第40話 メイド(?)
「洸平はすごいねぇ、またテストで高得点取ったの?今日はご馳走ね」
「洸平、洸平が欲しがっていた本買ってやろうか?何、遠慮する必要はない。ほら、レジに並ぶぞ」
これは…お母さんとお父さんの声?でも二人の顔が分からなかった。これは夢なのだろうか?夢だとしても、まだ醒めないでほしい。
もう少し、あと少しだけこの時間を過ごしたい。
「洸平、今のお前には本当の両親がいる。洸平、今までありがとうな、私とはお別れだ」
師匠の声の方を振り向くと、そこには今にも泣きそうな師匠が立っていた。やがて、師匠は踵を返し先が見えないほど真っ暗な空間へ歩き始めた。
「え…師匠?何でそっちに行くんですか?こっちに来てくださいよ、師匠…師匠!」
俺は必死に師匠を追いかけて、師匠の肩を強く握った。師匠の肩は何故かとても柔らかかった。毎日鍛錬を欠かさず行なっている師匠の肩がだ。
「ちょ、ちょっと洸平君…そ、それは流石に…」
恥ずかしそうにしている声が聞こえ、目を覚ますと、清野さくら准教授が視界に入ってきた。そして次に視界に入ったのは、さくらさんの胸に埋まっている俺の手だった。
「…¥☆#$○〆!?」
気が動転しすぎて、ろれつが全く回らなかった。俺は急いで手を引っ込めた。さくら准教授は頬を紅潮させ、腕で胸を隠しながら、
「そ、そうよね…洸平君だって、お、男の子だもんね…仕方ないことだけれど…意外と積極的…なのかしら?」
「ちっ違います!まさかそこにいるとは思ってなくて、じ、事故なんですよこれは!」
「洸平君、私怒らないから…自分に正直になっていいのよ?」
「だーかーら違うんですって!」
さくらさんの誤解を解くのに20分かかった。
「そうだったの…でもまだ私で良かったわね〜、奈々ちゃんか千尋ちゃんだったらきっと殴られてたかもしれないから〜」
奈々准教授のことはよく分からないが、千尋は間違いなく殴ってくるだろう、というか殴るだけで済むのだろうか?容赦なく魔法を放ち殺される気がする。
そんなことよりも、俺には気になることがあった。
「さくらさん、師匠は?あの魔族は?」
「大丈夫、洸平君がやられた魔族はちゃんと討伐されたわ。優菜ちゃんも生きてるわ」
「よ、よかった…」
あの夢を見た後だからか、いつも以上に安堵した。
やがて、師匠が部屋に入ってきた。少しの沈黙の末、師匠はベッドに近づき、俺を抱擁した。
「し、師匠?」
普段の師匠なら絶対にしない行動に俺は戸惑った。
「心配かけさせやがって、この馬鹿弟子が…!」
「洸平君、優菜ちゃんはずっと君のことを心配してたのよ。目を覚まさなかったらどうしようって、優菜ちゃんにとって洸平君は、家族も同然なのよ」
その言葉を聞いた瞬間俺の中で何かがこみ上げてきた気がした。俺にとって師匠はかけがえのない存在だ。俺は今回の一件から、2度と師匠を不安にさせてはいけないと強く決意した。
しかし、俺は何かを忘れている気がする…。
「し、師匠、ソードはどこですか?死んでるなんてことはないですよね?」
その聞いた瞬間、何故かさくらさんが吹き出した。口を手で押さえながら笑っている。
すると、抱擁をやめた師匠が、
「あぁ、けんちゃんならもう少しで来ると思うぞ…っと噂をすれば」
トントンとドアを叩く音がし、師匠が「入っていいぞ」と扉越しに言った。その声を聞き、ドアが開いた
「失礼します、荒垣様。ご指示の通りお粥を作って参りました。どちらへ持っていけばよろしいでしょうか?」
「ブッフォっ!!」
メイド姿のソードが立っていた。しかも師匠に対して敬語を使用している、あのソードが。
俺はあまりのインパクトに笑いを堪えることができなかった。
「ソ、ソード、似合ってるよ…す、すごく。あとお粥フッありがとう、フフフ」
「テメェ!笑ってんじゃねぇ!俺だって好きでやってるんじゃねえよ!」
「けんちゃん?メイドさんはそんな汚い言葉を使ってはいけませんよ?」
いつの間にか背後に回った師匠がソードの耳元で囁いた。表情はニコニコ笑顔、何故だろう、ものすごい恐怖を感じる。
「は、はい。申し訳ありません」
そしてこいつはマジでどうした?
ついこの間まで「ぶっ殺す」とか言ってたくせに、突然てのひらを返した。
それを読み取ったのかさくらさんが小声で教えてくれた。
「けんどうし君、君が治療されて眠ったのを確認してから優菜ちゃんに"ご指導"されてたわよ〜。帰ってきた時にはけんどうし君、白く干からびて帰ってきたから、相当効いたのかもね〜」
あぁ、そういうことか。師匠の"ご指導"は反論すればするほど沼にはまってしまう。ご指導は素直に黙って聞いていることが一番ダメージが少なく済む。
俺も最初の頃は反論して、ソードみたいになってたな。懐かしい…。
ん?ってことは、今揶揄い放題ってことじゃないか?
あら洸平君、いたずらっ子の顔してるわ。微笑ましいわね〜、奈々ともこんな風にイチャつくことができたらなぁ。
その頃の清野奈々はくしゃみをしていた。
誰か私の噂でもしてるのかしら?まあ十中八九さくら姉さんでしょうけど。
そういえば、姉さんは今どこにいるのかしら?いつも朝になったら私のベッドに飛び込んでくるのに、まあ姉さんだから死ぬことはないでしょうし、杞憂かしら。
「奈々姉さん、風邪ですか?」
「いえ、大丈夫よ。千尋、この夏までに三属性同時魔法をマスターしてもらうから。ペース上げていくわよ」
「はい!よろしくお願いします、姉さん」
奈々と千尋は再び向き合った。
もう少しネタ回続きます




