表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/23

二人の答えと、選択

ミレイユはその日、レオンと過ごす時間がいつもより長く感じられた。アランが去った後、彼女の心は少し軽くなったものの、どこかでまだ完全に解放されたわけではなかった。それでも、レオンと一緒にいると、自然と安堵の気持ちが広がっていくのを感じていた。


「ミレイユ」


彼女が部屋の窓辺で外を眺めていると、レオンの低い声が響く。振り向くと、レオンはいつものように無言で立っていたが、どこか一歩踏み出したような、少しだけ強い眼差しをしていた。


「どうしたの?」


ミレイユは心配そうに尋ねる。


「お前、あのアランに、まだ気を使っているんじゃないかと思って」


レオンは少し間を置きながら言った。


「でも、俺は――お前に何も隠し事をしたくないんだ」


その言葉に、ミレイユは驚いた。レオンがこんなにも心を開いてくれるなんて、思ってもいなかったからだ。いつも無口で、何かを自分の中に秘めているような彼が、こんな風に感情を吐露してくれるなんて。


「レオン……」


「俺は、最初からお前が好きだった」


レオンは言葉を絞り出すように続けた。


「でも、あいつに取られた時は、本当に悔しかった」


その瞬間、ミレイユの胸が激しく跳ねるような感覚を覚えた。これまでずっと、レオンの気持ちに気づかぬふりをしてきた。しかし、今、彼の言葉が全てを変えるような力を持っていることを感じた。


「レオン……私も、あなたが――」


その言葉は、胸の中で溢れそうになっていたけれど、彼女は口に出すことをためらってしまった。どこかで、まだ不安があったからだ。アランとの過去が、心のどこかに引っかかっていた。


「俺はお前を守りたい」


レオンは強い決意を込めて言った。


「だから、もう迷わないでほしい。お前がどんな選択をしても、俺はお前の隣にいる」


その言葉に、ミレイユの胸は静かに震えた。レオンの思いが、あまりにも純粋で、強すぎて、思わず目を閉じてしまいたくなるほどだった。


「でも……」


ミレイユは自分の気持ちに向き合うように、静かに言葉を続けた。


「私、怖かった。あなたが本当に私を好きだと言っても、私なんかが、あなたにふさわしいのか、分からなかった」


その言葉を聞いたレオンは、少し眉をひそめたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「ふさわしいかどうかなんて関係ない」


彼は優しく言った。


「俺は、ただお前と一緒にいたい。それだけだ」


その言葉に、ミレイユは心から安心した。彼の思いが、どれだけ真剣で、まっすぐなのかを感じ取ることができた。


「私は……」


ミレイユはもう一度、心の中で自分の気持ちに問いかけた。アランとの別れを、レオンとの新たな始まりを、怖がっている自分を越えて、今、自分が選ぶべきは何なのか。


そして、心を決めた。


「私、あなたと一緒にいたい」


ミレイユははっきりと告げた。


「もう迷わない」


その言葉に、レオンはほんの少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐにその顔が満面の笑みに変わった。


「本当に?」


レオンは嬉しそうに問いかける。


「うん」


ミレイユは笑って答えた。


「あなたがいるから、私はもう、怖くない」


その瞬間、レオンは力強く彼女の手を取った。彼女を引き寄せ、そっと額をつける。


「ありがとう、ミレイユ。俺は、これからもずっとお前の側にいる」


ミレイユはその言葉を胸に、静かに頷いた。彼の手のぬくもりが、どこまでも温かく、彼女を包み込むようだった。




その夜、舞踏会での再会から数日後、再びアランがミレイユの家を訪れることはなかった。レオンがいる限り、もう誰も彼女を揺るがすことはできなかった。


そして、次に訪れるのは――社交界での最初の正式な公の場で、二人の関係が明らかになる瞬間だった。


ミレイユは心の中で、もう一度自分に誓った。これからの未来は、自分で選ぶ。誰かに与えられるのではなく、彼女自身が選んだ道を歩んでいくのだと。


その決意が、さらに深く、強く心に刻まれる。これから始まる新しい物語が、まるで手のひらの上で広がるように感じられた。


そして、春の陽射しが降り注ぐ庭で、彼女は再びレオンと共に歩み始める――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ