欲張りと欲張り
飛竜から無事に逃げられた僕たちはそれ以上の緊急事態に陥っていた。いや、正確に言うのならば僕一人なのだが。
「オロロロロ……」
荷台から顔だけ外に出して今日の朝ごはんも昼ごはんも余すことなく大地に還元していく。
「相変わらず盛大に出すねぇ。絶対に荷台では吐かないでくれよぉ」
「そう思うのならもう少しスピードを緩めてもらいたのだが……」
我が天敵、車酔いだ。旧文明の遺産である車は移動速度や距離、どれをとっても有能なのだが車酔いだけはいただけない。日頃から危険地域で活動している冒険者ならばともかく、僕のような温室育ちの人間には耐えられたものではない。
「博士も毎度慣れないもんだな。その無駄に優れた脳みそで吐き気止めでも作れないもんなのかい?」
「すでに作成して服用済みだよ。それでこの始末さ……」
エスの運転技術は帝都でも頂点に入る腕前らしいが、とにかくスピードを出し過ぎる。今のような平常時はもっと丁寧に運転してもらいたいものだ。以前そう言ったらへそを曲げた彼女のご機嫌取りに苦労したので言うつもりはないが。
そんなこんなで快適とは言えない道中だったが、無事帝都へと帰還することができた。護衛任務の報酬を受け取った近くの酒場へ打ち上げに行くという。車酔いを理由に断った僕は自宅兼研究所に帰り、さっそく飛竜のタマゴの観察を始める。
「さて、どうやったら飛竜のタマゴは孵化するのかな?」
魔物の生態は未知に包まれている。今回の飛竜のタマゴで言えば孵化するメカニズムが分からない。飛竜自体はトカゲの派生とも呼ばれている。そのため放置しておけばそのまま孵化する気もするのだが気になる目撃情報が報告されている。タマゴをもった飛竜が火山地帯で姿を現すのが確認されているのだ。
火山地帯に行くからにはタマゴを温める必要があると考えられるのだが、頻度と温度が分からない。もっと細かな情報が知りたいのだが、火山地帯の平均温度は60度。あまりの高温で火山地帯をメインに活動する冒険者がほぼ存在しない。ゆえに情報が足りない。
ちなみに飛竜のタマゴは沸騰した水で3日間茹でると温泉卵が作れるからマグマにつける案は考えられない。
タマゴの殻をコンコンと叩きながら頭を悩ませる。そこでふと一つの考えが頭をよぎる。飛竜のタマゴは非常に強度が高く、殻自体も分厚いため温度が伝わりにくい。
そのため外部の温度変化は孵化に関連するのではなく、カメなどのようにオスとメスを分ける為ではないかと。
この仮説に気付いた僕はこう思った。もう1つタマゴが欲しい。
思い立ったが吉日。すぐさま酒場へ足を運び楽しそうに飲んでいる二人へ告げる。
「もう1つタマゴが欲しいから護衛でついてきてくれ。」
「ええっ……さっき戻ったばかりだよねぇ。なにより今は食事中だよぉ。別の冒険者に当たってくれないかぁ?」
「そうだぞ博士。なによりエスは長距離の運転で疲れてるんだ。また今度にしてくれ。」
「前金で50万、依頼を完了したら追加で100万出そう。」
「行くぞエス。すぐに支度しろ。」
「博士任してくれぇ。巣の位置もわかってるし、三日で終わらせたらぁ。」
やはりこのコンビは扱いやすい。
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