第28話 帰省
時の流れは早いもので、あっという間に前期が終了した。今期に受講した講義の単位は全て所得できたため、順調な滑り出しだ。
「なあなあ、夏休み何か予定立てたか?」
「俺は一旦実家に帰るよ。家族にも会わないとだしね。剛は?」
「俺はそうだなぁ、まず海に行くだろ、そして山にも行って、あとは最近できたテーマパークにも行きたいし…とにかく沢山色んなことをするぜ!」
「何それ、他3人はどうするの?」
「私は姉と修行するわ。こんなところで止まってる場合じゃないからね」
「僕は、特に何も決めてない。しばらくは寮にいる」
夏休み、俺も帰省しようかな。師匠とも会って、無事解決したっていう報告を自分の口からしたいし、何よりソードと会わせてみたい。どことなく二人は似ている気がする。
「俺は師匠に顔を出しに行くよ。ソードについてちゃんと説明しないといけないからね」
「ほんと恵まれてるわよね、あの荒垣優菜さんの弟子だなんて、今度行ってもいいかしら?」
「俺も、会ってみたい」
「僕も」
「だったら今度みんなで行こうぜ!」
「そうだね、師匠にも話を通しておくよ」
大学最初の夏休み、宿題や課題は出ない。だからこそ自分達で考えて有意義に過ごす必要がある。師匠の元へ行くが、それは遊び行くわけではない。
部屋で荷物を整理して、師匠の家に向けて歩き始めた。師匠の家までは徒歩3時間はかかる。
また、道中も決して楽な道のりではなく山を一つ越えなければならない。
「ソード、お前早く走れる?」
「ん?夜と比べたら遅いがそれなりの速さで走ることはできるぞ」
分かったと返事をした瞬間、洸平の周りに土埃が上がった。
あっという間に洸平は豆粒の大きさになるほど遠くに行っていた。
「せめて合図してから走れよ!おい待てや!」
俺は洸平を見失わないように急いで後を追いかけた。
後で洸平に文句を言っておこう。言わなければ俺の腹の虫が収まらない、覚えておけよ。
1時間後、師匠の家へ到着した。
たった半月ほど前のことだというのに懐かしい。
家の奥にある草原でひたすら殺されかけてたんだったかな。
「じゃあ、師匠に軽く挨拶してくる。一応変装しているとは言え、師匠は絶対気づくはずだ。俺がいいと言うまで動くなよ」
「そのくらい言われなくたって待っとるわ」
ソードを入り口付近に置き、俺は恐る恐る呼び鈴を鳴らした。果たして、ただの帰省でここまで緊張する奴が他にいるだろうか。
ガチャっと音を鳴らしてドアが開いた。
「…おかえり」
「ただいま、師匠。その…」
「入り口にある気配はお前が庇ったという魔族か?」
「流石師匠、気付いてましたか」
「私がこの程度の気配に気づけないとでも思っていたのか?まあいい、ここへ連れてこい」
俺は一度外に出てソードを迎えに行った。
すると、ソードの周りに二人の女性が集っていた。まさかナンパしているのか?
「ねぇねぇお兄さん、よかったら連絡先交換しません?それともインストグラム?」
「今度一緒に食事にでも行きませんか?」
「いや、その…」
違った、むしろされている側だった。こいつは無駄に顔もいい。イケメンがこの世から本当に消えればいいのに、俺のようなモブ顔は生きづらい。
困っているソードに俺はいつもより大きな声で
「おいそこにいたのかよ、ほら、早く行くぞ」
「え?…あぁ、悪かったな!つい道に迷っちまってよ…助かったぜ」
若干怪しかったが、うまいこと対応してくれた。
置いてかれた女性達は「何よあいつ!」と言わんばかりに俺を睨んできた。
俺はそれに気づかないフリをして、さっさと戻った。
改めて家に戻り、ソードに紹介をさせようとした。
「師匠、こいつが俺のペットだよ」
「誰がペットだ!」
師匠は「悪い、もう少し待っててくれ」と奥の部屋から聞こえた。何か探し物だろうか。
数分後、師匠がお茶とちょっとしたお菓子を盆に乗せて持ってきた。
「あぁ、お前か。初めてまし…」
「…!?」
師匠とソードが互いの姿を見た瞬間、二人は黙り込み、しばらく見つめ合っていた。
先に口を開いたのは師匠だった
「まさか洸平の相棒がお前だったとはな」
「こっちこそ、洸平の師匠があの絶対者、新垣優菜だったとはな」
「私はもう引退している身だ。それよりも、まだ生きていたとは思っていなかったよ」
「あの〜、どういう状況ですかこれ?」
俺には何も話が見えてこない。なぜ二人が互いを認知しているのか、二人はどこかで会ったことがあるのか?
「あぁそうだな。私が現役だった頃、こいつと出くわしたことがあったんだ」
約5年前、任務帰りに森の中を歩いていたところ、体にダンボールを巻いて地面に突っ伏していたこいつに出会ったんだ。そこで…
「ちょ、ちょっと待ってください。すでに情報量が多すぎるんですけど?」
「いいから聞け」
そこで、私は魔族と認知して討伐しようとした。そうすると、
「おい!せっかく気持ちよく寝てたっつうのに、いきなり襲いかかるとか、最低か?」
「お前ら魔族に言われる筋合いはない」
「ちょ!本当に落ち着けって、俺は人間を殺したこともないし、殺そうと思ったこともない」
魔族は平気で嘘を吐き、人間を殺すことになんの躊躇もない。私は到底その言葉を信じることができなかった。私は再び拳に力を入れた。
「じゃあ…これならどうだ?」
そう言うと、その魔族は持っていた武器を下ろし、両手を上げた。




