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第47話 受け身

 32秒、この記録は決していいものではなかった。

師匠の修行の時も、直近で言えば魔力纏いの修行もかなり苦戦したほうだ。

それでも、権斎との戦いが終わり、安静期間が終了した後、荒削りではあるがある程度はできるようになった。

しかし、この猫の課題、これだけは全く記録が伸びなかった。後日、全生徒は毎回講義のどこかで課題に取り組む時間が設けられるようになった。

剛やクラッシュは50秒台に突入し、あと一息というところまで来ていた。

俺はというと、未だに30秒台から抜け出せずにいた。最高記録はたったの38秒。

彼らと何が違うというのだろうか。

るかさんに質問をしても、「なんだろうねぇー」と曖昧な回答しか返ってこない。

俺は人生で初めて壁というものにぶつかった。

今日の講義が全て終了した後、いても経ってもいられずみんなに聞くことにした。


「ねぇ、俺の何が足りないと思う?猫チャレンジ、全く記録が伸びないんだけど」


真っ先に答えたのは現段階で一番記録がいい剛だった。


「分かんねぇ!でも洸平ならできると思うぞ。なんだって荒垣優菜の弟子なんだからよ!」


「剛、それ答えになってない。でも洸平には悪いけど、僕も思い浮かばないな。単純な身体能力は剛と一緒かちょい上ぐらいだから、ポテンシャルはあるはずなんだけど」


「てか、あんた魔力の核は見れるのに体の動きは見れないの?そっちの方が絶対簡単じゃない」


3人共これといった理由は分からないらしい。一応後期終了まで時間はあるが、これの単位を所得しないと受けることができない講義があるため、後回しにできないのだ。


「クラッシュは何か思い浮かぶことはある?」


そう問いかけたが、クラッシュは俯いて黙り込んだままだった。俺がもう一度名前を呼ぶと、我に返ったようにハッと顔を上げ、


「え?あっ、少し考え事をしてた。何だって?」


すると、ギュルルルーという音が周囲に鳴り響いた。

剛がスッと手を上げて


「悪い悪い、腹減っててよ。つーか、クラッシュと洸平は同室なんだから後で聞けばいいだろ。腹が減っては何とかができぬって言うしな!」


「戦だろうが、なぜ魔族の俺がお前よりも詳しいんだよ。もっと勉強しろ」


沈黙を続けていたバトラーがツッコんだ。バトラーは何故か人同士の会話に参加しない。理由を聞いて「何となく、会話がズレるかもしれないから」とほざいているが、結局のところ俺と一緒でコミュ障なだけかもしれない。

この後一緒にご飯を食べました。

部屋に戻り、クラッシュと向きあった。


「クラッシュ、あの質問なんだけど、俺に足りないものってなんだと思う?」


すると、クラッシュは俺の顔をまじまじと見て、両手で俺の頬を掴んだ。


「な、何しゅるんだよ」


「…洸平に足りないもの、僕の予想にすぎないけど、受け身な所なんじゃないかな」


そう言い切ると、クラッシュは手を離した。バトラーは相変わらず口を挟まなかった。


「じゃ、僕は風呂に入ってくる。11時回ったしね」


クラッシュは何事もなかったかのように部屋を後にした。

 ふう、洸平もあんなふうに悩むこととかあるんだ、今までが順調に行きすぎたからなのか、すごく沈んでたけど、


「クラッシュ君、言っちゃった?」


曲がり角の先に何故かるかさんが立っていた。もしかして、さっきの会話を聞いていたのだろうか、そんな大きな声で話していただろうか?


「言ったって、何をですか?」


「彼、櫛塚君がなぜ猫チャレンジのタイムが伸びないのか、その鍵となるピースを教えちゃったのかなぁって。ちなみになんて言ったの?」


一旦、なぜこの話を知っているのかは後回しにしよう。


「受け身だよね。それだけ言いました」


僕は包み隠さず言った。るかさんもきっと洸平に必要なものは分かっているはずだ。だから特に隠す理由も無いだろう。


「受け身…ギリセーフかな。彼、案外頭が固いところがあるから、丁度いいかもね。そうだ、クラッシュ君お願いがあるんだけどさ、今からこれを…」


「これを、どうするつもりだ?るか」


るかさんが引き攣った笑顔を浮かべながら振り向くと、そこには不動さんが立っていた。また何かよくないことをしたのだろう。


「悪いなクラッシュ、今から入浴だったのだろう。この罪人は私がきっちり締めておくから行くといい」


「わ、分かりました」


るかさんは固まったまま、不動警察官に連行された。

2人とも任務はどうしたんだろう、まあ不動さんがいるってことは、大丈夫なのだろう。

2人を遠目で見送りながら、俺は入浴場へ向かった。

 受け身…きっとそのままの意味なんだろうけど、むしろるかさんから俺は何も教わってないぞ?

ひたすら攻撃を避け続けて、攻撃が当たればすぐに2回戦、3回戦、これの繰り返し、何のアドバイスもない。


「そういえば、バトラーはどう思う?」


魔族から見たら、また違う視点の意見が来るかもしれない。そう期待したが、返ってきた言葉は


「何となくこれだろうというものはあるが、ここでは言わん。それこそクラッシュが言った『受け身』という言葉は的を射ているぞ」


「は?分かってるなら言えよ、ケチだな」


その言葉を聞くと、バトラーは大きなため息をついた。


「…そういうところだ。俺はもう寝る、あんまりうるさくするなよ」


バトラーそう言って布団に入り、数秒経った後、スースーと寝息が聞こえてきた。

眠るスピードのび太君かよ。

"受け身"俺に足りない何かを指しているのかもしれないが、この時の俺にはまだ分からなかった。






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