第32話 感じ取ったもの
短め。
「洸平、そろそろ夕飯にするぞ…洸平?」
呼びかけに応じない、というより聞こえていない様子の洸平にほんの少し戸惑った。
「アラユー、こいつは俺に任せとけ。きっと今感じているはずだ」
ソードの言う通り、洸平は今まさに魔力の流れに気づき始めていた。
俺の体全体に血液以外の何かが流れている。もしかしてこれが魔力か?師匠もソードも四六時中これを感じているのだろう。
次はこの感覚を目覚めた後でも感じ取れるようになればいいはずだ。
目を開けると、あたりは黒に染まっていた。昼食を摂った後すぐのおよそ13時過ぎに座禅を組んだ。
夏の季節に日が完全に沈むには19時を回る必要がある。つまり、少なくとも6時間は経過したということになる。
しかし、魔力を感じ取るだけで丸1日かかってしまった。俺はスタートラインに立っただけ、まだまだ先は長い。
「その様子だと、感じたのだな?魔力を。いくら洸平とはいえもう何日はかかると思っていたんだがな。毎度お前の成長スピードには驚かされる」
「そうか?大分時間かかったけど」
「たったの1日を時間がかかる…それ、他の人には言うなよ、嫌味に聞こえるからな。あのアラユーでさえ3日かかったと言っていたぞ」
「それは魔力纏いの習得に」
「魔力を感じ取るまでだ。お前は自分が思っているよりもぶっ飛んだ奴なんだからな?…色んな意味で」
なんだかすごい含みを感じたような気がしないでもないが、それは結果論にすぎない。結局どんな場所においても、結局重宝されるのは練度だ。
ただできることと、使いこなすことには雲泥の差がある。
「まあ、この程度で満足はしないよ。むしろここからが本番…なんでしょ?」
ソードはコクリと頷いた。
今は食事をとっている時は大体大学の話で持ちきりになる。これは師匠のルールで、食事の時間には修行関連の話をしないこととしている。
というのも、修行とプライベートの時間の区別をつけるためらしい。
今日は師匠の学生時代の話になった。実際俺も聞いたことがなかったため、かなり興味を惹かれた。
「別に大した差はないと思うぞ?強いて言うなら、同期組に化け物が多すぎたことぐらいか」
「「化け物?」」
俺とソードの声がハモった。なんとも不覚…
「あぁ、二人が知っている人で言えば、不動累、信楽るか、清野さくらは私の同期だ」
「えっ…マジですか?」
「マジだ。私も色々な面で自信はあったんだが、三人、特にるかが規格外すぎて他の人のやる気が失せるぐらいにはな」
「るかさんってそんなすごい人なんですか?すごく失礼だけど、普段の様子を見ているとそのように見えないですけど」
「洸平、知らねえのか?信楽るかは現人類最強と呼ばれているのだぞ。魔族達でさえその名前は広まっているんだぜ」
やはり、何度聞いても信じられない。能ある鷹は爪を隠すというものか?確かにるかさんの戦っている姿は見たことがない。いつかそれを見る日が来るだろうか。
「そういえば、師匠はどうして絶対者…滅魔隊を辞めたんですか?俺、それも気になります」
師匠は黙り込んだ。俺は踏み入れてはいけないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。
やがて、師匠はゆっくり口を開いた。
「言ってもいいが、大した理由ではない。むしろ、笑い話に近い」
そう言いながら、師匠は話し始めた。そのなんとも悲惨な過去を。




