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悪天候の山の中で

時間の過ごし方

作者: 鯉

「おかしいぞっ」


 暇を持て余した部員が突然、叫んだ。


「うるせぇな、なんだよ」

「センパイ、俺、台風とのエンカウントポイントは1ヶ月くらい先だと思ってたんですが!」

「ポイントだと地点だな。どちらかというと、シーズンじゃないか?」


 8月12日。とある山頂直下のテント場にて、俺たちは夏合宿中に直撃した台風のせいで停滞を余儀なくされていた。

 最悪なことに今回の班員は騒がしい後輩と、頭の固い同級生だった。


「どっちだっていいっすよ。あー暇だーっ」

「だからいちいち騒ぐな」

「そんなに暇なら、3人でクイズ大会でもしないか」

「「…………」」

「なんだお前ら、突然黙り込んで」

「いや、さ。お前がそういう提案をするとは思わなくて」


 つい本音が漏れてしまった。


「……センパイ、とりあえずやるっすよ。第1問!」


 お前からかよ。


FFファイナルファンタジーIXの7レベルモンスターのうち主人公が一番最初に遭遇する確率の高いヤツの……」

「知るかっ。どうせ出すならもうちっとは分かりやすいものを出せよ」

「その通りだ。僕が手本がわりに、気の利いた台風に関連した問題を出してやる。――とある口コミサイトでディズニーシーのアトラクションランキングをやったんだが、その時ストーム……」

「分かるかっ。そうだな、お前は確かに隠れディズニーファンだったな、忘れてた俺が悪かったよ」


 少しむっとした石頭は不満そうに言い返した。


「人に文句ばかり言ってないでお前が簡単なやつ出してみろよ」

「そうだそうだ、簡単にしすぎたセンパイの問題なんて一瞬で答えてやるっす」


 調子に乗る後輩。いいだろう、絶妙な難しさの問題を出してやろうじゃないか。


「電話線を流れる電圧を答えろ」




 隣のテントから騒ぎ声が漏れ聞こえてくる。


「この大雨強風を通り抜けて聞こえるって、どんだけ騒いでるんでしょうね」

「そんなことを聞かれてもな」

「比べて、僕らはなんて暗いんでしょうね。陰鬱としか言いようがないとは思いませんか」


 確かに言うとおりだ。こちらのテントでは非常用装備の古新聞を回し読みしていた。テント内の雰囲気は実に、暗い。しかしその新聞は僕が持って登ったものだ。


「せっかくの好意にケチをつける薄情な後輩に、読ませる新聞はない」

「あっ、ごめんなさいすみません、もう言いませんから暇つぶしを取らないでください」


 2人しかいないテントにて、相方の後輩をいじめる先輩。実に陰湿だった。




 片方のテントからは騒ぎ声が絶えず、もう片方は死んだように静かだ。どうやら班員の人選を間違えてしまったらしい。


「あっ、先輩ぼやっとしないでください。こぼしてます」

「……おう、すまん。つい、な」


 一方、我らがテントでは浸水被害を少しでも軽減しようと、スパム缶で雨水を掻きだしていた。もう2人いる部員と先生も一緒になって必死に荷物を濡らすまいと作業していた。


「せっかくトランプが2組もあるのに、1日中濁った水を相手にするんじゃつまらないですね」

「そうだな」

「……そこの2人、口はいいから手を動かせ」

「はい先生。……だそうだ、バケツリレーするから汲んでくれ」

「分かりました」


 くみ出してもくみ出しても、入ってくる水の勢いが止まらず作業は一向に終わりそうになかった。

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