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小学3年生の頃、僕は6年生の男子2人からいじめを受けていた。いじめの内容としてはすれ違いざまの暴言(「バカ」「なんで学校来てんの?」「うざい」「死ね」など)や、蹴る・叩く・石を投げられるなどの暴力だ。
そんなある日、僕は帰り道に周りからクスクスと笑い声がするのに気づいた。何がおかしいのか。何かついているのか。そう思いランドセルを背中側から前に持ってくると、
「僕は女子トイレに侵入しようとして失敗したおバカさんです」
と書かれた貼り紙が貼ってあった。どうせあいつらがやったんだろうと僕は考える。
そのときふるさわ菓子店のミドリおばちゃんが通りかかり、
「侑也くん、学校お疲れ様。辛かったでしょう」
と頭を撫でてくれた。そしてミドリおばちゃんは僕のランドセルから貼り紙を剥がし、くしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てる。こんな僕にも味方してくれる大人がいると思うと嬉しかったのだ。
*
時が過ぎ、僕は高校2年生になった。決して目立つ生徒ではないし友達も少なく、昼休みは屋上でギターを弾くのが日課だ。
母親が新聞を読んでおり、小学生時代に僕をいじめた上級生のうち1名が恐喝で逮捕された件を教えてくれた。ゲームセンターで中学生相手にカツアゲし、5000円をかすめとったという。20歳になったそいつは実名報道もされていた。
僕はその頃にそいつのXのアカウントを発見してしまったけれど、そいつは高校に行かずに飲食店で働いていたそう。働いていた飲食店で店長と喧嘩して解雇されたことや、何かやらかして罰金を払う羽目になったのか「誰か10万円貸して」と綴っていた。母親にそいつのXを見せると、
「10万円くらい働いて稼げば良いのに」
と呆れ返っていたのだ。元いじめっ子が上司と揉めて職場を解雇され、SNSで他人に10万円貸してくれと言うまで落ちぶれていたことに僕は何も言えなくなった。そうこうしているうちに時間になったので、家を出て学校に向かう。
「はい席に着けー、ホームルーム始めるぞ」
担任の中島先生(40代男性。英語担当)の一言でホームルームが始まる。
「今日から転校生が来るが、大阪から来たそうだ」
中島先生が大阪からの転校生の存在を知らせると、教室内がザワザワし出した。男子か女子かとか、イケメンか美女かとか、大阪からなんでこんな福岡の田舎に来たのかとか、誰が転校してくるのかとか、そんな話で持ちきりだ。
「古澤さん、どうぞ入って来てください」
中島先生の一言で、古澤という転校生がドアを開けて入室した。