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再会の舞踏会

舞踏会の夜、ミレイユは鏡の前で自分を見つめていた。薄いピンクのドレスを身にまとい、髪を慎ましくまとめたその姿は、どこか控えめでありながらも、以前とは違った凛とした強さを感じさせた。


――今の私は、以前のような自分じゃない。


婚約破棄から数ヶ月、静かな日々を送る中で、少しずつ強くなった自分を感じる。それでも、心のどこかで不安が渦巻いていた。今日、再びアランと向き合わなければならないという事実が、胸に重くのしかかっている。


「ミレイユ様、お支度が整いましたら、お迎えの者をお呼びします」


侍女の声が現実に引き戻す。ミレイユは一瞬、深呼吸をしてから、鏡に映った自分に微笑みかけた。


「ありがとう。すぐに行くわ」


舞踏会の会場へと向かうため、侍女に促されて屋敷を出た。自分でも驚くほど冷静に感じる。心の中では不安が募っていたが、それを表に出さずにいられるのは、すべてレオンの無言の支えがあったからだろうか。


――あの人の言葉が、私を支えてくれる。


レオンが口にした「気をつけろ」という一言。あの言葉には、彼の中に秘められた深い感情が込められていた。だが、ミレイユはそれを無意識に感じ取りながらも、自分が進むべき道を選ばなくてはならないと心に決めていた。


舞踏会の会場に到着すると、煌びやかなシャンデリアの光が照らす中、社交界の華やかな顔ぶれが並んでいた。優雅な笑顔を浮かべた令嬢たちと、緊張を隠すように姿勢を正した貴族たち。その中に一際目を引く存在があった。


アランとリシェルだ。


二人はすでに会場の中央に立ち、他の貴族たちと親しく会話を交わしている。アランは、以前のように少し冷たい表情を浮かべながらも、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出していた。一方で、リシェルはその美しさと完璧なマナーで、周囲の視線を集めている。


その姿に、ミレイユは一瞬、足が止まりそうになった。かつて自分がアランと共有していた時間が、まるで別の世界のことのように感じられる。


「ミレイユ様」


声がかかると、ミレイユは我に返った。視線を上げると、レオンが立っていた。


「レオン……」


「無理はしないで、帰りたくなったら言ってくれ」


レオンの目は、いつもの優しさと共に、深い懸念を帯びていた。彼の目を見ると、どれほど彼女を大切に思っているのかがひしひしと伝わってきた。しかし、ミレイユはそれに対して、あえて答えなかった。


「ありがとう。でも、大丈夫」


その答えに、レオンは少しだけ安堵の表情を浮かべると、静かに頷いた。


「行こう」


そして、二人は会場の奥へと進んでいった。アランとリシェルがいる場所に向かって――。


会場の中央に近づくにつれ、ミレイユの心はまた高鳴り始めた。自分の胸の内に膨れ上がる感情に、何かしらの圧倒されそうになる。しかし、彼女はそれを必死に抑え込んでいた。


アランが振り向いた瞬間、目が合った。


彼の表情は、わずかに驚いたように見えたが、すぐに冷静さを取り戻す。リシェルもまた、ミレイユを見て微笑んだが、その笑顔はどこか挑発的に見えた。


「ミレイユ、お久しぶりだね」


アランの声は、以前と変わらず冷静で落ち着いていたが、その瞳の奥には、何か計算されたような光が宿っているように感じた。


「……本当に、久しぶりね」


ミレイユは微笑みながら答えると、次にリシェルに目を向けた。リシェルは優雅に一礼し、礼儀正しく声をかける。


「ミレイユ様、あなたがいらっしゃるのを楽しみにしていました。アラン様と一緒に、再会できることを心より嬉しく思っています」


その言葉は、表向きは礼儀正しく、しかしどこか鋭い棘が感じられる。リシェルの微笑みの裏には、明らかにミレイユへの対抗心が見え隠れしていた。


ミレイユは静かに頷き、答える。


「こちらこそ」


その瞬間、彼女の心に一筋の決意が宿る。かつての自分は、アランにどうしても許しを請いたかった。だが、今は違う。自分の中で何かが変わったことを、ミレイユは感じていた。


それを感じ取ったのか、レオンがすっとミレイユの手を握る。


その瞬間、ミレイユは強く感じた。彼女がここで選ぶべき道は、誰かに選ばれることではなく、自分で選ぶべきだということを――。


そして、アランが口を開く。


「僕たち、もう一度友達としてやり直そうじゃないか?」


その言葉に、ミレイユは胸の奥から沸き上がるものを感じた。あの日、あの時の自分に戻ることなど、もう決してない。


「友達……」


ミレイユは、穏やかな笑顔を浮かべて答える。


「アラン、私はもう過去に縛られない」


その瞬間、レオンが彼女の手をしっかりと握りしめ、静かに彼女に言った。


「ミレイユは、もう俺のものだ」


その言葉に、アランとリシェルがわずかに硬直する。


しかし、ミレイユはその言葉を心から受け入れた。


彼女は、もう一度、自分の人生を選ぶ準備ができていた。


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