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2-09 逃亡勇者と腹黒王女、世界の真実に触れた二人による大大大逆転劇!!!

高校一年生・鈴木遊馬はアーク王国に『勇者』として召喚された。昔から憧れていた異世界召喚ということでワクワクだった遊馬だが、ゲットしたスキルは『魔物の味方』。人間ではなく魔物と親しくなれる能力だった。

魔物の味方=人間の敵。裏切り者と見なされた遊馬は処刑される寸前、王女レティシアを人質にとり逃亡を図る。

だが、この王女がくせ者だった。毒舌、怠惰、腹黒の三拍子揃っていて、人間どころか魔物すらドン引きするレベル。

「もう用は済んだから帰っていいよ」

「今さら戻っても傷物扱いされるだけでしょ! あなたが責任取って養いなさい!」

「えぇ……」

行く先々で仲間になった魔物たちと共同体を運営する中、遊馬は世界の真実を知る。

王女が必ずしも『おしとやか』ではないように、魔物たちもまた『悪』ではなかった。そこに介在しているのは『設計者』の意志……。

逃亡から始まるシン・異世界冒険譚の始まり、始まり。

「我が名はゼニス、アーク王国の国王じゃ。日本の高校生・遊馬あすま殿、そなたはわが国の勇者として召喚された。女神より授けられたスキルをもとに活躍し、人類の敵たる魔王を倒してくだされ。無事討伐の叶った暁には、思いのままの褒美を与えましょうぞ」


 金ぴかの玉座から、白髪頭のおじいちゃんが語りかけてくる。

 立派なガウンや王冠、喋ってる内容からしても、異世界の王様ってことで間違いなさそうだ。


 そんでもって、俺は召喚勇者だと。

 召喚勇者には女神から特別なスキルが与えられると。

 魔王を討伐した暁には『なんでも』貰える特典があると。


「一般人なら動揺するとこだろうな。あるいは元の世界に戻してくれと泣きわめくか。だが、俺は違う」


 日本での生活に絶望していた俺は、異世界に渡っての一発逆転を狙って『予習』をしていた。

 学校帰りに友達と遊ぶでもなく、休み時間に誰かと話すでもない。ひたすらに異世界もののラノベや漫画を読みふける日々……け、決してぼっちというわけじゃなくだぞっ? あくまで予習だから、予習っ。


「――ゴホン。任せてください。不肖この俺、鈴木遊馬。どんな設定だろうと即座に対応、世界を救ってご覧にいれます」 

「設定……?」


 俺の言葉に首を傾げる王様の後ろから、一人の少女が現れた。

 その瞬間、パッとバラの花びらが舞うような感覚がした。


「まあ頼もしいっ、さすがは勇者様っ」

 

 十五、六歳ぐらいか。

 金髪はくりんと柔らかくカールし、透き通った空色の瞳には暖かな輝きがある。

 顔立ちはアイドル顔負けに整い、かつ上品。 

 淡いピンクのドレスの裾をつまむ姿は一幅の絵画のよう。


「初めまして遊馬様、私はレティシア。アーク王国第三王女です。どうぞレティとお呼びください」


 レティは優雅に一礼すると、俺の手をそっと握った。


「まあ力強い手……」

「ひょええぇーっ⁉」

 

 続いて、胸板をツンツン。


「胸板もぶ厚くて、男らしい……」

「うひょおおーっ⁉」


 思ってもみなかったボディタッチの連続に、愚息はもう爆発寸前。


「でも、いきなり魔王討伐というわけにもいきませんわよね。心と体の準備が必要でしょう?」

「ここここっ、心と体の準備とはあぁぁぁーっ⁉」

「ということで、ご紹介しますわ遊馬様。こちら、わが国の誇るS級冒険者パーティ『風の群狼』です」


 レティはさっと手を伸ばすと、広間の入り口付近で待機していた冒険者たちを指し示した。


 戦士に魔法使い、僧侶に弓使いとバランスのとれたパーティを従える赤毛の青年剣士アトルは爽やかな笑みを浮かべると……。


「初めまして、遊馬君。僕ら『風の群狼』が魔王討伐までサポートするよ。君は戦闘経験が無さそうだから、まずは僕らが弱らせた魔物を倒してレベルを上げる『パワーレベリング』をしてもらうつもりだ」

 

 アトルの説明によると、この世界にはレベルの概念があるそうだ。

 レベルが上がると自動的に能力も上がり、パワーレベリングすれば俺みたいな運動音痴でも一足跳びに強くなれるとのこと。


「ちなみに装備に関しては、王家伝来の逸品を用意させておりますわ」


 レティが手を叩くと、城の兵士さんが光り輝く剣や鎧を運んで来てくれた。

 心と体の準備ってこういうことか、エッ○なことじゃないんだ、とガッカリする反面……。


「すげえ……なんたる好待遇……っ」


 思ってもみなかった待遇の良さに、俺は歓喜した。

 きらびやかな剣と鎧に身を包んで、S級冒険者パーティに過保護すぎるほどのサポートをされつつなんの危険も無く魔王を倒して帰還して。

 チート系物語の派生系って感じかな。いいね、非常にいい感じ。


「魔王を討伐すれば、地位と名誉と金銀財宝と、あとは……」

なんでも(・ ・ ・ ・)思いのまま( ・ ・ ・ ・ ・)ですよ、遊馬様」

「うぎゃおおぉーっ⁉」


 俺の心を読んだかのように、肘に手を絡めてくるレティ。

 おっ○いをむにゅりと押し当て、香しい吐息を俺の首筋に吹きかけ……。


「もし意中の女性がいらっしゃるのなら、たとえそれが王族であったとしても……ね?」

「い、いやいやいやそこまでは考えてないですけどねっ⁉」


 ウソ、めちゃくちゃ考えてた。

 すべてを得た俺の隣にレティがいる未来を想像してめちゃくちゃ興奮した。


「まままま、まずはスキルの確認か。自分がゲットしたスキルってのはどうやったら見られるんだろう。やっぱ『ステータスオープン』とか?」


 口にした瞬間、ブオンとばかりに目の前にステータス画面が現れた。

 空中に光の文字で書かれた、異世界ものでよく見かける例のやつだ。


「まあ、何の説明も受けていないのにステータスを表示できるなんて、さすがは遊馬様」


 レティの俺アゲに、皆が一斉に同調する。

 

「すごい、なんて洞察力だ!」

「カッコいい! 抱いて!」


 俺アゲはいつしか俺コールへと変わり……。


「遊馬様! 遊馬様!」

「遊馬様! 遊馬様!」


 ホストクラブもかくやといわんばかりの俺コールが王の広間に響き渡る。


「いやあ~、さすがに照れちゃうなあ~。言うても俺、まだなんにもしてないからね? もちろん今後は勇者としてきっちりかっちりお役目を果たすつもりではいるけどさあ~」


 今この段階でこれなら、魔王なんか倒しちゃった日にはどんな反応が待っているんだろう。

 俺祭り開催、俺の日設定、俺像建立、俺ハーレム結成?


「いやあ~、さすがにバラ色の未来すぎて困っちまうなあ~」

「……遊馬様」

「ん~? どうしたのレティ? そんなに引っ張って」

「ここ見て、ここ」

「もお~、そんなに急かすなよ~。俺としてもファンの声援に応える義務がだねえ~」

「いいからさっさと見なさいっ」

「痛っ、え、なに急に?」


 今までとは打って変わって冷たい表情になったレティが、調子に乗る俺の頭を平手で叩いた。

 痛そうなお笑いコンビのツッコミぐらいにいい音がした。


「早くスキルを確認しろってこと? まあいいけど……今のは痛かったな……」


 ブツブツとつボヤきながらステータスを確認していく俺。

 ええと、上から順に……。

 名前:鈴木遊馬 性別:男 年齢:十六歳 ジョブ:勇者見習い レベル:一

 さらに体力や魔力などの項目が続き、一番下がスキル欄。


「スキル名は『魔物の味方』。スキル詳細は………………ん?」


 俺は思わず硬直した。

 だって、そこに記されているのはこんな文面だったんだ。


 スキル名:魔物の味方

 詳細:種族の差を超え、魔物と親しくなれる能力。

    君は魔物(・ ・ ・ ・)の味方だ( ・ ・ ・ ・)

 

 ええと……勇者ってのは魔物を討伐する側の人間だよな

 人間の敵である魔物の味方ってことは、逆に言うと……?


「あっはっは、おかしいな。こんなのまるで、俺が人間側じゃなく魔物側の……」

「ギ……ギ……」

「なあレティ、笑えるよな? この俺がまさかそんな……」

有罪ギルティですわああぁぁーっ!」


 レティは叫ぶと、ゴミを見るような目で俺を見た。

 

「ああもう! こんなことならサービスなんかするんじゃなかったわ!」


 ハンカチで自らの手や胸を拭くと、その場にペッと唾を吐いた。


「どこぞのヒキガエルみたいなおっさん貴族に貰われるより多少はマシと思って粉かけたら、まさか人類の敵だったとはね!」


 そういやこの人『第三』王女だっけ。

 にしても、最初のキラキライメージと落差がありすぎやしませんかね……。


「こんなゴミ、さっさと殺してしまいなさい!」 


 レティの指示を受け、風の群狼が一斉に動き出した。

 剣を抜き、弓を構え、魔法を唱え始めた。


 え、これマジ?

 王国有数の戦力が俺に向かってくるの?

 それってなんて無理ゲー?

 

「……死にたくない!」


 俺はとっさに、レティの脇腹に手をかけ引き寄せた。


「なっ、何をするんですのっ!?」

「うるせえ! とにかくこっちに来い! いいかおまえら! 一歩たりとも動くんじゃねえぞ! 動いたら王女様がどうなるかわかってんな⁉」


 しかし、思っていたような激烈な反応は無かった。

 むしろ顔を見合わせ、戸惑っている感じ。


 ははあ~ん、俺が平和ボケした日本人だと思って舐めてるな?

 まあたしかに、いきなり暴力行為をしろと言われても困るがな。


「ちゅーするぞ!」

 

 ということで、俺は切り札を切った。


「たしかに俺は弱い! 素手だったらそこらの子供にも勝てないかもしれない! でも女の子を辱めるぐらいのことはできるんだよ! いいのか俺なんかにちゅーされて、大切な王女様の貰い手がなくなっても!」


 しかし、やっぱり皆の反応は薄く……。


「クズだなあ……たしかにクズだが……」

「なんせ相手がレティ様だしなあ~」

「日頃の行いが行いだけに……」

「ぶっちゃけ飯ウマ、みたいな?」


 え、レティってこんなに人望ないの?

 仮にも王女様なのに?


「あ、あなたたちっ⁉」

 

 衝撃を受けるレティを引きずると、俺は広間の外へ出た。

 回廊を突っ切り、城門を抜けて街へ。

 人のひしめく通りを駆け抜け、街の外へ。 


「ちくしょう、まさかこういう設定で来るとは……!」


 介護付き魔王討伐旅のはずが、まさか人類の敵として追われる側に回るだなんて。

 しかも人質のはずの王女様はクズ認定みたいだし……。


「ええい、こうなりゃやぶれかぶれだ! 地の果てまでも逃げてやる!」

「嫌あぁぁーっ! たあぁぁすけてくださいましいぃぃーっ!」

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