおこう。
って、そんなことよりも今は聞くことがある。
「えっと、全身技能の講義で少し行き詰まっていまして、るか…信楽教授に聞いても教えてくれなくて、友人に相談しても、いまいちピンと来なくて」
「るかが教えない?確かにあいつはどこか抜けてて、サボり癖があって、他人によく迷惑をかけて、寝坊、遅刻の常習犯だが、こういうことは案外しっかりしている。どういうことだ?」
スルスルと悪口が流れていった。不動教授とるかさんは長年の付き合いだと聞いたが、本当なんだよな?
信頼だからこそこういった不満も出てくるのか?
すると、にゃん丸が不動教授の頬を叩いた。何やら不動教授に耳打ちをしているが、にゃんにゃん言っているだけで、伝わるわけが…
「櫛塚の動きを見たら分かる…とにゃん丸が言っている。というわけだ、櫛塚、ついてこい」
「えっ、猫の言葉分かるんですか!?」
「にゃん丸だけだがな。他の猫の言っていることは分からない」
そういう問題でもない気もするが、猫と意思疎通ができる人を生まれて初めて見た。この猫も、不動教授と長い付き合いなのだろうか。
だとしても猫の言葉を理解できるのはすごいが。
俺は外に連れ出された。トレーニング前と比べて弱まっているが、雨はまだ降っている。
「櫛塚、離れるなよ。…領域発動」
不動教授の周囲に幕のようなものが降ろされた。
権斎が使っていたものとそっくりだ。
「領域を見たのは初めてか?簡単に説明すると、バトルフィールドのようなものだ。相当なことがない限り外からの介入はできない。つまり、周りを気にせず、思う存分動くことができる」
説明を終えると、にゃん丸が不動教授の肩からサタンと地面に降り、俺に向き合った。
「まずは見させてもらおう、話はそれからだ。にゃん丸、遠慮せずに攻撃しろ」
「えっ、そんないきなり!」
俺の返事を待つことなくにゃん丸が飛びかかってきた。タイムは正確に分からないが、おそらく30秒程度だろう。
「…もう一回」
休む間もなく2回戦。猫チャレンジは秒数こそ短いものの、かなり動き回るため、すぐに疲労が溜まる。
その後も何回か続き、5回目の所で不動教授が一度にゃん丸を連れ戻した。
にゃん丸に何か耳打ちをして、またにゃん丸を戻した。
「櫛塚、あと一回だけお願いしてもいいか」
「もちろんです」
にゃん丸が飛びかかった。それを俺は体を翻し避け、立て続けに攻撃が続いたが、見たことがある攻撃だったため、全て避けきった。そうやって無我夢中に避け続けていると、不動教授からストップがかかった。
「櫛塚、今のにゃん丸の攻撃、何か気づいたことはないか?」
「にゃん丸の攻撃?あっ、強いて言うなら、さっきの5回のチャレンジ中に見せた攻撃で構成されていたことぐらいですか」
「そうだ、ちなみに、さっきのタイムは1分を優に超えていた。確かノルマは1分だったよな」
1分超えていた?さっきまで30秒程度しか避けられなかったのに、ましてや何もアドバイスも受けてない状態でなぜ?
俺はより一層分からなくなった。不動教授は続けて、例の言葉を発した。
「櫛塚、お前は受け身の姿勢を取っているように見える」
「受け身、不動教授もそうおっしゃるんですね。友人にもそのように言われました。それって一体何なんですか?結局俺に足りないものは何なんですか?」
不動教授は表情を変えることなく、ただ俺の目を見つめながら
「あくまで私の憶測に過ぎないが、『受け身』という言葉には2つの意味が込められていると思う。1つは戦闘面、櫛塚の動きは受け身、つまり何かしらで攻撃を防ぐような被弾前提で動いているように見えた。るかの講義の目的は被弾しないこと、お前の動きと正反対のことだ」
確かに、言われてみれば俺は攻撃を受け流す、掴みながら立ち回っていた。
権斎の時もそうだった。敵の攻撃を分析して、同じ手を何度も喰らわないために、ひたすらに攻撃を受け流した。
頭の中では避けると思っていても、体に染みついたものがどうしても抜けなかったのだろう。足りないというよりかは、矯正が必要だ。
「分かりました。では、もう一つの意味とは何なんですか?」
不動教授は2つ意味があるだろうと言った。戦闘面以外にどんなことがあるのだろうか。
「それは、さっきのように、何でもかんでもすぐに聞こうとすることだ」
「…は?」
言っている意味が分からなかった。いや、分からないというよりかは、理解ができなかった。
そのせいもあり、俺は人生で初めて大人に対して「は?」と発してしまった。




