再会と挑発
ミレイユが、レオンと共に庭園を後にしてから数日が経った。その間も、静かな日々が続いていた。
ミレイユは前よりも少しだけ元気を取り戻し、日常を再び取り戻していた。毎朝、レオンが彼女の家に来て、二人で過ごす時間が自然で、心地よかった。
以前のように、何も言わなくても、ただ隣にいるだけで安心できるのだ。
しかし、ある日、舞踏会の招待状が再び届いた。差出人はアラン・ベレスタイン、そしてその内容は、今度の舞踏会で彼女に友人としての再会を果たしたいというものだった。
「友人として……?」
ミレイユはその文字を見つめ、何かが胸の中でぐるりと回った。数ヶ月前、彼女が婚約破棄されたあの夜のことを、いまだに鮮明に覚えている。
その時のアランの言葉、「君のような地味な令嬢より、もっと相応しい相手がいる」
それが、心に深く刻まれていた。
だが、レオンが隣で無言でその招待状を見守っている中、ミレイユは深呼吸をして、冷静さを取り戻した。
「行こうか」
ミレイユは、気持ちを整理しながら言った。
レオンは少し驚いた表情を見せたものの、すぐに頷いた。
「お前が決めたことなら、俺はどこまでも付き合うよ」
それから数日後、舞踏会当日がやってきた。社交界の華やかな空気に包まれた会場に足を踏み入れると、ミレイユはどこか落ち着かない気持ちがこみ上げてきた。たとえ表向きには静かにしていても、目の前にアランが現れるだけで、心がざわつくのを感じていた。
「お前、大丈夫か?」
レオンがそっと耳元でささやく。
「うん、大丈夫」
ミレイユは小さく頷き、顔を上げて会場内を見渡した。
そして、すぐに彼女の視線がアランに捕まった。アランは、リシェルを伴って、すでに他の貴族たちと話しているところだった。リシェルは以前とは違い、余裕のある笑顔を浮かべており、その瞳はどこか挑戦的で冷たい輝きを放っていた。
「彼女も来ていたのね」
リシェルが一歩前に出て、ミレイユに向かって微笑みかけた。その笑顔は、皮肉が含まれているようにも見えた。
「こんにちは、ミレイユさん」
リシェルの声は、まるで飾られた花のように優雅で、それでいてどこか引っかかるものがあった。
「今日は私たちの幸せを、どうか祝ってくださいね」
その言葉に、ミレイユはわずかな違和感を覚えたが、すぐに表情を崩さずに微笑み返した。
「ええ、もちろん」
その瞬間、アランがミレイユの前に歩み寄り、わずかに頭を下げた。
「久しぶりだな、ミレイユ」
その言葉に、ミレイユの胸がほんの少し高鳴った。無意識に、かつての自分が抱いていたアランへの想いが蘇ってくる。しかし、その気持ちに振り回されることは、もうないと自分に言い聞かせた。
「そうね」
ミレイユは静かに答えた。
「久しぶり」
「友人として、また会えて嬉しいよ」
アランは少しだけ口角を上げ、彼女に微笑んだ。
「どうか、前のように、普通の友達として接してくれると嬉しい」
その言葉に、ミレイユの心の中で何かが動いた。友人として、再び関係を築きたいという彼の言葉が、どこか偽善的に感じられる。心の中で、それが本心ではないことを察しながらも、ミレイユは冷静を保ち続けた。
「私は、もう前のような関係には戻れない」
ミレイユは静かに言った。
「あなたが選んだ道を、私は尊重するわ」
その言葉に、アランの顔が一瞬硬直したが、すぐに冷静さを取り戻すと、微笑んだ。
「それなら、仕方ないか」とアランは軽く肩をすくめ、少しだけ後ろに下がる。
その時、リシェルがそっとアランの肩に手を置き、微笑みながら言った。
「ミレイユ様、あなたがそのように思うのは当然かもしれません。でも、私たちの幸せを祝福することはできませんか?」
その挑発的な言葉に、ミレイユの胸が一瞬強く締め付けられる。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、平静を保つことができた。
「それは……」
ミレイユは少し考えた後、静かに答えた。
「私には関係ないことだと思います」
その瞬間、レオンがミレイユの隣に歩み寄り、静かにその手を取った。彼の視線は鋭く、まるでリシェルを睨みつけるような勢いでその場に立っていた。
「俺は、ミレイユを守る」
レオンの声は低く力強かった。
「お前たちに、ミレイユに触れさせることは絶対にない」
その言葉が会場の空気を一変させた。周囲の貴族たちが一斉に注目し、その場の緊張感が一気に高まった。
ミレイユは、レオンの手のひらの温もりを感じながら、心の中で確信を深めていた。今、彼女は自分を選んだ。レオンを選んだ。
アランとリシェルの存在は、もう彼女にとって何の意味も持たない。今、彼女が求めるのはただ一つ。
自分自身の未来を、自分の手で選ぶこと。