第39話 癒術師
洸平の止血を済ませ、アラユーの戦闘を見た。
一言で表すならば、圧倒的。本来準階級者であってもこのようなことになるはずがない。それだけアラユーが規格外だったのだ。
「やっぱり…師匠には敵わないなぁ。俺ももっと強くならないと、次に権斎みたいなに奴と出くわしても勝てるように、俺は…」
「洸平、これ以上喋るな、傷口が広がる。怪我人は大人しくしていろ」
俺は魔法も使えなければ、滅術もしょぼい。だからこそフィジカルに全てを注いできたつもりだった。
肉弾戦には誰にも負けないと。だが、それは大きな間違いだった。俺は魔族ですらない人間に劣っている。
実際に戦わずとも、そう実感した。厳しい現実を突きつけられ、拳を強く握った。
「洸平、明日からお前が受けてた修行、俺も一緒に受けてもいいか?…洸平?」
返事が返ってこなかったため、視線を下ろすと洸平が失神していた。地面には血が大量に流れていた。
「なっ!?ちゃんと止血はしたはず…絶対喋ったからだろうが!と、とりあえず家に運ぶか」
俺は急いで洸平を抱えてアラユーの家に向かった。脈はまだあるが、大量に出血しているため危険な状態だ。こういう時はどうしたらいいのだろうか?素直に
119番すればいいのか?それとも滅魔隊付属の救急隊に連絡するか?そんなことを考えながら扉を開けると、
「あっおかえり〜優菜ちゃ…って洸平君!?けんどうし君、今すぐ洸平君を横にさせなさい。早く!」
そこには清野さくらの姿があった。なぜここにいるのかと疑問に感じたが、まずは洸平の方が先だ。
「エンブレム起動、治癒の楽園」
な、なんだこの膨大な魔力量は!魔族の中でもこれほどの魔力を持つ者は少ない。普段は魔力を抑えて生活しているのか、魔力操作も優れている。
洸平の血はすぐに止まり傷口も塞がったが、洸平は依然として目を閉じたままだった。
「結構危なかったわね、けんどうし君の止血、ここに連れてくる時間。どちらか一方でも欠けていれば手遅れになっていたかもしれないわ」
「そ、そうか。ていうかお前そんなキャラだったか?普段はもう少しおっとりしてないか?」
これを聞いた彼女はいつもの表情、口調に戻り、こう答えた。
「それはね、みんなを安心させるためにやってるのよ〜。私はただの癒術師だから前線にはあまり行かないから、心身共に支えてあげたいの。そのために私はバカなフリも、おっとりした口調もやってるの、全てはみんなのために。あっバカなのは元からだったわね〜」
清野さくら、ただの癒術師は一瞬で傷を治すことはできないぞ。ましてや他人を治癒するなら尚更だ。なぜ絶対者はみな(色々な意味で)ネジが外れているのだろうか。
そんな会話をしていると、外からドタドタと音を立てながらアラユーが入ってきた。
「さくら!洸平は!?」
「大丈夫よ優菜ちゃん。ほらっ、ぐっすり眠ってるわよ〜。明日1日はゆっくりさせてね。疲労が溜まってだろうから、ちゃんと休ませないとね〜」
「そうか、よかった…!」
アラユーは安心したのか、その場に崩れ落ちた。普段洸平にはキツイ言葉を浴びせたり、人外のようなことをする彼女だが、弟子のことは心配で仕方がないのだろう。不器用な人間なのだな、荒垣優菜という人物は。
「さて、洸平の安否が分かったところで…けんちゃん、ちょっとこっちに来てもらえるかな?」
大きな声で反論しようと思ったが、隣に洸平が眠っているのを思い出し、小声で話した。
「だから、俺の事をけんちゃんっておいなんで引っ張るんだよ!ちょ清野さくら、見てないでこいつをどうにかしてくれ!」
清野さくらは全く動こうとしていなかった。むしろ、哀れみの目を向けられたような気がした。
「けんどうし君。無事に返ってきてくださいね」
「どういうことだよ、おいっ、おーーーーい!!!」
ソードの叫び(小声)も虚しく、ソードは荒垣に引きずられながら外へ運び出された。
この後、荒垣優菜によるソードへの"ご指導"は1時間近く行われた。
最初の方はソードの声が聞こえてきたが、段々と声は小さくなり、最終的には聞こえなくなっていったらしい。
―魔族領 王宮―
「王が変わってから階級者が集められるのは初めてか?一体何があったのでしょうか」
「NO.8、お前の目は飾りか?方針者もいるのだぞ」
「NO.9は分かるとして…NO.1はまたいないのか?」
「あいつに期待するだけの意味はない」
「ところでNO.5、君また税ギリギリだったらしいね、鍛錬なんかするよりもよっぽど楽しいよ」
「お前には関係ない。納めていれば問題はないだろう?お前の価値観を俺に押し付けるな」
「へぇ、言うようになったじゃん。弱いくせに」
「…お前の腹を抉り返してやる」
「やれるものならね。いやー、弱い者いじめは楽しいね!ねぇねぇ今度みんなで一緒に」
「黙想」
賑やか(?)な空気から一転、一気に張り詰めた空気へと変化した。
「やめ、今回集まってもらった理由は他でもない。準階級者の大量討伐についてだ」
魔族領、どうやら不穏な動きが見え始めた。人間と魔族の歴史的決戦は、そう遠くないのかもしれない。




