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2-04 まるまる

ギャグ寄りの怪奇譚。バッドエンドにはならない。表面上はお嬢様な2人の女子高生が行く和風異世界。少女2人は帰る事が出来るのか。色々な意味で。


 好き。嫌い。結局私には分からない。

 そこにそうあるのが好ましい。

 この姿が私に求められている。


 私はそこにいてそこにいない。

 そこにいい感じのスペースがあったから埋まっただけ。

 欠けに埋もれて全て丸にしたい。


 そうすれば私は私の居場所を得られるでしょ?




「ねぇねぇ、知っている? あの噂!」


 女子の噂話。休憩時間のざわめき。よく分からない話。誰それが何それした。

 求められているのは共感だけ。私が本質的には理解できない共感だけ。

 本当はどうでもいいのに、すごいとか悲しいとか、本当は思ってもいない事、適当に求められているだろう感想を垂れ流す。


「どんな噂だっけ?」


 いい感じの関係を築く。できれば。できないけど。

 私はせいぜいちょっと近くにいたクラスメイトくらいの立ち位置にしか立てない。

 野次馬はしやすい距離感。当事者にはならない距離感。


「屋上の鏡の噂! 階段の一番上の踊り場の物置のスペースにある!」


 珍しい。怪談かな? 人間以外が話題になる事があるんだ。

 いや、結局はどこそこの誰かがそこで何かを見たで終話するんだろう。

 大丈夫。期待はしていない。期待ができない。


「あ、あそこね! あそこで何があったの?」


 声や表情は相手のテンションに合わせる。

 つまらないと思っていても、退屈だと思っていても、集団の中にいる以上は合わせる必要がある。

 雰囲気を悪くしても何もいいことはない。平穏無事な学生生活をするなら大事な事だろう。


「食べられたんだって。ここ最近不良のビースケ見ないでしょ? あそこの鏡から伸びてきた手が引きずり込んで帰ってこないらしいの。見たのはあのいじめられっ子のエータ。ビビって騒がなかったの。先公は不良のビースケだからどこに行ったとしておかしくない、どこかからふらっと戻ってくるだろうと放置決め込んでた。ビースケの親はあの親だからね? たぶんいつからビースケがいないかもわからないでしょ。私の記憶の限りだともう2週間は来ていないの! ヤバくない? ヤバいでしょ?」


 2週間消息不明。なかなか長いし騒ぎにそこまでなっていないのスゴい。

 状況的に心配されにくいのがいなくなったものだからか? だとしてもではないだろうか?

 いや、だとしても色々おかしい気がする。大人達は何か知っていて隠している?


「ヤバいね! 私ちょっと気になっちゃった!」


 わくわくしちゃう。


「え~? シロ姉、いつもよりも目キラキラじゃん! 行っちゃう? 行っちゃう?」


 この娘……なかなかのメンタリティ……。イケる口ね。

 まぁ、私にこうまでガンガン絡みに来てくれるのはこのアオちゃんくらいなのだから変わり者なのは知っていた。

 私、自分が浮いているの流石に自覚してますから! そんな私に好き好んで絡んでくれる段階で面白い娘でしょ!


「放課後空いてる?」


「もちろん!」




「時間あったし色々と噂を調べてみたよ! 日差しがあの鏡に当たる時、この場所にない光景が見えるんだって」

「異世界系? 怪談系から雰囲気が変わったわね」

「あとあと! お琴みたいな音がたまに聞こえてきたりとか!」

「怪談要素の比重があがったわね……。鏡の中にお社とかあるのかしら?」

「おっ! 当ったり~! そういう話もあったよ!」

「そこまで色々と要素があるなら観光地みたいになってそうね……」

「それがねぇ、一度見るとなかなか思い出せなくなるんだって。具体的に聞くと思い出せる様になるというか、その単語を聞くまではそんなことがあったというのを覚えている事ができなくなるらしいの。もしかして先公もそんなこんなで触れられなくなっているのかもねぇ~」

「そういうの、もっと早くに言いなさいよ。まぁ、聞いても行くけど」

「あはは! ごめん、ごめんねぇ~!」


 夕闇。赤い日差しが照らす階段を足音少なく上がる2つの影。

 なんかこうやって書くとエモい気がする。気がするだけ。

 心ばかりの武器として図工室から工具箱を拝借してきた。

 一応先生にはちょっと加工したいモノがあるから貸して? と許可はとってある。

 日頃いい子ちゃんしているし、成績は優秀なので簡単に許しはもらえた。


「けっこうしっかり準備したよね?」

「何があるか分からないけれど、男子が帰って来れない状況なんでしょう? それなら武器は大事でしょ」

「その肩パッド? も?」

「捕まれた時にこの釘が刺さってひるむかもしれないじゃない」


 段ボールに釘を刺して、甲冑でいう大袖の形にちょっと加工してみた。

 先生方に工具箱を借りた言い訳にもなる。

 段ボールを分解して、ビニール紐で結わえた力作である。

 肩部分だけしか時間がなくて作れなかったけれど2人分作ったのはファインプレーではないだろうか?


「シロ姉って意外とお茶目さんだったんだねぇ」


 生温かい目で見られている気がする!

 そんな……! 普段読書をしたりして高めた知的なイメージが壊れていく!

 知的なイメージだと多少さめた事を言ってもそういう性格として扱われやすいから気楽なのに!


「あら? 私の事をどう思っていたの?」


 イメージの転落を避けるためにもお上品ムーブを!

 お蝶婦人になりなさい! 上品にパワー系!

 華麗に! 繊細に! でもパワフルに! 落ち着くだけのお嬢様じゃないの!


「天然さん?」


 時すでに遅し。


「そ、そう……。ちなみに私のどこを見てそう思ったのかしら?」


 横に立つこの娘はいい顔をしている。

 ……マジマジと見たら完成度の高い顔をしててすごいと思った。

 なんかすごい娘だな。この娘。


「色々あるけど……よく手に持った物を見ながら固まってるところ? なうろーでぃんぐ! って感じなところ! あ、目的地到着ー!」


 ……よくと言われる程私は固まってるの?


「……布がかけられているのね」


 ナイロン製と思われる光沢のある厚手のカバー。

 隠されているだろう鏡は四角く大きい。高さは2mくらいありそう。

 体育館とかで飾られている事がある様な鏡だろうか?


「じゃあ、剥ぎ取りしよ!」


 某狩りゲーか!  なんか猫っぽいな!


「ねぇーね! そっち持ってー!」


 こんな妹が欲しかった……。いや同い年なのだけど。

 数ヶ月の付き合いだけどこんな娘なの、今日初めて知ったよ!

 他愛もない雑談レベルの会話しかしてなかったからね!


「は〜い」


「いっくよー! よっこいしょ!」


 それでも布は剥ぎ取れません。

 角のところに引っかかって簡単には取れない様子。

 ファスナーの類もなく、布地の重みがそこそこあるので、これをどうにかするのは至難の業でしょうか。


「取れないね」「ね」「諦める?」「ここまで来てそれはないでしょ?」「どうしようか?」「とりあえず端から中身を窺いましょ」「だね」


 端。端と言われても布地の端は下しかない。

 なので私は下から潜って鏡を見る事にした。

 埃っぽいし、暗いし、変な臭いもする。


 鏡は扉が着いているタイプだった。観音開き。

 幸い? 前にカギが着いていないか、開いていたかで、扉は少しだが開閉する。

 私はカバンを前面に抱えて扉を開いた。


「げへ」


 乙女の口から出てはいけない声が出た。

 なんか引きずり込まれた気がする。

 倒れ込んだ時にカバンがめり込んだ。


「がはっ!」


 上にさらに何か乗って、意識が一瞬遠くなった。

 乙女の口から出てはいけない声がまた出た。

 なんか柔らかくて熱いモノが上に乗ってる気がする。


「あたた……あれ? ここどこ?」

「……私の上ですわ……」

「シロ姉! ごめんね!」


 死ぬかと思いました。


「アオさん、ここどこだと思います?」

「あの鏡の中? シロ姉を追って中に入ったしたぶんそう!」

「ですよねぇ」


 草木と共に目の前には古びた御堂の様な建物がありました。

 御堂の中から綺麗な細い手がこちらに向かって手招きしてます。

 握手しましょうか。


「シロ姉? シロ姉?」

「何かしら?」

「ちょっと止まろ? 止まって考えよう?」

「待たせてしまうのは可哀想でしょう?」

「が、ガンギマってる……!」

「何を今更。それにここの事を詳しく知っていそうではありませんか?」

「意外と考えてた?!」

「騙される化かされるにしても、一度見てみましょう? 私が戻らなかったら……頑張ってくださいね?」

「頑張れないよ!? ムリだよ! 私も行くよ!」

「命の保証は出来ませんよ? 死ぬよりも酷い目に遭うかもしれませんよ?」

「覚悟決まり過ぎだよ!? いつキメたの?!」

「……小学校低学年くらい?」

「なんでなのよ!? 早いよ?!」

「まぁ、とりあえず行きますわね」

「あぁ……もう置いてかないでよ!?」





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