第34話 信楽るか
「…確かにくだらねぇな、俺はこんなやつに負けたのか、情けねぇ。おいアラユー、お前はたかがこんなことでメソメソしてたのか?」
なんと師匠に浴びせた言葉は、励ましとは程遠い、罵りだった。
「たかが?なんだ、お前もあっち側のやつなのか?」
「まさか、むしろお前達側だぞ。俺には才能という才能はなかった。向こうでは不遇、失敗作なんて呼ばれていたからな」
「ソードが失敗作?」
「そうだぞ、魔力量だけはあったが、魔法すら使えない、滅術も戦闘向きじゃない、極めつきに魔族にしては小柄な体格。不遇のお子様ランチなんだぞ俺は」
確かソードの滅術は武器を創り出すものだった、冷静に考えてみれば、武器を創るだけで攻撃技、防御技がないのは確かに致命的だ。しかし、
「確かにお前は不遇なのかもしれない。しかし、当時の私から逃げ切り、洸平から聞いたが元階級者なのだろう?決して弱くはないだろう」
そうだ、ソードは強い。性格には難があるが実力は本物だ。太陽が出ていたとしても今の俺では勝つことができないだろう。
「そうだな、自慢じゃねえが、そこら辺の雑魚と比べれば俺の方が断然強い。それは何故か?それは、俺が死ぬほど鍛錬したからだ…アラユー、お前は違うのか?もしお前が弱者だったら、洸平はここまで強くなれるわけがない」
「そうだよ、師匠のおかげで俺はここまで強くなれた。勿論荒削りな部分もまだまだあるけど、今の俺がいるのは師匠にのおかげだよ」
師匠に足りなかったもの、あったはずのもの、それは
「師匠は誰かに認められたかったんじゃない?でもその心配は杞憂だよ。俺だけじゃない、師匠はたくさんの人から尊敬されているし、憧れている。…もちろんるかさんも、さくらさんもね。だから-そこまで気負う必要はないんだよ」
師匠の表情は変わらない、少しだけ机に顔を埋め、顔を上げると
「弟子に慰められるなんて、師匠失格だな私は。でも、少しだけ…えっ」
師匠の目から一粒の涙が溢れ、机に落ちた。何故涙が出たのか分からない様子だった。
俺自身も、この涙の理由は分からない。しかし、一つ言えることは、俺が家を出るときに流したら涙とは別物だということだ。
俺ソードを連れて外へ出た。今は師匠一人にしておいた方がいいと考えたからだ。
誰にも認められず(正確には認められていることに気づかなかった)に苦しかっただろう。
でも師匠は戦い続けた。自分の出世のためではなく、見ず知らずの人々のために。実力もあり、誰かのために戦うことを当たり前としている、果たしてそのような人間を弱者と言うだろうか?
信楽るかは任務に出ていた。いつも通りの街に出た魔族討伐のために。他の隊員と共に着々とこなしていき、19時半には任務が完了した。
その帰りの街の森の中、信楽るかは急に立ち止まると
「悪いけど先に戻って報告しておいてくれない?ちょっと用事を思い出てね」
隊員は慌てた様子で
「で、でしたら私が代わりに行ってきます!」
「あーいいよいいよ。今日だったでしょ、君が見たいって言っていた映画の公開日は。行ってきなよ。見たい時に見ておかないと、僕達はいつ死ぬか分からないんだからさ」
「あっありがとうございます!このご恩は忘れません!」
そう言うと、隊員はそそくさとその場を後にした。
「全く、ご恩だなんて大袈裟な…そう思わないかい、君達?僕達のことずっと尾けてたでしょ」
すると、10体の魔族がるかの周りを囲んだ。
「あの人間が雑魚とはいえ自ら一人になるとはな、かえって好都合だ」
「で?君達は何をしにここに来たんだい?もうすぐイッ◯Qが始まるから急いでるんだけど」
「ふん、だったらそれを見る時は無いな。なぜなら、信楽るか!ここがお前の墓場になるのだからな!いくら人類最強といえど、準階級者10人を同時に相手することはできないだろう」
るかさんも大きく溜息をつき、ヘラヘラした様子でその魔族にこう返した。
「いやー舐められたものだね、君の言葉を借りると雑魚が何人いようと、僕には敵わないよ。ほらっ、かかってきなよ」
そう言いながら両腕を広げた。これは誰が見ても分かりやすい挑発だ。
それを分かった上で、魔族は乗った。
「上等じゃねえか、すぐに終わらせてやるよぉ!滅術…」
「おっっそ、そんなの敵は待ってくれないよ。あっ、殺しちゃったから聞こえるわけないか、ハハハっ」
絵に描いたような瞬殺、周りにいた他の準階級者の魔族は息をつく間も無く攻撃を仕掛けた。
「滅術、蔦々溂々!」
「滅術、超高衝撃波!」
「「「「「「滅術!」」」」」」
全方位から拘束技、近接攻撃技、遠方魔法、全てを捌ききることはできず、殺す事ができただろう。そう、相手が絶対者、しかも人類最強、史上最強と呼ばれている信楽るかでなければ。
「君達の攻撃は確かにすごいんだろうけど、届かなければ、発動しなれけば意味がないんだよ」
森には9体の死体が転がった。残りは1体のみだ。
「滅術、転送の栞、書名転送!」
るかの攻撃は急所には当たらず、生き延びた魔族はどこかへと消えてしまった。
「あー、逃げられちゃった。まいっか、準階級9体倒しただけ十分でしょ」
生き延びた魔族は腹を押さえながら歩いていた。
「はぁ、はぁ、あと少し発動が遅かったら死んでいたかもしれません。なんとか首の皮一枚繋がりました」
腹を見ると、核の一部が欠損していた。核が欠損しても再生するが、かなりの時間を必要とする。
「…今は耐える時です。私は何としてでも階級者に戻るのです!」
そう言い残し、人間界を後にした。




