二人の答えと、選択
ミレイユはその日、レオンと過ごす時間がいつもより長く感じられた。アランが去った後、彼女の心は少し軽くなったものの、どこかでまだ完全に解放されたわけではなかった。それでも、レオンと一緒にいると、自然と安堵の気持ちが広がっていくのを感じていた。
「ミレイユ」
彼女が部屋の窓辺で外を眺めていると、レオンの低い声が響く。振り向くと、レオンはいつものように無言で立っていたが、どこか一歩踏み出したような、少しだけ強い眼差しをしていた。
「どうしたの?」
ミレイユは心配そうに尋ねる。
「お前、あの男に、まだ気を使っているんじゃないかと思って」
レオンは少し間を置きながら言った。
「でも、俺は――お前に何も隠し事をしたくないんだ」
その言葉に、ミレイユは驚いた。レオンがこんなにも心を開いてくれるなんて、思ってもいなかったからだ。いつも無口で、何かを自分の中に秘めているような彼が、こんな風に感情を吐露してくれるなんて。
「レオン……」
「俺は、最初からお前が好きだった」
レオンは言葉を絞り出すように続けた。
「でも、あいつに取られた時は、本当に悔しかった」
その瞬間、ミレイユの胸が激しく跳ねるような感覚を覚えた。これまでずっと、レオンの気持ちに気づかぬふりをしてきた。しかし、今、彼の言葉が全てを変えるような力を持っていることを感じた。
「レオン……私も、あなたが――」
その言葉は、胸の中で溢れそうになっていたけれど、彼女は口に出すことをためらってしまった。どこかで、まだ不安があったからだ。アランとの過去が、心のどこかに引っかかっていた。
「俺はお前を守りたい」
レオンは強い決意を込めて言った。
「だから、もう迷わないでほしい。お前がどんな選択をしても、俺はお前の隣にいる」
その言葉に、ミレイユの胸は静かに震えた。レオンの思いが、あまりにも純粋で、強すぎて、思わず目を閉じてしまいたくなるほどだった。
「でも……」
ミレイユは自分の気持ちに向き合うように、静かに言葉を続けた。
「私、怖かった。あなたが本当に私を好きだと言っても、私なんかが、あなたにふさわしいのか、分からなかった」
その言葉を聞いたレオンは、少し眉をひそめたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「ふさわしいかどうかなんて関係ない」
彼は優しく言った。
「俺は、ただお前と一緒にいたい。それだけだ」
その言葉に、ミレイユは心から安心した。彼の思いが、どれだけ真剣で、まっすぐなのかを感じ取ることができた。
「私は……」
ミレイユはもう一度、心の中で自分の気持ちに問いかけた。アランとの別れを、レオンとの新たな始まりを、怖がっている自分を越えて、今、自分が選ぶべきは何なのか。
そして、心を決めた。
「私、あなたと一緒にいたい」
ミレイユははっきりと告げた。
「もう迷わない」
その言葉に、レオンはほんの少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐにその顔が満面の笑みに変わった。
「本当に?」
レオンは嬉しそうに問いかける。
「うん」
ミレイユは笑って答えた。
「あなたがいるから、私はもう、怖くない」
その瞬間、レオンは力強く彼女の手を取った。彼女を引き寄せ、そっと額をつける。
「ありがとう、ミレイユ。俺は、これからもずっとお前の側にいる」
ミレイユはその言葉を胸に、静かに頷いた。彼の手のぬくもりが、どこまでも温かく、彼女を包み込むようだった。
その夜、舞踏会での再会から数日後、再びアランがミレイユの家を訪れることはなかった。レオンがいる限り、もう誰も彼女を揺るがすことはできなかった。
そして、次に訪れるのは――社交界での最初の正式な公の場で、二人の関係が明らかになる瞬間だった。
ミレイユは心の中で、もう一度自分に誓った。これからの未来は、自分で選ぶ。誰かに与えられるのではなく、彼女自身が選んだ道を歩んでいくのだと。
その決意が、さらに深く、強く心に刻まれる。これから始まる新しい物語が、まるで手のひらの上で広がるように感じられた。
そして、春の陽射しが降り注ぐ庭で、彼女は再びレオンと共に歩み始める――