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2-24 ****しないと出られないダンジョンに閉じ込められたが、脱出条件がわからない

探索しなれた筈のダンジョンで、突如外に出られなくなった冒険者たち。ダンジョンは****の条件を満たしていないとシステムメッセージを出してきた。だが、どういうわけか、肝心の条件の文字が見られない。今、危険なダンジョンに閉じ込められた男女が、生き残りと脱出を賭けて、条件の発見と達成を目指す日々が始まる。はたして彼らは****することが出来るのか!?


 『最果ての地』と名乗る一組の冒険者たちが、ダンジョンの出口で騒いでいた。

 迷宮を攻略するパーティでは深層組に位置する、冒険者ギルドでも知られた実力者たちだ。


 少なくともダンジョンの出入り口で屯するような者たちではない。

 後たった数歩足を進めれば地上へと出られるというのに、四人組の男女は、焦った様子でその場から動こうとしない。


 ――否、正確には動くことができなかった。


 ダンジョンと地上とを繋げている何も無い空間の橋から端まで、目に見えない不思議な壁が脱出を遮っていたのだ。


 パーティーのリーダー役をしている青年アレスは、鍛えられた太い腕でガシガシと頭を掻いた。

 いつもと変わらない探索だったはずが、なぜこんなことになったのか。


 努めて冷静さを保とうとしているが、その目には焦燥が浮かんでいた。

 あまりにも予想外にすぎる。


 高身長の体から伸びる長い手を、壁の向こう側へと伸ばそうとするが、その手はあるところでピタリと止まり、どう動かし探ってみても、向こう側へと進むことはなかった。

 手のひらの感触は不思議な硬さが伝わってくるが、だからといって叩いて音がするわけでもないし、殴って拳が痛くなることもない。


「くそっ、マジで一歩も出られないぞ! なんか見えない壁がある」

「どうなってるのよ! これまでこんなこと起きたことなかったじゃない!」

「ふええ……私たち、一生このままなんでしょうか?」

「どきな、アタシがぶち破ってやる……! でりゃああああっ! ……くっダメだっ! なんだコレは!」

「嘘だろ、ルビーの剣戟でも歯が立たないのか。オリハルコン製だぞ」


 パーティの前衛剣士役、ルビーの鋭い一閃が放たれたが、やはり手応えも音もなく、そして変化も起きなかった。

 深層の金属製ゴーレムでさえ力任せに圧し切ることができるルビーの攻撃だ。


 ダンジョンの壁には、壊せるものと、どうあがいても壊せないものに分けられる。

 この不可視の壁も後者のようだった。


 ダンジョンに閉じ込められるなど、想定外も良いところ。

 リーダーを見るメンバー、フェン、リルル、ルビーの目にも、色濃い焦りに塗れている。


 すでに深層まで長時間の探索を終えた後ということもあり、体力、気力を消耗していた。

 食料をはじめとした物資もかなり使ってしまって、心許ない。


 浅い層であれば敵など物の数ではないとはいえ、ダンジョンから出られないというのは大問題だ。


「わたくし達、このダンジョンに閉じ込められてしまったってこと?」

「そうなるな」

「ど、どうしてこんなことにぃ」


 リルルが絶望的な声をあげて屈み込み、頭を抱えた。

 天才的な回復魔法の使い手だが、彼女は元々気弱な性格で、やや打たれ弱いところがある。


 本来ならばフォローする必要があったが、今はアレスも余裕がない。

 軽く肩に手を置くぐらいしかできなかった。


 魔道士のフェンはイライラと出口を歩き回り、蹴りを放ったり、小さな魔法を放ってなんとか事態が解消しないか試していたが、どれも効果を得られずに、ますます焦りを強くするばかりだった。


 物理的にも魔法的にも、どうにかなる問題ではなさそうだ。


「フェン、落ち着けって」

「落ち着けですって!? これが落ち着いていられるって言うの! わたくしたち、ダンジョンから出られないのよ! 一体いつまでかも分からない! 一生この薄暗い穴蔵の中で暮らさないといけないかも知れないのよ!」


 自信家にして傲岸不遜、どんな難局も自分の魔法で切り抜けてきた、いつもは頼りになるフェンだが、動揺のためか激昂している。

 黒い瞳が、不安げに揺れていた。


 その瞳の奥に渦巻く魔力の青い炎が今にも立ち昇りそうだった。

 これは……ヤバい。


 魔力暴走を起こして辺り一帯を火の海か雷の雨になりそうな気配だ。


 アレスはフェンの鼻先を指で押した。

 フェンが目を見開いて、指をはたき落としたが、少なくとも冷静さを取り戻すことには成功する。


「な、何すんのよ!」

「魔力が暴走しかけてるぞ」

「あっ……ゴメンナサイ」


 彼女は理由があって極大の魔力量を持つかわりに、その制御がどうしても乱れやすい。

 特に精神の均衡を欠いた状態では、非常に危険だった。


 ルビーはまだかろうじて平静を保っているが、今のままだと士気が崩壊しかねない。

 地上への脱出を目前に控えていたというのに……。


 そんな時に、ふとアレスは壁に目をやって、変化に気づいた。

 ただの装飾だと思われていた壁の一部に、何らかの文字が浮かんでいる。


 迷宮で時たま見られる異世界や超古代文明の文字だ。


「ん? ちょっと待て……なんか出口の脇に、なにか表示されてるぞ。これは古代文字の一種、か……? リルル、読めるか?」

「は、はいぃい……。えと、えと……。『貴方がたは****をしていないため、退出できません』だと思います」

「ちょっと、それじゃ何が条件か分からないじゃないの!」

「で、でもでも! 私が悪いんじゃないです! 元々文字がちゃんと表示されてないんです!」

「文字が表示されてない……?」

「遺跡の不調なのか、この文字盤がおかしいのか分かりませんが、そこだけ文章が欠けてるみたいなんです」

「そうか……。とはいえだ。何らかの条件を満たしていないからダンジョンから出られない、ということが分かっただけでも進展があった」

「なら、後はその条件を満たすだけってことだな! アタシたちに不可能はないんだ。ちゃっちゃと条件を満たしちまおうぜ!」


 ルビーの豪快な声に、リルルもフェンも、多少は安心を取り戻した。

 まったく、いつだって前向きで豪放磊落なルビーには助かっているが、これじゃ誰がリーダーだかわからないな。


 アレスは苦笑いを浮かべながらも、彼女の前向きな姿勢には助かっている。


「で、リーダー。アタシたちがどうやって解決するか、道筋を示してくれよ。それがあんたの仕事だろ」

「分かった。俺に任せろ。……そうだな、まずは他の冒険者たちが出入りできるかどうかの確認だ。俺達がここにいて結構経ってる。そろそろ別のパーティが出入りしてもおかしくない」

「ほ、他の人達が出入りできたらどうするんです?」

「ギルドに連絡してもらって、問題の解決を探ってもらえるし、支援物資だって出してもらえるかも知れない。他の冒険者に助けを呼べるかも知れない」

「なるほどね。たしかに。じゃあ全員出れなかったらどうするのよ」

「その時はみんなで条件を探る。力を合わせれば出るのも早くなるだろ。どっちにしろ、この問題が俺達だけに起きてるのか、みんなに起きてるのかは、最優先で確認しておかなきゃならない」

「アンタの言う通りだね。さすがはリーダー、判断が早くて助かるよ」

「しかし、一番いいのは条件がさっと分かることなんだが……ダンジョンを出るのに必要な条件ってなんだ……?」

「や、やっぱり攻略、でしょうか……最深部まで到達して、ボスを倒すとか」

「普通に考えると、それが一番可能性が高いのかも知れないな……?」


 とはいえ、その条件ならこれまでに普通に出れていた理由がわからない。

 アレスたちは何度も何十回も、このダンジョンに挑戦して進行を伸ばしてきたのだ。


 いまさら脱出させなくなるのだろうか。


「俺達は必ず無事にダンジョンから脱出する。これは約束だ。俺が責任を持って、みんなを地上に帰らせる。だから、それまで頑張ろう! 協力しよう!」

「仕方ないわね。全力で協力するわ! わたくし、街の観劇でまだまだ観ていない公演があるんですの、絶対に帰りますわ! 一緒に周りたいお店とか、食べたいものとか一杯あるんですもの!」

「わ、私も頑張りますっ! アレスさんと一緒ならきっと解決できるはずです!」

「アタシも協力するよ。こんな穴倉の中でずっとなんて、ゴメンだからね」


 不安に染まっていたメンバーの瞳に、力強い輝きが戻った。

 こうなれば、自分たちのパーティに解決できない問題はない。


 これまでだって、どんな危機的な状況も打破し、生き残ってきたのだから。

 しかし、****の条件が一体何なのか。


 その答えには、まるで見当もつかなかった。

 もしかして、この答えにピンとくる人はいるのだろうか……。

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