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2-16 毒舌女と心霊スポットに行ったらオモっっクソ呪われた話

【この作品にあらすじはありません】

 深夜二時と十三分。蒸し暑い梅雨の夜だ。もう街灯の光しか頼りがない夜道を俺は歩く。

 なぜこんな時間に出歩いているのかというと、友人と待ち合わせをしているのだ。もう数分歩いていくと目的の場所だ。見えてきた目印の電柱にひっそりと佇む、ながくて華奢な影。


「はぁ、ようやくきたか……」

「すまん。ちょっと遅れた」

「遅すぎ。十五分の遅刻だよ、ソウヤ」


 女性にしてはハスキーな、芯の通った声が聞こえる。

 影の正体、呆れた様子で溜息をつく彼女の名前はケイカ。俺の通う大学の悪友である。美しく整えた金髪ショートとすらりとのびた長い手足。誰がどう見ても爽やかなイケメンというか、つまり美人である。


「まったく、深夜に女の子を一人で待たせるなんて君はどういう神経をしているんだい?」

「まじでごめん、ちょっと寝てた」

「このアホ、バカ」

「ご、ごめんて……」

「カス、ハゲ、粗○ン、マゾ、包○、童貞」

「ごめんごめんっ! ほんと悪かったって! てか見たこともないのに勝手なことを言うな!」


 どうやらだいぶご立腹のようだ。よく見たらケイカは瞳にうっすら涙を浮かべていた。どうやら待ち合わせの約束をすっぽかされたと勘違いしたらしい。あと俺は別に粗○ンではない。


「ふんっ、まぁ少し言い過ぎたかもね。でもボクが怒るのも無理はないと思うけど?」

「……それはそうだな」


 そう、彼女が言う通り怒るのは無理もない。涙目になるのも頷ける。

 その理由はこの場所にあった。

 閑静な住宅街から少し外れた場所。梅雨特有の生温い外気も相まって妙に不気味に映るその場所は――

 殺人物件。数十年前にバラバラ殺人事件があった曰くつきの廃墟、心霊スポットだからである。


 なにを隠そう俺達は、『肝試し』をしにきたのだ。


***


「暗っ! ガチでお化けとかでそうだな!」

「ソウヤ、うるさい……動画も回してるんだしさ……」


 懐中電灯であたりを照らす。埃っぽくて薄汚い。廃墟の中に入った俺達は中を散策していた。


「まったく君は今しているのが不法侵入っていう自覚がないの? 通報されたらボク達お縄なんだよ?」

「ごめんて……」


 通報されたらアウトの犯罪行為。俺達にはそれを自覚してもなおこの肝試しをしなければならない理由があった。

 足を踏み出すとギシギシと嫌な音がなる。それに紛れてケイカがぼそりと呟く。


「今警察に捕まるわけにはいかないんだ……どうしても……」


 心霊スポットに来た理由。まぁ、有り体に言えば俺達には金がない。まったくだ。ケイカの実家は貧乏な母子家庭で高校生の妹もいる。しかし、なんとか金を工面し奨学金も利用して母は彼女を大学に行かせたがどうも妹のほうはキツイらしい。

 そのせいもあってどうも自分が大学に進学したせいで妹が進学できないという罪悪感に苛まれている。

 そこで俺達が目を付けたのはたまたまテレビで応募していた心霊コンテストだった。そのイベントは視聴者から心霊写真や動画を募集し、大賞に選ばれると賞金がでる。その額、なんと五○○万円!

 妹の学費に充てるため、一攫千金に夢見たケイカは悪友である俺を引き連れて心霊スポットにやってきた次第である。とはいえ、思うところがある。


「メリットがないよなぁ、俺に」

「は? メリット?」


 事情が事情なだけに賞金は全てケイカのものだ。別に金が欲しいわけではないが、あまりに俺にメリットがない。


「おう、賞金は全部ケイカにやる約束だろ? なら俺のメリットってなんだろなって」

「ま、まあそれはそうだが……」


 根は真面目な彼女のことだ。なんらかのメリットを考えて俺に手伝わせる理由を提示するに違いない。ケイカは少し震えた声で答える。


「じゃ、じゃあキ……キス……とかどうだ……?」

「は? キスだと?」


 キス? なんだキスって。魚か? 馬鹿なのかこいつ。

 賞金の五○○万円の代わりに得られるもんが魚で良いわきゃないだろうが。馬鹿が。肉とかにしろや。


「バカお前、キスで足りるわけないだろお前」

「なっ……ばっ! キ、キス以上だとっ……! 君はどこまで貪欲なんだ……」

「は? 五○○万だぞ。五○○万」

「わ、わかった……くっ、しかたない……胸は……? 胸ならどうだ?」

「五〇〇万」

「ひっ……わ、わかった! なんでも願いをきいてやる……お前のやりたいこと……っ! 一つだけっ!」


 なんだかよく分からないがなんでも食わしてくれるらしい。言ってみるもんだぜ。伊勢海老、松坂牛どれにしようかしら。ケイカのやつすげー顔真っ赤だがそんなに俺に飯をおごらされるのが悔しかったのだろうか。


「うしっ、決まりだな」

「……ソウヤ、覚えとけよ……このバカ、変態、粗○ン、くそくそくそ童貞……〜っ!」


 なんだか悔しそうなケイカを横目に不気味な廊下を進んでいく。懐中電灯で周りを確認しながら進んで行くと階段があった。そういや、ここで起きた殺人事件は二階で起きたと聞いたな。


「おい、登ってみるか?」

「も、もちろん。ここからが本番だからね……」


 彼女も事件のことはあらかじめ調べてきてはいるらしい。階段の先は闇が深い。今までとは雰囲気がまるで違う。嫌な緊張感が走り、冷や汗がじわりと滲む。

 本能が警鐘を鳴らす。この先はヤバい。

 ケイカも流石に不安そうな表情をして、固唾を飲んだ。ゆっくり、階段に足を踏み出す。

 ぎしり、と古い木製の階段が耳障りな呻き声をあげる。階段を登りきると、目の前を懐中電灯で照らす。金属でできたドアノブが灯りに反射し、鈍く光る。どうやらこの先に部屋があるようだ。

 そしてこの先が例の殺人現場であろう。霊感なんてなくても分かる。この嫌な雰囲気の元凶がこの先にあることくらい。

 ドアノブをゆっくりと捻る。金属が鈍く擦れる音は小さな悲鳴のように聞こえた。俺達は恐る恐る懐中電灯で部屋を照らす。鬼が出るか蛇が出るか。しかし、そこには俺達の予想だにしていない景色があった。


 そこは――空室だった。


 なにもない。家具も、人も。ましてや化け物さえ。何も無い、ただ空虚な正方形の空室。しかし、それが気持ち悪かった。違和感。

 よく見るとある異常に気付く。ゴミどころか埃ひとつない。そんなことが、ありえるか……? 掃除した部屋でさえ埃くらいはあるだろう。しかし、この部屋には気持ち悪い程に、不自然に、なにもない。俺の心臓は異常を警告し動悸が激しくなる。


「おい、ケイカ!」


 俺はケイカの方へ振り向く。しかし俺は彼女を見て言葉を失った。

 彼女は、笑顔だった。見たことないくらいの満面の笑み。しかしその笑顔はまるで能面のように不自然に硬直していた。どう見ても異常だ。


「け……ケイカ?」


 俺は恐る恐る彼女の様子を伺う。

 彼女は笑顔のままこちらに振り向く。


「アアあアぁアアあぁアァあぁアぁ!!!」


 唐突に、ケイカは狂ったように叫びだした。恐怖でビリビリと皮膚が泡立つ。

 俺は、逃げ出した。全速力で部屋から飛び出した。そのまま階段を滑り落ちるように降りて家まで走り続けた。息が、切れる。ひゅうひゅうと喉が鳴る。見慣れた家を見ると、張りつめた糸が切れたように脚から崩れおちた。

 そして、脳によぎる。彼女を置いてきてしまった、ケイカはどうなったのだろうか。その不安が頭から離れることはなく、その日は一睡もできなかった。


 いつの間にか空が明るくなり、窓から太陽の光が差す。数時間も経つとなんとか心も落ち着きだしていた。

 そういや今日は朝から大学の授業がある。行きたくないし行く気もしない。だけれど家に籠っても仕方ないし、少しでも気が紛れるかもしれない。とりあえず出席だけはしよう。重い体を動かし、登校の支度をする。服は着替えず昨日のを着たまま、朝食も食べずにそのまま家を出た。


***


 大学に着くともう既に教室の席は結構埋まっていた。俺は周りを見渡す。席を探していただけじゃない。もしかしたら、ケイカもどっかに座っているのではないかと思ったのだ。しかし、ケイカの目立つ金髪の頭はどこを探しても見当たらなかった。


「……そりゃそうか」


 一気に罪悪感が押し寄せる。俺が、見捨てた。俺が置いていった。彼女がここにいないのは俺のせいだ。ごめん、許してくれ……ケイカ。こんなに罪悪感で苦しくなるなら、いっそ俺が死ねば――


「っぎりぎり間に合ったーっ!」


 勢いよく教室の扉が開く。聞きなれたハスキーな女性声。ふと声のする方を見ると正真正銘、ケイカだった。俺達は目が合い数秒、時間が停止する。


「けっけけケイカ!? お、おまえ無事だったのか!」


 嬉しさ、驚き、そして安堵。一気に色んな感情が襲い、教室で大声で叫んでしまった。


「あーっ! ソウヤ! 昨日ボクを置いていったでしょ!」

「えっ、ちょっ、それは……」

「本当になに考えてるんだ君はぁ〜!」


 どうやらご立腹らしい。とにかく異常もなさそうで、無事でよかった!でも何から説明すればいいんだ。ケイカも俺も、怒りや安堵が混ざり合い爆発する。二人共訳が分からなくなってる。教室にいることすら忘れて感情をぶつけ合う。一旦落ち着こうなんて思いつきもせず顔を真っ赤にして彼女は叫ぶ。


「ソウヤなんて、ソウヤなんて~~!」


 来る! いつもの罵倒……!


「天才、剛毛、巨○ン、サド、露○、非童貞~~!!!!!」


「罵倒が反転してるぅぅー-!!!!」


 異常ありだった。これにはケイカも自身の口から出た言葉に驚きを隠せず、目を丸くする。これ以上何か失言する前に俺は彼女の口を手で覆い、腕を引っ張って教室をでる。

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