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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第一章
4/50

4.「どうして?」

「……えっ、」


教室に入ってきた影を見て、辺りがびっくりするほどざわっとする。


れいちゃんと教室を出た数人のうちの1人。

それが友達に囲まれて、泣きながら頬を抑えて入って来たからだ。


…こんなの、何があったかなんて聞かなくても明らかだ。


だって、さっき僕を突き飛ばしたと思われてる子と女子数人が出ていって、その子…れいちゃん以外がこんな感じで帰って来ているんだ。


こんなの……救いようがない。


「日菜子っ!」

「日菜子、大丈夫?」

「酷いね……保健室行こう…」


案の定泣いている1人を教室中のみんなが囲んで慰め出す。


そのうち、当たり前と言えば当たり前だけれど、ちらほらとれいちゃんのことを疑うようなざわめきも出てきて、僕はその様子に何故か居ても立っても居られなくなって、


「っ……ちょっと、僕出てくる」

「は、しき?!」

「大丈夫、確認するだけだから…」


と、それだけ言って教室を飛び出した。


「れいちゃん!」


勢いに任せて出れば、もうヤケだった。

走り回って探し回ってしていると、僕の声が聞こえたのか廊下の端かられいちゃんは少しだけ顔を出して覗いた。


「っ……!」


僕が走って側まで行くと、彼女は申し訳無さそうでも、困っているようですらも無く、ただいつものようにそこに居た。


「何……何やってるんだよ……」


僕は何故か凄く悲しくなってしまって、その場に崩れ落ちる。


僕はきっと……心の中で思ってたんだ。


彼女は表現が苦手で不器用なだけで、きっと手を出してしまったことに対して何かしら思っていて、でもそれが言えなくて、1人残されて心細くしているんじゃないかって。


…なのに、違ったんだ。

彼女は本当に、今の一連の出来事に、何も思ってないんだ……。


「……」


歯にぐっと力を入れて、俯いて顔を歪ませて居る間も、頭上辺りにずっとれいちゃんが立ちすくんでいる気配だけがある。


…黒木さんって、呼んでれば良かった。

一瞬のざわめきにしておけば良かったのに。


そんな事を思っていたら、急にふわっとした感覚があって、僕はれいちゃんに抱きしめられていることに気づいた。


「……は、?」


あまりにも突然で、突拍子もなくて。

他の人の匂いに、そんなに暖かくない肌で、でも体温はやっぱりちゃんとあって、


「っ……やめ、やめてよ」


ドンッ…


……嫌だった。

彼女の存在が僕の中で大きくなっていたから、これ以上かき乱すだけかき乱されて、僕をどうにかさせられるのは嫌だった。


だから、僕は抱きしめる彼女を強く突き放した。


…彼女は転んだのか、泣いたのか、怒ったのか、それともさっきみたいに…何も無かった様な顔で居るのかは分からない。


それを見ないように、僕が走って逃げたからだ。


これ以上、期待させられたり、失望させられたり……もうたくさんだった。

干渉されたくなかった。

こうなるから、友達に深入りする事なんて無かったのに、よりによってあんなに分からない人に、こんな深入りされてしまうなんて。


…もう辞めよう。


彼女との距離は、友達より遠くて他人より近い、そういう距離でいればいい。

僕と彼女はただの頼れる学級委員と転校生、彼女が転校生で無くなれば、ただのクラスメイト。


最初からそのつもりだったんだから、……だから、この溢れそうな涙に、意味なんて無いんだ。

……意味なんて、無かったことにすれば、それで良いんだ。



****



「……ただいま」

「おかえりー、今日早いわねぇ」

「うん、委員会の仕事とか無かったから」


家に帰って、母さんと少しだけ会話を交わして自分の部屋に入る。

今日は疲れた。

本当はいけないけれど、熱っぽかったとでも言えばいい、本当に勉強も身支度も手が付かなくて、ベッドにうつ伏せになったまま動けなかった。

……あぁ、気分が悪い。

何も考えずに寝てしまいたいのに、頭がぐちゃぐちゃで寝付けない。

どうせなら、あれが暴力沙汰として問題になって、またどこかに転校して行けば良いとさえ思ってしまう。

本当に、何で期待してしまったんだろう。

他人に期待したって、良いことなんて何も無いのに……。

……そんな事、僕が一番分かってたはずなのに。


「っ……」


もうこれ以上考えたくなくて、ぎゅっと目を閉じると、まぶたの奥で、彼女にあの目でじっと見られているのを思い出してしまって、本当にどうしようも無くなる。


うめき声を枕に押し付けて押し殺しながら発していると、リビングから、


「お兄ちゃんもご飯できたわよー」


と、声がする。

あぁ、行かなきゃいけないのに。

行かなかったらめんどくさいって分かってるのに、どうして器用に生きられないんだろう。


……どうして僕は、器用に生きなければいけないんだろう。


「……」


自分で地雷を踏んで、もう粉々になって、その後はよく覚えていないけれど、ベッドに沈み込むようにして眠った。


次の日、僕は本当に微熱を出して1日休んだ。



******



「はーい、班長、点呼とって先生のとこに報告ー」


…あっという間に修学旅行の日になってしまった。


僕は班長だからみんなより少し早めに集合場所に行って、寒い風に吹かれながら準備しなくちゃいけなかった。

けれど、寒さと忙しさで頭なんて回す暇なんて無いから、逆に快適に過ごせた。


「……4班、全員居ます」


…れいちゃんはと言うと、今日もいつも通りの調子で、少し遅れてやってきた。


あの後の学校での様子は……意図的に見ないようにしていたから、孤立してるのか、和解してるのかも、分からなかった。


…だから、この修学旅行を機に、僕はれいちゃんとの距離を端と端のクラスメイトくらいの、丁度いい…正常な、『普通』な関係に戻すんだ。


そうして早く、安心したい。

もう期待しないように。


「あっ、しきー、ちょっと」

「?……はい」


先生に呼ばれて、僕は離れた所に連れて行かれる。


「これ、」

「?……薬ですか?」

「…あぁ。黒木の母親から預かっていて、本人に持たせると忘れてしまうからって」

「はぁ…」


言うに、本当は先生か保健医の人がやる予定だったけれど、先生は夕食前後は忙しくて、保健の先生は違う人だから生徒の薬の管理とかはお願いできず、班長の僕にお願いしたいらしい。


「……はい、わかりました…。」


……大丈夫、このくらいなら、僕はただのクラスメイトの薬を預かるってだけなんだから、何もおかしくない。


「ありがとう、助かるよ…しき、」

「いえ、」

「……ん、じゃあ班長、頑張れよ!」

「……はい」


機嫌良く先生に送り出されて、僕は班の並びに戻って、預かった薬を落とさないような所…リュックの中の小さめのポケットに入れた。


「しき、何だった?」

「ん?あー、頑張れよって」

「しきだけ?…あー、それって…」


話していた友達は、不自然に列の後ろを振り向いてから苦笑いを浮かべる。

…その視線の先は、間違いなくれいちゃんだ。


でも、違う、そんな事を言いたい訳じゃ無いのに。


やっぱりれいちゃんはあれ以来、こうやって異物として消費され続けてるのだろうか…。


「……それより、忘れ物してない?酔い止めとか自分の分しか持ってきてないから」

「あっ!やべー、持ってきたっけ?」

「あー!ウチ、日焼け止め忘れたぁー!…誰か貸してぇー」

「なー、お前いくら持ってきた?」


僕が話題を変えると、持ち物とかの話に変わっていく。

何となく、他愛もない話の中のひとつとして消費されるのは見てられなかったし、何て言ってその話題に入ればいいのかも分からなかったからだ。


「おーい、バス来たぞー」


先生の声が聞こえると、みんなは班ごとに分かれて次々とバスに乗り込んでいく。


「……な、しき大丈夫?」

「何?」

「え、だって……バスの隣さ、」

「……大丈夫だよ。」


…そうだ、彼女は僕の隣の席になってたんだ。

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