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僕と彼女の歪んだ『愛』とその日々  作者: センセイ
第二章
31/50

31.「ひさしぶり」

「……同じ、れいの『モノ』として」


あの男の言った事が頭から離れない。

あの、見るからに俺様キャラと言うか、自己中野郎みたいな奴が、れいちゃんの『モノ』だなんて……。

しかも、僕と同じ……。


「おまたせー!これで荷物最後だから」


……しかも、誰よりも多く荷物を運び入れて。


「業者を呼ぶなよ、バレるだろ!」

「怖い怖い。……大丈夫だよ、引越し業者くらい」

「っ……」


いざとなったら出ていけば良いだけの立場にあるその男は、大胆な行動を気をつけようともしない。

その業者が家に子供だけなのを不審に思うかもしれないのを、こいつは……。


「ほら、これで最後なんだから、怒らない怒らない」


そう言ってそいつの最後の荷物……アルバムのようなものが運び込まれたら、業者はさっさと撤収してしまった。


「言っとくけど、あんたは客間暮らしだからね」

「うん?……あー、良いよ?」

「はぁ……」

「でも」


そいつはそう続けてれいちゃんの肩を抱き寄せる。


「おい!」

「れいはどっちで寝るのかな?」

「っ……僕の方に決まって……」

「でもそれって不公平じゃない?」

「はぁ!?」


妬ましさと、れいちゃんより背が高いから肩を抱けるんだって羨ましさで眺めていたら、急にそんな話になって、慌ててれいちゃんを引き剥がす。


……何でこんなやつに譲歩しなくちゃいけないんだ。


「不公平、不公平ってさぁ、……あんただって、小さい頃かられいちゃんと知り合ってたんだろ?……それと寝る所でおあいこで良いじゃんか」


僕がそう言うと、そいつは少し考え込んでから、


「確かに一理あるね。……いいよ。寝るのはしきのベッドね」


いつの間にか呼び捨てし始めるそいつだったけれど、何か企んでるんじゃってくらい素直にOKした。


その後、料理当番とか掃除当番とか決めて、家事全般、何でも出来ると言ったり、れいちゃんに乱暴しなかったのもあって、ようやく僕もギリギリ同居を許せた。


「よろしく、しき」

「……よろしく」

「れいもまた、よろしくね」

「…ん、」


僕らはこの日から、3人暮らしになった。



******



そいつの居る日々は、意外と暮らしやすくて、暮らしにくかった。


「映画見てるの?一緒に見たいなー」


映画中もれいちゃんにちょっかいは出さずに、普通に見ていたし、


「今日はイタリアンだよ」


何か、海外の色んな所に留学してたとかで、そっち系の料理が上手いし、


「おやすみ」


れいちゃんに夜這いとかも……されたら困るけど、して来なかった。


「……」


けど、そいつが居る事で困ると言うよりは、人が居て困ることがあった。


それは……れいちゃんとの殴る蹴るが一切出来ないって事だ。

僕は一週間殴られて無いだけで、びっくりするほど不安になったし、何故か欲求不満にもなった。


「どうしたの?不味かった?」

「いや……別に」


夕食中、そいつに声を掛けられて、何だかバツが悪くなってそっぽを向く。

やっぱり、この家に僕ら以外の人を入れちゃダメだったんだ…って、今更ながら後悔してしまう。


「僕、お風呂…」

「ん、行ってらっしゃい」


残りを勢いよくかっこんで、僕は風呂場へと向かう。

とりあえず今は……2人になれないなら、1人になりたかった。


シャー…


シャワーを出してイスに座る。


「はぁ……」


大きなため息が出た。


そう言えばそいつが来るまで、れいちゃんはほとんどお風呂に入らなかった。

入らなかったと言うより、入りたがらなかったら入らせて無かったから、痒そうになって自分から入るかびっくりするほど汚れた時だけ入っていた。


それを知るとそいつは驚いて、毎日入らせるようになった。

僕とそいつの違いは、完全に彼女の意見を尊重するのか、尊重しつつもさせることはさせるかだ。


「……」


でも、そんな事してたら、……もしれいちゃんがめんどくさくなって、ここが嫌いになってしまったらどうしよう。


最近は殴られてもいないのに。


殴……


「っ……」


そこで一気に今まで殴られてた時の感覚とか、距離の近さとか、…その後のとかを思い出して、一気に体が熱くなる。

そう言えば、そいつは僕達が最後までは行かなくとも…恥ずかしい事してたって、知ってたじゃないか。


…知ってて邪魔するように居座ってるのか、分からないけど……。


僕は結局、れいちゃんの匂いの残るお風呂で自分を慰める事しか出来なかった。



****



「まぁ良いよ」

「えっ…」


次の日、もう不安で我慢出来なくて、2人だけで出掛けて良いか聞くと、以外にもあっさりとOKが出た。


「れい、おいで」

「…なに?」

「しきがれいと出掛けたいって」

「へぇ。…良いよ」


れいちゃんも安定の返事をして、「どこ行くの」とも聞かずにあくびをしながらぺたぺたと服の置いてある所に行く。

れいちゃんは制服以外ちゃんとした服を持っていなかったから、引っ越した時に僕がこっちで買ったものを着ている。

着替えてきたのも、僕がそのくらいの歳の子に合うようなコーディネートを一式して貰って買ったものだ。


「行ってらっしゃい」

「……行ってきます…」

「ます」


彼に見送られて、僕らは家を出る。

寝る時はそうなんだけど、昼間は2人きりになる事はほとんど無くて、今日は帰るまでれいちゃんと一緒なんだと思うと心が弾む。


「れいちゃん」

「…なに」

「カラオケかあそこの草むらか橋の下、どこが良い?」

「えー…どこでも」

「そっかぁ」


選択肢で何となく何をするか分かっただろう、れいちゃんは場所を選ばなかったけれど、どこも嫌とは言わなかったので少し安心する。

それと同時に、やっぱり殴らないとれいちゃんは僕と居てくれないんだから、ちょくちょくこうやって出ないといけないんだと思うと少し怖かったけど、それを思うと気分が良くなる自分も居た。


「じゃあ、ここから一番近い…橋下にしよっか」

「うん」


僕達は無言で移動する。

聞きたい事は色々あるけれど、話題で何を出せばいいのか分からないし、そもそもれいちゃんがあんまり会話するのを望んでないからだ。


「……」


春風なのか知らないけど、まだ少し冷たい風がれいちゃんの髪をさらってなびかせる。

れいちゃんは、同居人が増えた事もあって交代で世話係がついたので、びっくりするほど身だしなみがちゃんとしている。


あいつの担当の時は、最近はメイクまでされ始めてる。

……途中で飽きて逃げちゃったりもするけど。


(うわ、甘い匂いする…)


そんなれいちゃんのつやつやにとかされた髪からは、本来のれいちゃんの匂いをかき消す程の、女の子がつけてるような甘い香りがした。

これもあいつがやったんだろうけど、これだけはあんまり良いとは思わなかった。

僕は甘い匂いのれいちゃんより、れいちゃんの匂いのれいちゃんが好きなのに。


ジャリッ…


「あっ、着いたね」


そんな事を考えながら歩いていると、目的地の誰も居ない橋の下に着いた。


僕は荷物を下ろして座り込む。

すると、れいちゃんも隣に座ってきた。


「殴らないの?」

「ううん」


れいちゃんはそう言って、隣に座っている僕の頬をぎゅにっと引っ張った。


「ひたたた…」

「…あははっ」


れいちゃんはいつもの笑い方で、でもいつもより小さめに笑ってから手を離して立ち上がった。


「あっ、れいちゃん靴…ぐっ」


靴を脱ぐ様に言おうとしたけれど、そのまま蹴られてしまってもう良いかと思ってされるがままになる。

思えば殴られてる時が一番、れいちゃんが僕に積極的になってくれてる気がして、…それで嬉しいんだ。


いや、それ《《も》》と言う方が正しいか。


僕は殴られた後キスされたり、ちょっとえっちな事をされたりするからか、殴られるだけでその触られてるのが嬉しくて、いつの間にか気持ち良く感じてしまったり、反応してしまったりするようになってしまった。


ここまで来ると本当に変態…いや、ドMだ。

でも他の人に殴られたいとも思わないから、れいちゃんに対してだけドMとかいうめんどくさい人間になってしまったのかもしれない。


「っ……かはっ……!」


とにかく、僕達のそれはいつも通り、でもちょっとだけ優しく続いた。

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