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第31話 座禅

「…ごめん、もう一回言って」


「お前一回『無』になってみろ」


「うん、やっぱり意味が分からん」


「そうか?じゃあ座禅を組めと言った方が…」


「いやそれは分かってるよ!俺が言ってるのはそれをやる意図だよ!魔力纏いで何で座禅組まないといけないんだよ」


「それは…まあやってみれば分かる」


ソードは俺の質問をはぐらかした。まさか、俺を虐めるためにあんなことをさせようとしてんのか!?だとしたらクソ野郎、ゴミ野郎、性悪野郎じゃねえか。

それに…師匠に座禅を組んでるところなんて見られようものなら、


「おい馬鹿弟子、お前は僧侶になるためにここに来たのか?私はお前を一人前の僧侶を育てるために修行をした覚えはないぞ…?」


流石の師匠でも困惑待ったなしだろう。ただ、ソードの目は至って本気だった。俺を虐めて楽しむような企みの目ではなかった。

何らかの意図があるのは事実なのだろう。


「分かった。とりあえずやってみるよ、座布団ちょうだい」


座布団の上でゆっくりとあぐらをかき、ゆっくりと目を瞑った。

洸平が目を瞑ったのを確認してから、俺はそっとその場を後にした。

家に戻ると、アラユーが怪奇の目を浮かべていた。


「どうしたあいつ(洸平)?ついに頭がおかしくなったのか?」


「いや、あれは俺の指示だ。まさか本当にやるとは思っていなかったがな」


「洸平に何を吹き込んだ?答え次第ではお前を殺しかねない」


今アラユーが言った「殺す」という言葉には気迫があった。ツッコミのように使う「殺す」とは違い、まるで我が子を守るための言葉に聞こえた。


「別に洸平を痛めつけたいとかそういうことじゃねえぞ?ただ魔力の流れを体で感じ取ってほしいだけだ。あいつは飲み込みが早い。感じ取ることさえできれば、魔力纏い習得も大したことじゃないだろう」


魔力は血液と共に体に流れ込んでいる。魔力の流れが掴むことができれば同時に血液の流れも理解できる。つまり、自己管理にも繋がる。戦う者にとっては必須の技術だ、特に洸平は平気で水を飲まずに何時間も動き続けようとするやつだ、尚更必要だ。

今度はアラユーが不思議そうにこちらを見つめ始めた。


「…んだよ、ジロジロ見やがって」


「お前、本当に魔族なんだよな?コスプレした人間とかではないんだよな?」


「そうだったら昼間苦労しねぇんだわ」


「しかし、それこそ昼間になれば、魔族は全てのステータスが1万分の1になると言われているが、私にはそのように見えない」


「それは…慣れだな。訳あってこっちにいる時間が長いんでね、最悪な環境でも耐性が付くんだよ」


俺は用意されたお茶を飲み干し、席を立った。


「どこに行く?」


「ちょっとばかり洸平のじゃ…様子を見に行く」


「今明らかに本音が出たよな?」


「気のせいだと思いまーす!」


アラユーに捕まる前に俺は急ぎ足で家を出た。

邪魔をするというのは事実だが、当然意図はある。いや本当だぞ?


一体どれくらいの時間が経ったのだろう、『無』になることは、言葉で言うのは容易だが、実際はかなり過酷だ。今だってこのようなことを考えてしまっている。ソードのやつ、本当にこれが魔力纏いに効果があるんだよな?すごく心配になる。

しかし、効果があろうがなかろうが、こうやって自然の中で静かに自然の音を聞くのもまた心地が良いものである。

雀の元気な鳴き声、風になびかれ音を鳴らす草木、そして自然に不釣り合いな金属系の楽器音。…楽器音?

あれか、どこかの学校で音楽の授業があるんだ、その音が風で飛ばされてきただけなのだろう。


「ジャガジャガジャガジャガ!、シャンシャーン!ドンガラジャーンダラドッコイショー!ドンダガバンバン!」


「うるせーーーーーー!!!!」


流石にキレた。この爆音地帯で無になるのは限界がある。もちろん犯人はソードだ。


「これが聞こえるってことは無になりきれてないな?」


「この状態でどうなれと言うんだよ」


ソードは俺の額に指を当てながら答えた。


「そう、この状況でも集中を切らしてはいけない。煩悩を捨てて、何も考えるな。どうせ小鳥のさえずりとか風の音が云々とか考えていたのだろう?それも捨てるんだ」


ムカついたが、言われていることは事実であり言い返すことができなかった。

ソードは俺に水休憩をするように促した(というか強制的に連行された)。座禅を組んで3時間も経っていた。昼休憩までは時間があるため、もう1セットしよう。

こんなところで立ち止まっている場合ではないのだ、一刻も早くこれを習得して、()()()を磨かなければならない。



 千尋は自宅の訓練所で一人魔法の鍛錬を続けていた。


「二属性混合魔法、氷の雷(アイシングサンダー)!」


受け身人形に当たったものの、千尋はその場に崩れ落ちてしまった。

ハァ、ハァ、数回打つだけでこの疲労感、魔力量が足りていない証拠だ。魔力量を上げるには、ひたすら魔法を撃つしかない。もう姉さん達におんぶされ続けるのはごめんよ、私だって一人で戦えることを証明するのよ!


「ハァ、もう1セット…」


その様子を奈々は静かに見ていた。その表情は嬉しそうで少し不安そうな顔だった。



 剛は玄関で靴紐をギュッと結んでいる最中であった。横には大量の荷物が置かれている。

後ろから両親が声をかけた。


「食べ物持った?飲み物も持った?」


「いいかい、いくら18になったとはいえあの場所は危険だ。もし危険が迫ったら、すぐに逃げるんだぞ」


「おう!分かってるぜ!それに、何人かの友達と行くんだ、心配いらねえよ。…じゃ、行ってくるぜ!」


危険な危険な…海水浴と登山へ!




お前は遊ぶんかーい!

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