第27話 怒りを込めて!
今期も残りわずかになってきた。大学は二期制であり、毎年8月後半から9月終わりまでの長期休みがある。その間は当然講義がないため、大学に来る必要はないが、個人でトレーニング等をする必要がある。
もうすぐで長期休みということで、俺達のやる気はより一層拍車にかかった。
格闘術もみな全力で取り組んでおり、初回と比べても、見違えるほど上達したように見える。
初回講義以降、栗村教授は一度も顔を見せていない。
しかし、今となってはそのことを気にする学生はどこにもいなかった。
なぜなら、俺達には心強い助手であるソードがいるのだから。
「だから俺は助手じゃねえ!」
「!?心を読むな!」
また言い争いが勃発すると思っていた矢先、
「何をしている?講義中に無駄話とは随分と余裕じゃないか」
声の方向に全員が振り向くと、なんとあの栗村教授がいた。
「お前達のせいで、学長に警告を食らったんだぞ!せっかく俺が楽な講義を用意してやったと言うのに…無駄に努力して、俺の時間を奪うんじゃねえよ!」
栗村教授はイラついた口調で意味のわからないいちゃもんを付けてきた。
楽な講義を用意した?命を扱う世界に楽なことがあってもいいのだろうか。
「お言葉ですが、栗村教授がやっていることは講義ではありません。ただの教育放棄です。教授として恥ずかしくないのですか?」
俺の言葉を聞いた周りの学生も「そうだそうだ」と賛同した。ここには栗村教授を擁護する人間は存在しないのだから。
「あぁそうかよ、そこまで言うなら講義をしてやろうじゃねえか。お前達、かかってこい。全員が俺に一発でも入れることができたら単位をくれてやる。ただし、できなかったやつが1人でもいれば、全員落単だ」
そう言うと栗村教授は体を伸ばし、戦闘体勢にはいった。行動や言動は終わっているが、構えには全く隙がない。これでも教授なのである。
一部の学生はその気迫に怖気付いていた。そんななかソードが声をかけた。
「お前らは何のためにこの3ヶ月間訓練をしてきた?1ヶ月であそこまでできていたんだ。今更何にビビることがある?お前らは強くなった。もっと自信持て」
その言葉に、怖気付いていた学生は真剣な表情へと変化した。
俺達の3ヶ月の成果を発揮する時が来た。
どういうことだ、なぜ当たらない!
1対1のタイマン方式で俺と決闘をしている。邪魔をするやつは誰1人いない。そうだというのに、ガキ共に攻撃は当たらず、俺に攻撃が当たり続けた。
しかも、その一撃が毎回重い。男ならともかく、女も威力の高い一撃をお見舞いしてくる。
まずい、このままでは俺の威厳がなくなってしまう。
気づけば残り3人になった。清野姉妹の三女、袋を被ったよく分からねえやつ、そして、先程俺に説教をしたムカつくガキ。
「次、そこの袋野郎出てこい」
表情は全く読めないが、他の男と比べても体のラインが細い。流石に勝てるはずだ。
「始め!」
ムカつくガキの従者?が合図をしたと共に俺は前へ突撃した。速攻で終わらせるために。
しかし、攻撃は体には当たらず、ただ空を切っただけだった。
「…あなた、すごく遅いんですね」
気づいた時には、袋野郎は俺の背後を取り、拳を俺の背中に当てていた。
俺が目で追いつけなかった?
あと2人、だったら
「次、清野妹来い」
清野妹は返事をして目の前に立った。よく見るとこいつ、かなりいいモノを持っているじゃねえか。
ガキの従者河合図をしたのを確認してから、俺は笑顔で彼女に近づき、耳元で囁いた。
「あなたは魔法推薦ですよね?もし私に勝てなくても、私の部屋に来てください。あなただけは単位を所得させますよ」
もちろん嘘だ。俺はこいつとそういうことをしたいだけだ。
清野妹は下を向き、ブルブルと震えている。
おっと、流石にやりすぎましたかね。
「…が」
「ん?何か言いましたか?」
周りを見ると、なぜか俺達から距離をとっている。男はなぜか目線を逸らしている。
「ほんっっっとうに男っていう生き物は!どいつもこいつもゴミばっかり!ぶっ殺す!」
気づいたら俺は5m程の高さまで飛ばされていた。こいつ、魔法推薦だったよな?
「…ご愁傷様」
空高く舞い上がった栗村教授を見て、ソードが合掌して呟いた。
いよいよ俺の番、最後の一人となった。綺麗なトリを飾ろう。
「…さ、最後」
なんか既にボロボロだが、俺は構えた。
まずい、もう後がない。こうなったら、
「エンブレム起動」
突如、栗村教授の周りに魔法陣が展開された。これは、まさか
「悪く思うなよ。俺だって手荒な真似はしたくないんだが、食らえ!大獄拳!」
俺のとっておきの技だ。これを食らえばひとたまりもないだろう。
あまりの威力に土埃が舞った。煙が開けるとそこにいたのは
「…痛って、すごい威力…」
嘘…だろ?俺の最高威力の技だぞ?
「ま、マグレで受け切った程度で図に乗るな!」
俺は続けて大獄拳を発動した。しかし、ガキが倒れることはなかった。
力を使い果たした俺はその場で膝から崩れ落ちた。
ガキが近づいた。拳を振り上げ、俺の顔面へ吸い寄せられ、俺は目を瞑った。
なぜか衝撃はなかった。恐る恐る目を開けると、拳が顔の前で寸止めになっていた。
「本当は殴ってやりたいですけど、もう牢屋は懲り懲りですので、これで許してあげます」
結局、俺は一撃も与えることができずに、俺の人生初めての講義は幕を閉じた。




