第46話 別メニュー
俺はるかさんに提案されて(呆れて?)周りのみんなとは別のメニューを実施することになった。
それが、るかさんとのタイマンである。どちらにせよ死刑判決であることに変わりがない。
ちなみに、バトラーは出禁を食らったらしいので同席している。何をしたんだお前は。
「じゃあ洸平君には今日から僕の攻撃を避け続ける訓練をしてもらうよ。ゲームは滅魔隊にとって必要な要素の宝庫だと思うからね。本当はゲームで鍛えてほしかったんだけど、あまりにも下手…苦手だったみたいだからね」
もう下手って言っちゃってるし。全部のゲームで即ゲームオーバーになってしまうような俺だ。
下手と言われて当然だろう。
「まあこいつ才能なかったもんなぁ、はじめての俺ですら最初のステージくらいはクリアできたぞ?こいつ、ただの運動バカなんだよ」
「バトラー、お前に言われるのだけはムカつく」
「なんですか?下手くその洸平くーん?」
しばきたくなるようなニヤニヤ顔を浮かべながら俺を煽ってきた。クソ、事実だから何も言い返すことができない。
こいつに馬鹿にされるのは屈辱以外何者でもない。絶対に見返してやる。
冷戦状態になった俺たちをなだめるようにるかさんが話を始めた。
「ええっと、洸平君は優菜君に鍛えてもらった関係上、実践形式がいいかなって判断しただけだよ。決して下手だったからって……いうわけじゃないよ」
その沈黙やめて?沈黙は肯定してるようなものですよ。最早わざとやってるでしょ。
あとバトラー、お前はニヤニヤすんな。
「じゃあバトラー君は後で、洸平君、構えてごらん。君が生半可な攻撃には当たらないことはわかってるからね。ちょっとガチでいかせてもらうよ」
そう言い切った頃に、2〜3mは離れていたはずのるかさんの拳の背面が俺の脇腹に直撃しようとしていた。
俺は間一髪のところで身を翻して避けた。
「流石だね、君ぐらいの歳で大抵の子は反応すらできないんだけど。流石は優菜君の弟子と言ったところかな。まさかマグレだなんて言わないよね?」
まるで準備運動と言わんばかりの言葉に、俺は「当たり前です」と返答した。その答えを聞いたるかさんは再び構えた。
「じゃあ次からは軽い魔法も入れていこうかな。君が得意とする『魔法掴み』を使ってもいいよ。まずは僕から一撃も喰らわないを目標に頑張っていこう」
るかさんとのタイマンが始まって1時間が経過した。時折休憩も挟んだり、バトラーと変わったりしたものの、結局るかさんの猛攻に1分も耐えることができなかった。
るかさんの攻撃は正確だった。まるで俺がどこに避けるのか、どのように避けるのか読んでいるかのようだった。
避けた先に攻撃を仕掛ける、フェイントを入れ混ぜた攻撃など、多種多様だった。
るかさんはゲーム部屋に行き、講義を終わらせる指示を出しに行った。
地面に仰向けになった俺の顔をバトラーが覗き込んだ。
「お前、ずっと前から思っていたんだが、すごく素直だよな」
「…どういう意味?」
「そのまんまの意味だ。特に深い意味はねえよ」
素直という言葉に俺は妙に引っかかった。褒めてるわけでも、貶してるわけでもない気がする。
バトラーは続けて俺に話しかけた。
「あいつ、本当に強かったな。俺の動きが分かってるみたいだった。今まで避けるだけなんてことが無かったからのそう感じただけだろうか?」
「やっばりバトラーもそう感じた?」
「あぁ、あとこれは俺の予想だが、あいつ、あれでも全然本気出してないぞ。表情を見る限りじゃ、俺たちを弄んでいたようだったしな」
もしそうだとしたら、俺はすごく未熟なのではないだろうか。猫の攻撃も、本気を出してないるかさんの攻撃も1分耐えることができていないのだから。
別に鍛錬を怠っているつもりはなかった。夏季休暇の時も、多くの修行を行ったし、こっちに戻ってからも鍛錬は毎日欠かさず行っている。
もっと頑張らねばいけない、ただそう思った、
翌日、再び猫の課題を実施するため訓練場に集められた。俺はまだしも、剛やクラッシュ達は少なくともこの講義中ゲームしかしていない。
本当に課題に合格または記録が伸びるなんてことがあるのだろうか。
しかし、その考えは浅はかだった。剛は41秒、佐久間は36秒、クラッシュは39秒、千尋は20秒だが、全員前回と比べて15〜20秒近く記録を更新した。
俺がはじめてこれを行った時の記録が大体30秒と、3人に抜かれている。
正直、かなり驚いた。この伸び方は異常だ。猫の攻撃は単調ではなく、たまに魔法も繰り出してくる(今更だけど魔法を使う猫って何?)。それも完璧に避けきるには相当な動体視力、判断力が必要だ。
彼らはそれをゲームで鍛え上げたというのだろうか。
記録が伸びたのは剛達だけではない。他の学生も10秒近くタイムを更新している様子だった。
この理論でいけば、俺も10秒近くはタイムを更新できるはずだ。少なくとも5秒は更新したい。
「じゃあ次櫛塚君、始めようか」
相変わらず敵意マックスの猫が出迎えた。俺は静かに構えた。やがて、始めの合図が出された。
記録はたったの32秒。前回と殆ど変わっていなかった。この結果に、なぜか他の学生が一番驚いていた。
俺も言葉が出なかった。悔しいとかそんな感情ではなく、無だった。この時は何も考えることができなかった。
―信楽るか視点―
洸平君は目がいいんだな、僕が一度使った攻撃技は殆ど防がれるようになった。でも、はじめて見せる技や攻撃動作にはめっぽう弱い。
彼の観察眼は被弾前提の上で成り立っている。
それじゃよくないよ。被弾したものが即死技だったら、せっかくの長所も生かしきれずに死ぬことになるのだから。
でもね、僕はそれを言うつもりはないよ。教えるだけが成長につながるわけじゃない。こういうのは自分で気づいて初めて成長出来るのだから。




