第25話 一人じゃない
ソードの(?)講義が終わり、水分補給をしていると、佐久間と千尋はノートを開いていた。
「二人とも実技系の講義にもノートを取るの?すこわいなぁ」
二人は不思議そうにこちらを見たが、すぐにハッとしたような顔を浮かべた。
「来週の試験だよ。清野准教授の」
「確かに、あんたはいなかったから知らなくても無理はないわね」
「…え?早くない?」
試験?いくら何でも早くすぎやしませんか。小テストとかの間違いじゃなくて?
俺の思考を読んだのか、クラッシュが付け加えるように
「別にここで不合格を取ったからって、また来年受けないといけないわけじゃないよ。この講義は周期的に行われるから、その度に試験はある」
「まぁ早いうちに合格しておくことに越したことはないからね。勉強してるってわけ」
なるほど、二人は真面目なんだな。勉強をすることが大好きという人はお世辞にも多くない。むしろ嫌いという人のほうが大多数だろう。
「ところで剛とクラッシュは?」
二人はそんな素振りがない。剛に至っては「あったかそんなこと?」と言いたいような表情を浮かべていた。クラッシュは不明。
「僕は部屋でやるつもり」
清野准教授講義は毎日あったため、内容が早く終わったのだろう。俺は3日分遅れているのだ、急いで勉強をしなければならない。
「佐久間、ちょっとだけでいいからノート見せてくれない?」
「ん、いいよ」
俺はページをめくった。ざっくり書いてある内容を見て、めくって、大方見た後佐久間に返した。
「洸平、分からないとこあったら可能な範囲で教えるてあげようか?」
「いや…大丈夫」
ノートを見て思ったことがあった。
「なんか全部知ってることだったんだけど」
寮に戻ったあと、クラッシュに言葉を溢した。最初の講義でも薄々感じていたことだったが、知らなかったこともあったため気に留めていなかったが、それ以降の内容(佐久間ノート参考)は既習済なことばかり。
「洸平の師匠に教わったってこと?」
「『みんな知っていることだ。だから覚えろ』って言われたから必死で覚えたよ」
師匠がズレているのか、俺を虐めたかっただけなのか、今度会った時聞いてみよう。そうだ、事が収束したことをまだ連絡をしていなかった。いや、清野さくらさんが連絡してくれたかな?テストの日に聞いてみよう。
「じゃあ、僕勉強しておくね。できるだけ静かにしてもらえるとありがたい」
「心配しないで、もう寝るつもりだったし」
「…洸平」
「どうした、クラッシュ?」
「その…困ったらお互い様だからね。絶対一人で抱え込んじゃダメ。別に僕じゃなくてもいいから、他人を頼るんだよ、洸平は一人じゃないんだから」
お前は一人じゃない。私がいるんだ、シャキッとしろ。師匠の声が頭の中で反芻した。クラッシュにとっては何気ない言葉だったのだろうけど…
俺は微笑んだ。
「ありがとう、おやすみ。勉強がんばってね」
「ん、おやすみ」
クラッシュとの絆がより深まった気がした。
ふと夜中に目が覚め、クラッシュの方を見ると、ノートを開いたまま寝ていた。
布団も被らずに…風邪引くぞ?俺はクラッシュの体を横にして、布団を被せようとした時、視界が暗い中、クラッシュの手首に目がいった
…?何か痛々しい痕が付いている。そういえばクラッシュ、日頃から長袖を着ていたような。
クラッシュは実技の時も長袖長ズボンを履いていた。まさか、この傷を隠すために?俺は他にも服をめくろうとした。
しかし、勝手に人の体を見るのはどうかと思い踏み留まった。
一抹の疑問を感じながら、俺は再び眠りについた。
朝起床し、トレーニング室へ向かう途中、どこからか音が聞こえた。トレーニング室の先にある訓練室の方からだ。
そこを覗き込むと、ソードが一人剣を振っていた。
ソードは俺に気づいた様子はなく、黙々とふり続けている。
剣捌きは実に綺麗だった。一切無駄な動きがなく、自分の力をまっすぐに伝え、空気を斬る音がする。
やっぱりすごいんだな、こいつは。何年もひたむきに努力をして、太陽も少し克服して、そしてそれを継続し続けている。そう入った部分は、出会って間もないが尊敬する。
俺はソードに気づかれないようにそっと訓練室を後にした。
一週間後、魔法基礎論の試験の日がやってきた。
やれることは全てやってきた。あとは落ち着いて問題を解くだけだ。
「試験時間は90分。まあ早く終わったら提出して退出してもらって結構よ。不正行為は厳禁、見つけ次第、相応の対応を取らせてもらうわ。あとソード、今だけは前にいなさい。櫛塚のためにもね」
ソードは短く返事をしたあと、俺に耳打ちで「頑張れよ」と言い、前へ行った。
清野奈々准教授の発言にあった不正行為、一般的な学校なら、全科目0点などの処分が下されるが、ここは他と少しだけ違う。
ここでは下手すれば退学の可能性もある。それくらい不正行為に対して厳しい対応をしている。
試験用紙と解答用紙が机に配られ、2分程待った後
「それでは、試験始め!」
いよいよ、大学初めての試験が始まった。
試験なんて消えればいいのに




