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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第二章
32/50

32.「きこえる」

「れいちゃん?」


一連が終わった後、れいちゃんは僕を壁際に座らせて、隣に座って最初つねられた時と同じ体制にした。


僕が声を掛けるのに反応もせず、れいちゃんは目を閉じてまだ冷たい……でも暖かいような気もする空気に包まれて、目を閉じてしまった。


「……」


こんな所でお昼寝…とも思ったけれど、目を閉じて眠りそうにしている彼女が眩しすぎて、それに僕を隣に置いたって事は、一緒に寝ていいのかなって思って、嬉しくなって僕も目を閉じた。


(ちょっとだけ、れいちゃんの匂いする)


しばらくするとれいちゃんの頭がこてんと乗っかってきて、でもれいちゃんは僕より身長が高いからその体制は少し首が痛そうで、僕は目を開けて少し考えた後、膝枕をする事にした。


(髪さらさらだなぁ…)


れいちゃんの長い髪を撫でるように触っていると、何だか変な気持ちになって来そうで、慌てて手を離して目を瞑って僕も寝ようとした。


(なかなか眠れないもんだなぁ……)


ざわざわとした気持ちを放棄するように、僕はぎゅっと目を閉じた。



****



「ん……?」


冷たい風に撫でられて目を開けると、いつの間にか眠って居た様で、もう日が暮れそうになっていた。


「……あれ、れいちゃんは?!」


意識がはっきりして来ると、途端にれいちゃんが居ないことに気づいて眠気も一気に覚める。


「れいちゃん!……れいちゃん!」


ちょっと大きい声を出して呼びかけてみると、遠くの方の草陰からヒラヒラと手を振っているのが見えた。


(れいちゃんだ。良かった……)


僕は酷くホッとしてその手の振られた方へ行くと、夕焼けが水面に反射して、キラキラと綺麗な輝きを見せる川があった。


「わぁ……これ見てたの?」

「うん」


僕達はそれ以上言葉を交わさずに、その綺麗な景色をずっと見ていた。

長いこと居ると、段々それは無くなっていって、辺りが暗くなる。


僕達はしばらく立ちすくんでいたけれど、暗くなりすぎると危険だし、僕の方から「そろそろ帰ろう」と言った。


「うん」

「じゃあ僕着替えるから」

「うん」


僕は予め持ってきておいた替えの長袖長ズボンの服を着る。

あいつには殴られてる事を言ってないし、明らかに暴力振るわれた後の、目立つ格好で帰るのもいけないから、あいつが来る前からもこうしていた。


「よっ……と……いたた…」


服を脱ぐと、布地と擦れて怪我の部分が痛い。

僕はささっと応急処置をして綺麗な服を着た。

れいちゃんはその間色んなものを眺めて時間を潰していた。


「……おまたせ。帰ろっか」

「うん」


僕が差し出した手をれいちゃんは握る。

帰る時は、いつの間にか手を繋ぐ事になっていて、僕はこの時間も狂おしいくらい好きだった。


「……電車の音だ」

「そうだね」


遠くから音が響いて来る。

れいちゃんは音に対しても敏感と鈍感の差が激しいから、僕が話し掛けても気づかない時もあるのに、こんな小さな音に気づいたりする。


「れいちゃん、旅行してみたいとか思う?」

「うーん……わかんない」


普段は「うん」とかしか言わないけれど、ちゃんと違う答えも言う時があって、そういう時にちゃんと自分の意識のある人間なんだなって、ちょっと微笑ましく思う時がある。


「手冷たいね」

「うん。……しきはあったかい」

「あはは、僕体温高いから」


こんな感じで、ほんわかした会話をゆったりしていると、あっという間に家に着いてしまった。


ここからは、……3人だ。

僕達2人の時間は終わってしまう。


「……れいちゃん、最後に一回…良い?」

「ん?…ん、」


僕が顔を近づけると、れいちゃんも顔を近付けてキスしてくれた。

途端に頬があったかくなって、冷まそうとしても中々覚めなくて困っていると、れいちゃんは家のドアを開けようとする。


「待っ……」


ガチャガチャ…


「……開かない」

「あれ?あいつ居ないのかな。……仕方ない、鍵、鍵……」


鍵が閉まってるって事は、出掛けてるって事だろうか。

それともあいつが用心深いだけ?


「あった……。よっ…と、」


僕が鍵を開けると、律儀にも全部の電気が消された状態で、家はもぬけの殻だった。


(もう家に戻ったとか?)


そんな事一瞬思ったりしたけど、ちゃんと彼の荷物もあって、それは無いか……と少し落胆する。


(それにしても、こんな時間に出掛けて…)


「わっ!」

「わっ?!」


考え込んでいると、いきなり後ろから驚かされてびっくりする。


「あはは!引っかかったぁ!」

「っ……何だよ、あんたか……」


一瞬、その無邪気な物言いにれいちゃんの影を感じてしまって、慌てて気を取り戻す。


「……こんな時間までどこ行ってたんだ?」

「ん?あー……ちょっとショッピングにね。服見に行ったんだけど、良いのが無くて何も買わずに帰ってきちゃった」

「……よく喋るね」

「あはは、よしてよ」


僕が訝しげに睨むと、そいつは「怖い怖い」と笑う。

彼はいつもこんな感じだ。

お調子者の皮を被って僕には中身を全く見せない。


たまにれいちゃんの方を見ている時のあの表情が、本心なのかなと思う時はあるけれど。


「で、そっちはどうだったの?」


そう聞かれて、そう言えば言い訳を考えて居なかった事に気がつく。


「……別に、あんたに言う筋合いは無いよ」

「あっ、そんな言い方して」


咄嗟の嘘は粗にしかならないと思って、とりあえずそう言う。

するとそいつはギリギリ納得したような物言いで、これ以上は聞いて来なかった。


「……じゃ、僕は夕飯作るとするか。れい、手洗っちゃいな」

「うん」


そのまま、そいつはそんな感じでキッチンの方に向かった。

お互いちょっと違和感のある感じだったけど、これ以上は仕方が無いので詮索しなかった。



****



「いただきます」

「…いただきます」

「……ます」


相変わらずの言い方をするれいちゃんにちょっと苦笑しながら、料理を口に運ぶ。

相変わらず美味しいけれど、それを口に出すのは面白くないから何も言わなかった。


「テレビ付ける?」

「うん」


しばらくだんまりで食事が続いた後、そんな感じでテレビがついて食卓は形ばかりのにぎやかさを取り戻す。

元々自分から喋るタイプの人間が居ないからか、ほとんど会話が交わされる事無くみんな食べ終わる。


でも不快では無い沈黙で、ちゃんとゆったり出来て良かった。


「れいちゃん終わり?」

「うん」


僕と違って彼はれいちゃんが食べられる分だけよそうタイプで、こじんまりとした盛り付けをれいちゃんはちょうど良さそうに完食してソファーの方に移動して行った。


「……」


れいちゃんが居なくなると、空気は少し重くなる。

ちょっと居心地は悪いけど、それは僕が彼のことを好きじゃないからだ。


「……ご馳走様」


僕の分も僕がおなかいっぱいになる分が分かるのか、ちょうど良い量が毎回盛られていてこればっかりは降参せざるを得ない。

きっと英才教育を受けてきたんだろう、僕と違って地頭と器量の良いタイプだ。


「はぁ、」


僕が思わずため息を着きながらソファーの端っこに座ると、あいつも食べ終わったらしい、食器を片付ける音がする。


「……」


しばらくカチャカチャと言う音を聞いた後、彼はこっちに来て、「よいしょっと」と言ってソファーに座る。


「お疲れ様くらい言って欲しいなぁ」

「……昨日は僕がやっただろ」

「その時僕言ったよ」

「……はぁ。……お疲れ様、これでいい?」

「ん、ありがと。……れいも?」

「ん?……うん」


こんな感じの会話が終わると、しばらく3人でぼーっとテレビを眺めて居た。

そして、しばらくその空気が続いた後、急にそいつは「ねぇ、」と僕達に話しかけた。


「……何?」


僕が聞くと、そいつは笑顔で、


「明日は僕が、れいと出掛けるから」


と言った。

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