上司の菊さん
彼に断りを入れて、僕は早めの休憩に入った。あのままでは泣き崩れてしまう、そう感じたからだ。彼は待機室にあるキッズスペースで遊んでいる。クレームにはならないだろう。きっと。
「落ち着いたかな?」
上司の菊さんが缶コーヒーを差し出しながら尋ねる。ありがとうございますと感謝を伝えながら飲めないコーヒーを受け取り、先ほどの対応を振り返る。
もっと単純な、簡単な回答だと思っていたのに。
「はい。先ほどは、すみませんでした。」
「数値化できない項目だからな。在宅出来ずに残念がっていただろう?」
「ははは、バレてましたか。」
数値化したらきっと彼の人生は不幸せだったということになるだろう。健康な、不自由のない身体を持っている子と比べれば仕方のないことだ。しかし、彼は幸せだったと言っていた。自分は間違いなく幸せだと。それは両親から周りの人から溢れんばかりの愛を受け取っていたからだろう。
他愛のない会話を数回繰り返し、僕は彼の元へ戻った。彼は同い年ぐらいのこと遊んでいる。
「瑛太くん、お待たせしてしまってごめんね。書類の作成を続けようか。」
「だいじょうぶだよ!そうだ、おにいさん このこもいっしょにいい?」
ガリガリに痩せこけた少年がぺこりと頭を下げる。マニュアルには1人づつ対応と書いてあったが、相手は子供だ。少し悩み、お名前を伺うことにした。
「夏目…龍姫です。」