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第43話 ズレている男、信楽るか

「じゃあ今から全身技能の講義を始めるねー、みんなは夏休み何してた?僕はね、ずっっっっと任務でもう大変だったよー。本当は初回で朝イチだし休講にしようっかなぁって思ったけど、不動教授に止められちゃった。ま、今日は()()やってこっか」


夏季休暇明け一発目はるかさんの講義だった。相変わらずヘラヘラした様子に他の学生の緊張もほぐれた様子だった。


「じゃ今日は大学周りのランニング10周で終わりにしよっか。じゃ各自始めていいよ〜。そうそう、移動速度上げる魔法使うとかは無しだよ。ちゃんと自分の足で走ってね〜」


んんんん?一応この大学の外周約4kmあるのだが、単純計算でも40kmはある。フルマラソンと同じくらいの距離だ。とてもじゃないが、全員が90分以内に走り切れるとは思えなかった。

…もしかして不動教授が言っていたのはこういうことなのだろか?


「るか、信楽教授は他の人との感覚がかなりズレている。彼が使用する『軽い』や『緩い』という言葉には気をつけた方がいい。控えめに言ってかなり鬼畜だからな」


前期の講義の時にそんなことを言っていた。その時はなぜそんなことを言うのだろうかと思っていたが、そういうことだったのか。

だから次のコマは空いているのか?まさかな。

言われた通り皆自分たちのペース(多分いつもよりはハイペース)で走り始めた。

俺が3周した頃、最後列の人を追い抜いた。その顔を横目に見ると、千尋だった。


「はぁ、はぁ、って洸平!?あんた速くない!?」


「千尋が遅いだけだと思うよ」


「あんたが速すぎるのよ!その証拠に、あんたの後ろ誰もいないじゃない!」


私が2周目だから、洸平は3周目ってとこかしら。

10km走ってるのに息がちっとも上がってないってどういうことよ!この「俺まだ余裕っすけど?」みたいな顔、本当に腹が立つわね。


「こればかりは同感だ。確かに洸平は人間にしては速すぎる。だが、千尋の遅さも大概だぞ?」


「バトラー、あんたも走ってたのね」


こいつ(バトラー)もこいつでなんで太陽が出てるのに洸平のスピードについて行けてるのよ?

これじゃ本当に私がノロマみたいじゃないの!(※全体的に見たらその通り)


「…じゃそういうことで、俺は洸平を勝…側にいないといけないからな。無理しない程度に頑張れよ」


そういうとバトラーはいつの間にか遠くに走って行った洸平の後をついて行った。

その直後後方から、


「うぉぉぉぉ!待てークラッシューー!」


「剛、少し飛ばしすぎじゃない?まだ3周目なのに」


「佐久間、分かってねぇな、人生は勝負の連続なんだぞ!だったらより上の順位を狙うってのが(おとこ)だろうが!」


「「ちょっと何言ってるから分かんない」」


なんか馬鹿なことを言いながらクラッシュ、剛、佐久間の順で私を抜き去って行った。

この調子だと洸平にも剛達にも何周もの差がついてしまう。それだけは私のプライドが許さない。

私は走るペースをさらに上げた。

 俺は後続と大きく差をつけてランニング10周を終えた。ゴールしたら、るかさんがおもむろに近づき、水が入ったペットボトルを渡してくれた。


「お疲れ様、正直90分でゴールできるとは思ってなかったけど、流石優菜君のお弟子さんだね。余裕だったかな?」


俺は渡されたペットボトルの水を飲み、その場に座り込んだ。


「いや、るかさんの方が大変だったです。師匠ですら 10km程度でしたよ」


「おや、そうなのかい?やっぱり僕の走る量は多いのかな?毎年講義内に走破できる人は1人いるかいないかぐらいだからさ」


逆に40kmが緩いと感じてるんですか、どうかしてますよあなた。っと言おうと思ったが、寸前のところで踏みとどまった。


「あれ?洸平もうゴールしたんだ。やっぱり速いね、全然追いつかなかったよ」


「うわぁぁ!?」


いつの間にかクラッシュが俺の背後に立っていた。相変わらず表情は見えないが、肩で息をしているため、限界に近いことは分かった。

るかさんはすかさずペットボトルを渡し、それを受け取ったクラッシュは、袋の下からペットボトルを入れて水を飲んだ。飲みづらいだろそれ、もう袋取ればいいのに(n回目)。


「ぜぇ、ぜぇ、追いつけながっだ!洸平もクラッシュも速すぎだろ!」


「はぁ、はぁ、剛も速い方だと思うけど…全然」


「剛君、佐久間君おかえり。ほら、これ飲んで息を整えな。それにしても今年は優秀だね。時間内で走り切る人がこんなにもいるなんてね。それに…」


「はぁ、るかさん!私も走り切りましたよ!」


そう言いながら千尋がこちらへ近づいてきた。千尋…俺2回は抜いたから10周してる筈がないのだが、


「…嘘はよくないよ。まだ8周しかしてないでしょ」


千尋が「ギクッ」と言わんばかりの表情を浮かべ、「何でバレるのよ!」と言いながら渋々ランニングを再開した。


「ズルしようとする人もいないって言おうと思ったのに、結局今年もいたね」


やれやれとるかさんは呆れた。

俺達もるかさんに同感した。

ズル、ダメ、絶対。


―???―

「勲様、ご令嬢が失踪してはや3年が経過いたしました」


「3年か、もうそんなに経ったのか」


「私共全力で捜索していますが、未だ情報が掴めません。どうかお許しください」


「…もういい、私も自ら探すとしよう。少し気になる奴がいたからな」


「それは、何という方ですか?」


「名は知らん。だが、かなり見た目が特徴的な人間だ。今すぐ向かいたいところだが、まずは仕事を片付けてからだ。…この後の予定は?」


「19時より取引先の社長との食事会でございます」


「あのハゲジジイか。まぁ人脈を広げるに越したことはない。分かったすぐに支度しよう」


「奥の部屋にお洋服を用意しております」


私の予想が正しければ、奴は私の娘に違いない。たとえどんな変装をしたとしても、私の目を誤魔化すことはできない。


「フフフ、もうすぐ迎えに行くからな。それまで大人しく待っていろよ、()()





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