第24話 攻めは最大の防御と言うけれど
私、栗村淳一は素晴らしい人間だ。大学時代は良い成績を残して卒業、滅魔隊所属後も多くの魔族を討伐し、階級者の討伐経験だってある。
そんな功績が認められ今は母校の教授をしている。そう、全ては教授になるためにやったことだ。
国民の命?そんなものは俺からしたら知ったこっちゃない。
教授になれば命の危険を脅かす必要もない、好きなことを好きなだけすることができる。単位も適当にあげればいい、給料だってそこら辺の奴らよりも高い。こんなにいい仕事なんて探してもなかなか見つからないだろう。
さて、そろそろ講義の終了時間だな。流石に戻っておいてやるか。俺は訓練所に向かった。遠くからガキ共の声が聞こえる。
ほう、今年は残っていたか、真面目なことだ。
「もっと気合い入れて打ち込め!俺はまだまだいけるぞ!?」
「うぉぉぉぉ!!!」
「ねぇねぇ、今のどうだった?」
「ちょっと肩に力が入りすぎかもね、もっと肩の力抜きなよ」
「剛、いくよ」
「おう、かかってきやがれ!」
「何であたしには誰も来ないのよー!!」
いくつかの集団に集まり、それぞれ何かをやっている。俺はかなり動揺した。こんなことは教授になって初めてだ。今までなら、学生は楽単とは分かれば講義には来なくなるし、それぞれがしたいことを勝手にし始めていたはずだ。
お前達だって楽に卒業したいだろう?winwinな関係なはずだろう?まあいずれ来なくなるさ。
栗村教授が退席してすぐ、ソードが仕切り始めた。
「格闘術は確かに最低限の筋力は必要だが、見た所殆どの奴らはそれなりにガッチリしてるよう見える。ところで、魔導士になりたい奴はどのくらいいる?」
ソードは手を挙げさせ、その一人一人の体をジロジロと見た。それに千尋は声を上げた
「ちょっ、あんたどこ見てんのよ!」
「?何ってお前達の体だが?」
「変態!」
そう言うと千尋はソードの左頬をグーパンし、ソードは体をクルクルと回しながら空中へ飛ばされた。
おそらくソードは体の筋肉の付き具合を見ると言いたかったのだろう。勘違いするのも無理はない。
俺初対面の時、あれを食らう可能性があったと思うとゾッとした。
地面に叩きつけられたソードは左頬をさすりながら続けた。
「…まあとにかく魔導士志望でも千尋まではいかなくても、護身術ぐらいはできていて損はないんじゃないか?」
ソードが俺のことを見て、手で来いと言わんばかりに手を動かした。ソードのそばに来ると、いきなり俺に殴りかかってきた。
鈍い音があたりに響き渡り、その場にいた学生全員が驚愕した。
「…見ろ、不意打ちの攻撃だったがこいつは防いだ。格闘術は特に、防御が大切だ。素手で戦う以上、被弾リスクが高いからな」
昼&弱体化耐性があるとはいえ、とんでもない破壊力だ。急に殴りかかってきたのは癪に触るが。
「防御は二人一組、最初のうちは体格が似たもの同士でな。30分ぐらいしたらお待ちかねの攻撃についてまた説明する。それじゃ各自やっていこう」
全員が大きな声で「はい!」と返事をし、真剣に練習を始めた。
悔しいが、ソードの指導はとても上手だった。取ってつけたような感じではなく、手慣れていた。
上手くいかない子を責めることも突き放すこともなく、優しく向き合っていた。
初めて会った時から思ったが、ソードは教え上手でもあり、関わり上手だ。性格に難ありだが、就職には強いタイプではないだろうか?
「洸平、そうじゃない、もっとこうだ」
あとこいつ、俺にはすごく厳しい。他の学生には言わないようなことを平然と言ってくる。そういうところだぞソード。
「洸平!対人してくれ!」
「オッケー、いいよ」
その様子を見たソードは渋々別の学生の元へ向かった。何でちょっと残念そう何だよ、あいつ完全にSじゃねえか。
「よっしゃあ!いくぞ!」
剛は大きく踏み込み、俺に殴りかかった。俺はその拳を手のひらで受け止めようとした。しかし、
ズドン!
剛の拳の衝撃で俺はバランスを崩しかけた。何とか踏み止まったが、剛の勢いは止まらない。
剛は背が高く、鍛え上げられた美しい筋肉の持ち主だ。そこから繰り出される拳の威力は桁違いだ。
ついさっきクラッシュと対人をしたが、クラッシュの威力を遥かに超えている。
今は防御に徹しているが、とてもじゃないが反撃の糸口が全く見えなかった。
それくらい剛のラッシュは強烈だった。
「ふー、こんなもんかな。それにしても洸平よく耐えたな!自慢じゃねえけど俺結構力には自信あったんだけどな…流石だな!」
いや、結構ギリギリだったよ?命の危険すら感じてましたよ?単純なパンチだけなら師匠よりも上だよ?
「じゃ、交代だな。どんと来い!」
「では、遠慮なく」
俺はゆっくり構え、剛に攻撃を仕掛けた。
―その頃の師匠(荒垣優菜)―
「くしゅん!…風邪でも引いたか?それとも誰か私の話でもしているのだろうか…」
くしゃみをしたということは、誰かがあなたの話をしているのかもしれませんね…




