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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第一章
5/50

5.「ごめんね」

「……」


バスの中は騒がしいけど、僕のシートだけはとても静かだった。


それは、彼女が席に着いた途端、テーブルをガチャガチャと出して突っ伏して寝てしまったからだ。


「しきー」

「……こら、酔うから、顔出さない」

「ちぇー、」


バスの前の座席から顔を出す友達にそんな事を言って、前を向かせる。

れいちゃんが隣に居るとはいえ、こう静かに眠っているだけなら、この席は意外と心地が良い。

…けれど、勿論死んでる訳ではないから時々もぞもぞと動くし、やっぱりちょっと落ち着かなかった。


「ちょっと渋滞あるみたいだから、予定押すかもしれないからなー」


先生の声をなんとなく聞いているうちに、僕の意識もだんだん遠くなっていく。

今日は早起きだったからか……今のうちに寝ておこう…。



****



「ん……?」


ガタンッ、という振動に目が覚める。


……そうだ、ここはバスの中だ。

あんなにうるさかった車内も、半分くらいの人が眠っていてかなり静かになっている。

バスはというとちょうど渋滞のど真ん中というように、たくさんの車に囲まれて動いたり止まったりを繰り返している。


「……」


ふと気になって隣を見ると、れいちゃんは肘をついて外の方を見ていた。

顔こそ見えないが、きっとぼーっとしているんだろうなと思って少し近づいてしまうと、ガラスに写ったれいちゃんと目が合ってしまう。


忘れてた……なんて思っているうちにれいちゃんは振り向いたが、思っていたのと違い凄く不快そうな顔をしていて思わずビクッとしてしまう。


「……っ、」


あぁ、そうだった……僕は彼女を突き飛ばして……。


『普通の人』なら、何も思わない事は無いだろう。

僕が勝手に彼女のことを異質だと思ってるだけかもしれない。

…いや、異質ではあるのか、前はそもそもいきなり抱きつかれたから突き飛ばしたんだし、そもそも何で僕がこんな思いをしなきゃいけないんだ。


「……」


僕も睨み返そうとしたけれど、なかなか上手く出来なくてただ見つめ合うみたいになってしまってるように感じる。


でも、彼女は相変わらず不快そうな顔のままで、まるで具合でも悪いかのように不健康に青ざめていた。


……ん?


「…ねぇ、体調悪い?」

「……悪い…」

「えっ、……ちょっと、言えばいいのに、」


聞けば言うから強がってる訳でも無いんだろうけど、本当に体調が悪いなんて思わなくて、少し戸惑ってしまう。


「前列行く?」

「……別にいい…」

「…ちょっと待って、」

「……」


僕は思わず、リュックから酔い止めを出して1粒渡していた。


まぁ、だって……これはしょうがないだろう。

隣が誰であろうと、酔い止めくらい持っているならあげる程度の優しさはある。


れいちゃんは受け取って、しばらく眺めた後、僕の方を見てきたので、


「薬。ドロップタイプだから口入れて舐めてれば良いんだよ」


と言うと、れいちゃんは遠慮がちに口に入れて、「甘い」とだけ言った。


…すぐに言われたのを忘れてガリガリと音を鳴らして噛み出したけど、この際これは別に良かった。


れいちゃんはすっかり食べ終えると、少し考えるような仕草をしてからリュックを漁り出す。


「……?」


何してるんだろうと思わず覗き込むと、急にれいちゃんはバッと顔を上げて、「はい」と、僕に拳を向けてきた。


反射で手を出すと、それは僕の手の上に移される。


「……なにこれ、リボン?」


僕の手元には、プレゼントを包んでるような、チープなリボンだった。


「うん。……あげる。」

「え……ありがとう……?」

「……ん、」


そう言ってれいちゃんはまた調子悪そうに肘をついて話さなくなった。


「……外」

「……」


僕がつぶやくと、またれいちゃんはこっちを向く。


「酔った時は外の……遠くの山とかの方見れば良いって」

「ん……」


れいちゃんは僕の言った通り外に視線を向けた。


…ワンポイントアドバイスまでしてしまった。


でも、謎のプレゼント以外は…なんだかんだでいつもクラスメイトとしているくらいの距離感でいられて、少しほっとする。


……ただ、ほっとしただけだ。


それよりも、変なリボンを貰ってしまったけれど、どうしよう。

クラスメイトから貰ったもの…キーホルダーとかならポーチやリュックにつけておくけれど、こんなに使い道が分からないものを貰うのは初めてだ。


けど、彼女に悩まされてばかりではダメなんだ。

そもそも今日の僕は忙しくてそんなこと考えてるヒマはないんだし、とりあえずそっとそれはそっとポケットにしまった。



****



「えー、各自部屋に荷物を置いて、45分後にここに班ごとに集合!」


バスから降りる頃にはれいちゃんもすっかり体調は戻ったようで、いつものような表情と態度でひとまず安心した。


「しきー!部屋行こーぜー!」

「テレビあるかなー?」

「……うるさくしないでよ、」


さっそく集まってきた同じ部屋の友達と一緒に部屋に向かう。

勿論班とは違う男女別の部屋割りだから彼女が少し心配だったけれど、振り向いた時にはもう居なかったから、同じ部屋の友達に連れて行って貰ったんだろう。


第一心配した所で僕がどうにかできる訳でもないので、同じ部屋の友達と一緒に階段を登る。


「なー室長ー、この後何だっけ」

「えー、メシじゃね?」

「……何で僕を見るんだよ、合ってるよ」

「マジ?!菓子食いすぎて腹減ってないんだけど!」


今日は予想外の事故渋滞という事もあって、到着がかなり遅れてしまったから、イベントを挟まずにもう夕食だ。


幸いカットされたのはレクリエーションの時間とかではなく、歴史の授業の延長線みたいなものだったから、同じ部屋の友達は別に残念そうにはしていない。


「おー!広ー!」

「テレビあんじゃん!」

「俺コンセントんとこー」


部屋に着くと、友達はみんなわきゃわきゃとはしゃぎ始める。

部屋はいかにも修学旅行の部屋というような、少し広めの和室だ。

それでも男子高校生6人が詰め込まれるは少し手狭なようにも見えるけれど、意外と足りるもんだ。


「とりあえず、荷物置いて色々チェックするから……しきも手伝ってー」

「はぁ……何を?」

「おー、さっすが学級委員ー」

「班長と室長、被っていいなら絶対お前じゃなくてしきがやってたよなー」

「正論うるせー!」


やけにテンションの高い友達に飛びつくように絡まれて、ごちゃごちゃになりながらそんな話をする。


…僕は別に、器量はいい方だから、した方がこういう感じでまとめ役を買われたりとか、何かと後々人望とかで役立つ事をやってるだけなんだけれど。

でも、どうせやるなら頼られて悪い気はしない。


「こうき、テレビつけちゃダメだってさ」

「えー?!マジ?なら置くなよなぁ?!」

「ドンマイー」


雑談して中々手が進まない友達を急かしながら支度をしていると45分なんてあっという間で、僕らの部屋は結局ギリギリにロビーに着いた。


「えー、食事係は先行って支度、後は班ごとに1回集まって健康チェック」


先生の声で、別の班の友達は「じゃーな」と自分の班に移動して、残った同じ班の友達と班員を集める。


「あれ、黒木さんは?」

「え……」


辺りを見回すが、それらしい影は見つからない。


れいちゃんは女子の中でも背が高い方だから、少し目立つしこんなに見つからないことも無いだろうに。


「黒木さん、どの部屋だっけ?」

「……302だった気がするけど…」

「302?あー、じゃあ室長日菜子かー」

「えっ…」


『日菜子』と言えば…れいちゃんとあんな事があった奴だ。


なんだか嫌な予感がするけれど、やっぱりみんな大体はれいちゃんの味方では無いらしい。

何かヤバそうとかなんて思っても声に出さないし、なんなられいちゃんの方が手を出しそうとさえ思ってそうだ。


…いや、実際起きたことからだとみんなの想像の方が正しいんだ、僕がなんとなくれいちゃんのことを気にかけてしまうだけで。


「えーっと、とりあえず探す…?多分揃わないとご飯食べられないだろうし、」

「……僕が簡単に探してくるよ、一斉に動くと集合が面倒だし」

「マジごめん……頼んだわ…」

「ん、」


何か問題があって来れなかったとして、他の人か見つけても色々騒ぎになるだろう。

それに、……できるなら自分で見つけて、いい加減この気持ちをはっきりさせたかった。


「……れいちゃん」


僕は彼女を探して、いつかのようにまた走り出した。

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