新たな選択
ミレイユとレオンは静かな夜の街を歩き続け、二人の足音がリズムを刻んでいく。周りの静けさが二人の時間を包み込み、普段よりも深く心が通い合っているのを感じていた。
「……ありがとう、レオン」
再び、ミレイユがその言葉を口にする。まだ心の中で過去のことに迷いが残る一方で、レオンの存在が確かに彼女を支えてくれていることは、もう疑いようがなかった。
「何度も言うな。俺はただ、やるべきことをやっているだけだ」
レオンは無愛想に答えたが、彼の言葉にはいつもの硬さの中に優しさが隠れている。いつもどおり、無理に気を使わずに彼女を支え続けてくれるその姿が、ミレイユにはどこか心地よかった。
「でも、そんなふうに言っても…あなたの支えがなかったら、私は今、こんなふうに前を向けなかった」
ミレイユは少し照れながらも、真剣な気持ちを伝える。レオンの支えがあったからこそ、ここまで来られたのだと、心から感謝していた。
その言葉を受けて、レオンはしばらく黙って歩いていたが、やがてふと立ち止まり、少しだけその場に視線を落とした。
「……ミレイユ」
その声が、いつもよりも低く響く。
「何?」
ミレイユは足を止め、彼を見上げた。レオンは少し迷っているような表情を浮かべていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「お前、アランのことを完全に忘れるってできるか?」
その言葉に、ミレイユの胸が一瞬止まった。予想していなかった質問に、思わず言葉が詰まる。
「アランのことを、どうしても心のどこかで引きずっているんじゃないか…って、俺はずっと思ってた」
レオンの目は真剣そのもので、ミレイユはその瞳の奥に揺れる感情を見つめ返す。彼がどれだけ自分を思ってくれているか、それを強く感じた瞬間だった。
「…でも、もう大丈夫だと思う」
ミレイユはしばらく考えた後、ゆっくりと答えた。
「アランのことを、完全に忘れるなんてことは無理かもしれない。でも、私が今、心から望んでいるのは…レオン、あなたと一緒にいること」
その言葉が、レオンの胸に深く響いた。彼は短く息を吐き、微かに頷くと、再び歩き始めた。
「そうか」
「うん」
二人はしばらく沈黙の中、歩き続けた。街灯がかすかな光を投げかける中で、ただ歩いているだけで、何かが少しずつ変わっているのを感じていた。
しばらくして、ミレイユがふと口を開く。
「でも、これから先のことが少し怖い」
その言葉に、レオンはすぐに反応した。彼女の表情が少し不安げに揺れているのを見逃すはずがない。
「怖い?どうして?」
「だって、私が本当にレオンと一緒にいることで、何か悪いことが起こらないか…心配になることがあるの」
ミレイユは小さく息を吐き、視線を落とす。
「私の過去が、まだあなたに影響を与えたらどうしようとか、レオンが傷つくことがあったらどうしようとか…」
その言葉に、レオンはすぐに立ち止まった。そして、彼女の顔をしっかりと見据えた。
「俺が傷つくことなんて、気にしなくていい」
彼の声は、確信に満ちていた。
「お前と一緒にいることで傷つくようなら、それは俺が何か間違えているからだ」
その言葉に、ミレイユは驚き、そして胸の中に温かいものが広がるのを感じた。
「レオン…」
「だから、お前が怖いなら、俺が怖がらせないようにする。ただ、それだけだ」
レオンはそう言って、ミレイユの手をしっかりと握りしめた。
「一緒に、歩いていこう」
その一言に、ミレイユは心の中で大きく頷いた。彼の言葉には、揺るがない信念と強い意志が込められている。そして、彼女もまた、その信念を受け入れる覚悟ができていた。
「うん、一緒に歩こう」
二人は再び歩き始めた。今、二人の間には、かつてないほどの信頼と愛情が確かに存在していた。ミレイユの心の中で、過去の傷が少しずつ癒えていくのを感じながら、レオンの手をしっかりと握りしめて歩みを進める。
この先、どんな困難が待っていようとも、二人で乗り越えていけると、確信が持てた瞬間だった。




