第38話 師匠の実力
買い出しを終え帰り道の途中、携帯から警報が通知された。嫌な予感がした。
本来この通知は魔族の討伐が完了すれば鳴らない仕様となっている。通知が鳴るということはつまり、誰かが討伐に失敗したことを意味している。
家に戻り、すべての部屋を確認しても洸平、ましてやけんちゃんの姿もなかった。
二人がいるはずの訓練場に向かった。どうやら私の嫌な予感は的中してしまったようだ。
領域が張られていた。領域の外からは中の様子が見ることはできない。中に入るには、これを張り巡らせた張本人が領域を解除するか、外から無理やり破壊するしかない。
前者は望みが薄いと考えた私は、後者を選び攻撃を重ねた。
そして現在に至る。
「し、師匠!あいつの滅術は…」
「洸平、無理に喋るな、傷が広がるぞ。それにそんなもの聞かなくても勝てる。私に任せろ。あぁ後…」
師匠の視線の先にはソードがいた。
「けんちゃん…お前は後で"ご指導"だ」
「だ〜か〜ら〜、けんちゃんってよb」
「分かったな?」
女性とは思えないドスの効いた声に思わずソードは黙り込んでしまった。
そして改めて権斎に向き合った。
「待たせたな。お前、魔族にしては強い方なのではないか?私の弟子は大抵の魔族に勝てる程度には鍛えあげたのだが、まさか階級者か?」
その言葉に権斎の眉間にシワが寄った。
「そう…ですね、階級者でした。NO.6です。あなた方人間も年々実力を上げているのでしょうが、それは我々も同じです。時が流れるにつれて頭角を表す者、彗星の如く階級者に食い込む者、私はそういった流れに置いて行かれた者です。本当に怖いですよね、インフレというものは」
階級者は区別をつけるためにナンバーで呼ぶことが殆どだ。基本的に数字が小さいほど強いという解釈でいいが、たまにそうじゃないやつもいるがな。
確か師匠はそんなことを言っていた。NO.6ということは、その文字通りに捉えるなら権斎は上から11番目の実力者だったということだ。
魔族の総数は少なくとも数百万体はいると推測されている。
11という数字は大きく感じるかもしれないが、決して低い数字ではない。
「まあそんなことはどうでもいいです。櫛塚君の師匠が何か知りませんが、やることは変わりません。滅術、書名転送"終幕"」
権斎の初見殺し技を師匠はもろに食らった。書業無情を受け、動きが止まった。
「どんなに強くても、動きを止めてしまえばこちらのものです。私は素手で女性だからといって手加減はしませんよ」
権斎の本が師匠の脇腹を襲い、鈍い音が鳴り響いた。
「…?」
確かに鈍い音が鳴ったはず。しかし、この女性の体は吹き飛ぶどころか微動だにしなかった。
まるで巨大な柱に攻撃したような感覚だ。
直後、私の右頬が歪んだと思ったら、私の方が体を大きく吹き飛ばされた。
滅魔隊には、守備を専門にしている者もいる。しかし、殆どは防具や魔法に頼り初めて防御力を発揮する。だが荒垣優菜は鍛錬により、素で高い防御力、頑丈さを持つ身体を手に入れた。何の付与魔法もなくここまでの防御力を持つ人間は、現在彼女以外にいない。
「…おい、今の…拘束魔法か?」
ドスの効いた声に私は今まで感じたことのない恐怖感を覚えた。
さあ始まりました。荒垣優菜、嫌いなこと(もの)ランキング!
第2位
自分が言ったことを守らない上に他人を危険に晒す行為をした時。
第1位
姑息な手を使って戦う奴ら。特に拘束、誘惑魔法を使用する者達を指す。
荒垣優菜は、ソードの行為に激怒していた。それに追い打ちをかけるような拘束魔法(書業無情)。この二つが重なり、荒垣はブチ切れ…いや憤慨した。
そして、その怒りは全て権斎に向けられることとなった。
「もう少しだけ戯れても良かったが、気が変わった。もう終わらせる。貴様、覚悟はいいか」
権斎は彼女に対する恐怖感、威圧感に押され、動くことができなかった。
「エンブレム起動。極天豪天」
「め、滅術書帯障壁"終幕"!」
発動は間に合った。なんとか攻撃を凌いだあと、書籍鑑包で…
腹に激痛が走り、吐血した。自分の腹を見ると、巨大な穴が空き核が破壊されていた。
力をなくした私の体はすぐに崩れ落ちた、同時に体の崩壊も始まった。
「なぜです?私は確かに書帯障壁を発動したはず、終幕になれば必ず一回の攻撃を無効化できるはずです。なぜ攻撃が届いたのですか?」
荒垣は崩れていく権斎を見下ろしながら、ドスの効いた声のまま答えた。
「私のあの技は、自分の攻撃力を5倍にしつつ敵の如何なる防御魔法を貫通してダメージを与えるものだ。対策として、それと同等の威力を持つ攻撃を打ち返すか…自分の身体で耐えるのみだ。私はお前のような戦い方をする奴が大嫌いだ。反吐が出る」
「そう…ですか。私の負けです、潔く死ぬと…しましょう。私の…物語は…これ…で…完…結…です」
準階級者、権斎の体は灰になって消えた。
権斎の描いてきた物語、彼にとってそれは傑作だったのか駄作だったのか、そんなことを人間は知る由もなかった。




